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新人たれ~転生者はヒキニートを目指す~  作者: 笛伊豆
第二章 1歳児

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9.甘くて美味しかった

 転生したヒロインが魔法学園で同級生の王子様に馴れ馴れしく話しかけたり腕を組んだりしてしまうって、ある意味当然なんだよね。

 それがヒロインの「常識」だから。

 日本の女子高生だったからというよりは、むしろ地球の「常識」だろうそれ。

 少なくとも女子高生の世界では。

 転生して礼儀(マナー)とか教えられても付け焼き刃だろうし。

 王子様が同級生にいたら普通に話しかけてしまうのも当たり前。

 その結果として悪役令嬢に注意されたら、それって虐めだよ。

 だって自分以外の同級生(クラスメート)全員が悪役令嬢に味方するんだからハブられているのと一緒だ。

 そして王子様やイケメンたちは当然美少女の味方をするから乙女ゲームになる。

 いや、それがどうしたと言われればそうなんだけど。

 でも今のここが日本だったとしたら、僕の「常識」とそんなにかけ離れたりしていないはずだ。

 ぱっと見たところ、文明進度は僕の前世とそう変わらない。

 携帯電話やコンピュータが既に存在しているかどうかはまだ判らないけど。

 固定電話すらあるかどうか。

 赤ちゃんがいる部屋にそんなものはないので。

 ベビーベッドとか乳母車って、そんなに変化しないはずだ。

 だから今が西暦何年なのかは不明。

 でも何となくまだ20世紀という気がしている。

 何となくだけど。


 ある日、なぜかテーブルの前に坐らされておめでとうとか言われて拍手された。

 ケーキが出てきた。

 もう既に母乳やミルクは卒業していたのでありがたく頂く。

 甘くて美味しかった。

 何でいきなり待遇が良くなったのか不思議だったけど、翌日から元に戻ったことで気がついた。

 僕の誕生日だったんじゃないかな。

 そうか、もう生まれて1年たったのか。

 全然判らなかった。

 だって僕、ほぼ外に出ないし基本的にはこの部屋の中で寝たり起きたりしているだけだったし。

 ふた月に一度くらいは母親らしき人に連れられて外出して病院らしき大きな建物に行って注射されたりしていたけど、あれは予防接種とかだったらしい。

 そういえば赤ちゃんって生まれて数ヶ月は母親の免疫を受け継ぐけど、だんだんその効果が薄れていくんじゃなかったっけ。

 小さいときに経験しておかないと将来ヤバい伝染病や細菌性の病気もあったはずだ。

 思い出した。

 水疱瘡とか、子供の頃に罹患しておかないと大人になってからでは酷い状態になるという話だった。

 嫌だなあ。

 と思っていた時期もありましたが、結局は僕も罹患した。

 身体中に疱瘡が出来て痒くて堪らない。

 おできを潰すと液体が出てもっと酷くなる。

 本物の赤ちゃんだったら泣き叫ぶところだろうけど、転生者である僕は耐えた。

 そのために親が慌てて、医者に連れて行かれた。

 確かに赤ちゃんが苦しいのに我慢するって変だよね。

 それに気づいて病院で泣き叫んでみせたら放免されたけど。

 危ない危ない。

 転生者は危険がいっぱいだ。


 この時期になると僕の人生方針が決まっていた。

 平凡が一番。

 知識チートでどうこうとかリーダーシップを発揮するとかはない。

 目立ったら駄目だ。

 僕の場合、まだはっきりしないけどこの身体の性能(スペック)は人並だ。

 前世の転生物の主人公みたいに頭や身体がチートということはない。

 魔力とかもないし、性格というか人格は前世の僕だから人の上に立ったり指導力を発揮したりするタイプじゃない。

 ていうかそういうのはあまり好きじゃ無い。


 それで思いついたんだけど、どうも僕って精神が退行しているような。

 いつの間にか一人称が「僕」になっている。

 前世では後期高齢者になるまで生きて老衰で死んだんだけど、当然自分の事を「僕」とか言わなかった。

 せめて「俺」だ。

 あるいは「私」か。

 でも今というか赤ん坊になってしまったら「僕」なんだよ。

 人格は変わってないと思うけど、それでも身体の幼さに引っ張られて幼少化していると思う。

 目の前にガラガラとかあったら振ってみたくなるし。

 ちょっとした刺激で笑いが止まらなくなったりするし。

 精神は肉体を映すって本当らしい。

 心の中では自分を未だに後期高齢者だと思っていても、身体が幼児だとそっちに染まってしまう。

 別に悪くはない気がする。

 ていうか、これから僕は幼児として生きていかなきゃならないんだから、思考が後期高齢者だったら拙い。

 少なくとも擬態はしないと。

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