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新人たれ~転生者はヒキニートを目指す~  作者: 笛伊豆
第二章 1歳児

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19.えみちゃんというのか

 言い忘れていたけど、やっと目に続いて耳も聞こえるようになってきた。

 というよりは聞こえる音を区別出来るようになってきたというべきか。

 そう、言葉を言葉として認識出来るようになった。

 ちょっと前までは母親や保育士の話し声は雑音だったんだけど。

 今は意味がとれる。

 耳というよりは脳の機能だと思う。

 単なる音と言葉を区別出来るようになったわけだ。

 前世で読んだ転生物の小説(ラノベ)では見たことがない話で、人間の声を音じゃ無くて言葉として捉えるには訓練というか練習が必要なんじゃないかな。


 文字と一緒で、教えて貰わなければ字が書いてあっても変な模様にしか見えない。

 増してその繋がりが文章として理解出来るようになるまでは相当かかりそうだ。

 だから僕が読んでいる年少組用の絵本も絵の他に一文字とか、せいぜい単語が書いてあるだけだった。

 「うさぎ」とか「いぬ」とか。

 僕は何気なく読んでるけど、普通の乳幼児だったらこれを理解するのは大変そうだ。

 それで気づいて見てみたら、時々保育士の人が年長組の子供に絵本を読んであげている。

 一緒に坐って絵と文字を指さしながら「ねこ」とか言っていたりして。

 正式な教育じゃないけど、その程度のサービスはやっているようだ。

 もちろんいつもは忙しいので、たまたま手が空いた時くらいだけど。


 僕が絵本を読んでいると何か言いたげにこっちを見ている理由が判った。

 迷っているんだろうな。

 僕はまだ年少組だから、本当言えば絵本なんか読めるはずが無い。

 そもそも絵本を両手で持ってページをめくること自体、無理だ。

 でも熱心に読んでいるわけで、ご指導していいものかどうか悩んでいたりして。

 そのうちにこっちを見なくなったので、保育士の人たちの間で結論が出たらしい。

 無視(スルー)。

 ひょっとしたら母親に相談でもしたのかも。

 僕としてはほっといて貰えればむしろ助かるからいいんだけど。

 そうやって日々を過ごす内に、僕も成長して歩くどころか走れるようになった。

 といっても我ながらトテトテだけど。

 保育士さんたちの様子からみて、やっぱり僕ってちょっとおかしいみたい。

 普通の一歳児は駆け回ったりしないのか?

 転生物の小説(ラノベ)主人公になってきているのか。

 かといってわざと無能なふりをするというのもね。


 それでちょっと困っている。

 というのは託児所? にある絵本を年長組用のものを含めて読み尽くしてしまったんだよ。

 中には4~5歳児用の絵本なんかもあって、それも含めて制覇してしまった。

 保育士さんたちの間では僕は禁事(タブー)になっているみたい。

 本当に絵本を読んでいるのか確かめようとして話しかけてきた人もいたけど、僕は敢えて無視した。

 神童(ギフテッド)扱いは嫌だ。

 かといって無知なふりをするのも面倒くさい。

 ということで読むべき絵本がなくなり、保育士さんたちからは遠巻きにされているせいで暇だ。

 どうしたものかと思っていたら、ある日母親が僕を送ってきたついでに園長先生? と長々と話していた。

 その時はそのまま会社に出かけたんだけど、翌日僕が朝食を終えても一緒に出かけなかった。

 何で?

 すると母親が「スーちゃん、今日からへるぱーさんが来るけどいい?」みたいなことを聞いてきた。

 ヘルパー?

 お手伝いさんか。

 僕が黙っていると母親は「いいこね」みたいなことを言ってしばらく遊んでくれた。

 会社行かなくて良いの?

 しばらくして母親が部屋を出て行ったかと思うと知らない人を連れて戻って来た。

 ヘルパーさん?

 いや、女の子では?

 一歳児が言うのも変だけど。

 でも見た限りでは成人しているようには見えない。

 前世の僕の感覚では女子中学生、いやギリ高校生といったところか。

 制服じゃないから判らないけど。

 母親はその人とちょっと話してから僕に紹介してくれた。

 何でも遠縁の娘さんで近くに住んでいるのだそうだ。

 近いと言っても近所というわけではなさそうだけど。

「これからこのえみちゃんがスーちゃんのお世話をしてくれるから。

 といってもお昼の用意くらいだけど」

 そう言って引き下がる母親。

 えみちゃんというのか。

 その女の子というか女性はきちんと僕の前に正座すると言った。

「はじめまして。

 はぎわらえみと言います。

 ひすいちゃんのまたいとこくらいかな」

「もうちょっと遠いわよね」

 母親が付け加えた。

 よく判らないくらい遠い親戚らしい。

 それより今何て言った?

 「ひすい」か。

 それが今世での僕の名前らしい。

 今までずっとスーちゃんと呼ばれていたから、澄子とかそういう名前だと思っていたけど。

 「ひすい」がどうして「スーちゃん」になるんだ。

 まあいいけど。

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