第十六話 リアの道
敵将の大剣とリアの剣がぶつかった。
――ガァンッ!
リアの身体が押し込まれる。
二歩、三歩と砂を踏んで下がった。
「王子を逃がすために、一人残ったか」
リアは手首を返して、大剣を弾いた。
「……守っただけだ」
ぶっきらぼうなリアの言葉に、敵将が笑った。
「そうか」
敵将が踏み込んでくる。
大剣が振り下ろされた。
リアは受け流し、一歩退く。
横薙ぎ。
身を沈めて、かわす。
追撃。
さらに一歩退く。
敵将が目を細めた。
「守りの剣か」
リアは答えない。
大剣を受け流し、間合いを保つ。
敵将が踏み込んだ瞬間、リアが横へ抜けた。
剣が敵将の腕を浅く裂く。
敵将が一歩退く。
「……なるほど。よく鍛えられている」
敵将がリアを見る。
「二度と呼ぶことはないかもしれないが、聞いておこう。名は?」
「……名乗るほどの名はない。だが――」
リアが剣を構え直す。
「私がいる限り、この国の旗は取れぬと思え」
敵将がわずかに目を見開く。
次の瞬間、豪快に笑った。
「カッカッカッ!その意気や良し!」
敵将が大剣を構える。
「ならば、全力で相手をしよう!」
二人が再びぶつかった。
敵将の大剣が振り下ろされる。
リアは剣を斜めに当て、刃を滑らせた。
大剣が肩をかすめ、鎧の継ぎ目を裂く。
リアはそのまま踏み込み、敵将の脇を狙って剣を突き出す。
敵将が身体をひねってかわす。
大剣が横薙ぎに迫る。
リアは一歩下がり、剣の腹で受け流す。
その勢いを利用して踏み込み、今度は首元へ斬り上げた。
敵将が身を反らす。
銀の刃が外套を裂いた。
「……っ!」
敵将が大剣を振り返す。
リアは受けた。
――ガァンッ!
腕が弾かれる。
続く二撃目を受ける。
さらに三撃目。
リアの足が砂へ沈んだ。
押し込まれるたび、砂が踵の下で崩れていく。
それでもリアは剣を下げなかった。
血が落ちて、リアは足元を見る。
夏の乾いた砂。
その上に、遠い記憶の中の雪が重なった。
冷たい風。
動かない身体。
誰かに包まれた温かさ。
手の中の、温かいカップ。
そして――
『怖いさ』
野営地で聞いた、シリウスの声が脳裏に浮かぶ。
『ここは、俺が選んで、自分で歩いてきた道の先だ』
リアが足を引き、互いの剣が離れる。
敵将も大剣を引いた。
「どうした。怖くなったか?」
リアの肩が上下する。
頬から流れた血が、顎を伝った。
「……ああ、怖い」
リアは剣を握り直した。
「私が怖いのは、自分の進んできた道が分からなくなることだ」
敵将が眉を動かす。
リアが足元の砂を踏みしめる。
「だが、ここは私が選んだ道の上だ」
剣先が上がる。
「ならば――」
風が、二人の間を吹き抜ける。
「迷う理由はない」
敵将が笑った。
「いい目だ」
大剣を構える。
「来い!」
敵将が踏み込んだ。
リアも同時に駆けた。
大剣が迫る。
リアは刃を受け、横へ流した。
そのまま踏み込む。
敵将の肩口へ剣を振り抜く。
敵将が身を引いた。
刃が鎧をかすめるが、敵将は体勢を崩さない。
敵将が大剣を返す。
――ガァンッ!
重い衝撃にリアの腕が痺れる。
さらに、もう一撃。
リアは受け流そうとした。
だが、その前に、リアの手から、剣が飛んだ。
「っ……!」
乾いた音を立てながら剣が砂の上を転がる。
敵将が大剣を振り上げた。
「俺の勝ちだ!」
リアは大剣を見上げ、動かなかった。
影が、足元へ伸びる。
リアはわずかに目を伏せた。
「……いや」
大剣が振り下ろされる。
「私たちの勝ちだ」
その瞬間。
敵将の背後から、二本の剣が突き出した。
敵将の目が見開かれる。
「……見事」
大剣が砂に落ちた。
巨体がゆっくりと崩れ落ちる。
その背後に立っていたのは、ヴィクトルとヴァルターだった。
リアは肩で息をしながら、倒れた敵将を見つめた。
やがて、遠くへ目を向ける。
騎士たちに支えられたシリウスが見えた。
その姿を確認すると、リアの膝から力が抜けた。
砂に膝をつく。
「リア!」
遠のく意識の中で、ヴィクトルの声が聞こえた。
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