第八話 五対一
翌朝。
リアが訓練場へ入ると、昨日より早く来ていた騎士たちが何人かいた。
「おう」
昨日、水筒を渡してくれた騎士が手を上げる。
「足は?」
「大丈夫です」
「そうか」
それだけ言って、騎士は木剣を振り始めた。
リアも自分の剣を抜いた。
朝の訓練が始まる。
その日から、リアは男の隊員たちと同じ訓練を受けることになった。
走る距離が伸びた。
運ぶ砂袋も重くなった。
木盾を構えたまま立つ時間も長くなった。
そして最後に待っていたのが、模擬戦だった。
「今日は一対多数だ」
ヴィクトルが訓練場の中央に立つ。
リアの向かいには、三人の騎士。
さらに少し離れたところに、もう二人。
「五人……ですか?」
「そうだ」
リアは五人を見渡した。
(……一人ずつ減らせば、やれるか……?)
「始め!」
合図と同時に、正面の騎士が踏み込んできた。
リアは剣を受けた。
甲高い音が響く。
相手の横へ回り込み、肩を狙う。
木剣が入った。
「一本!」
一人目が下がる。
リアは反射的に、その背を追った。
次の相手が視界に入る。
そのまま剣を振り抜く。
左。
右。
背後。
視界の端に影が走る。
リアは振り返った。
間に合わない。
木剣が肩を打った。
「っ……!」
痛みに顔を歪めながら、リアは距離を取った。
前に二人。
後ろに一人。
さらに、離れていた二人がこちらへ回り込んでくる。
まずい。
そう思った瞬間、ヴィクトルの声が飛んだ。
「何をしている!敵を一人ずつ倒そうとするな!」
その一瞬だった。
正面の騎士が踏み込んでくる。
リアは咄嗟に横へ飛んだ。
木剣が空を切る。
その騎士の背後から、別の騎士が迫る。
リアはさらに横へ動いた。
すると二人の進路が重なった。
互いの肩がぶつかり、わずかに隊列が崩れた。
リアの目が動く。
(……今っ……!)
一人の脇をすり抜け、包囲の外へ出た。
振り返る。
五人が一列になっている。
先ほどまでとは違った。
追ってくる者。
回り込もうとする者。
互いの位置が重なっている。
リアは剣を構えた。
ヴィクトルの言葉が、頭の中に蘇る。
――離れすぎず、近づきすぎない。
リアは踏み込んだ。
だが、深追いはしない。
一人の攻撃を受け流し、その身体を盾にするようにして後ろの相手との距離を潰す。
木剣がぶつかった。
相手が一瞬よろめく。
リアはその隙に横へ抜けた。
また一人。
今度は背後へ回らせない。
足を止めず、常に位置を変える。
五人の動きが少しずつ乱れていく。
「……」
ヴィクトルは腕を組んだまま、それを見ていた。
リアの動きは、まだ荒い。
それでも、先ほどまでとは違っていた。
前だけを見ていない。
左。
右。
背後。
五人の位置を確かめながら、リアは足を止めずに動いていた。
また、一人が踏み込む。
リアは横へ逃れ、木剣が相手の腕を打った。
「そこまで!」
リアは肩で息をしながら、剣を下ろした。
汗が顎から落ちる。
荒い呼吸を整えようとするが、なかなか戻らない。
ヴィクトルが歩いてくる。
「最初よりは、ましになった」
「……ありがとうございます」
「だが」
ヴィクトルがリアの足元を見る。
「三人目を追ったときだ。守るべき場所を完全に忘れていた」
リアの表情が固まった。
「……はい」
「勝つことに夢中になるな」
ヴィクトルはリアの目を見る。
「お前が守るべきなのは、敵じゃない」
「……」
「自分の後ろだ」
風が吹いた。
訓練場の砂が、二人の足元を薄く撫でていく。
リアは剣を握ったまま、ゆっくりと頷いた。
「……はい」
ヴィクトルはそれ以上言わなかった。
ただ、次の訓練相手を指差す。
「休憩は五分」
「五分……」
「嫌か?」
リアは首を横に振った。
「いいえ」
「なら、五分後だ」
ヴィクトルが離れていく。
リアはその背中を見送り、それから剣を握り直した。
お読みいただき、ありがとうございます。
この話を少しでも気に入っていただけたら、
感想やレビュー、リアクションなどをぜひお願いします!
次回もお楽しみに!!




