第十五話 狙われた王子
敵軍が一斉に押し寄せる。
盾がぶつかり、槍が交差した。
剣戟と怒号が重なり、土煙が戦場を覆っていく。
リアは迫る敵兵の剣を受け流し、刃を返した。
敵兵がよろめく。
追わずに、シリウスの位置を確認する。
シリウスの左右を、ヴィクトルとヴァルターが固めていた。
リアはすぐにシリウスの斜め後ろへ戻った。
横から敵兵が迫る。
リアが受ける。
同時に、シリウスの剣が閃いた。
敵兵の剣が弾かれる。
シリウスは踏み込み、返す刀で敵兵の剣を持つ手を打った。
敵兵の剣が落ちると、そのまま肩からぶつかり、敵兵を地面へ倒す。
リアの視線が、一瞬だけシリウスへ向いた。
「リア!」
声に振り向く。
別の敵兵が目の前まで迫っていた。
リアは剣を立て、刃を受け止める。
――ガキンッ!
押し返す。
敵兵が下がったところへ、横から味方の騎士が斬り込んだ。
リアはすぐに前を向く。
次の敵兵が迫っていた。
剣を受け、押し返す。
別の敵兵が横から斬り込んでくる。
リアが身をひねった。
刃が外套をかすめる。
その横で、ヴィクトルが敵陣へ視線を向けた。
敵兵の一部が、戦列を崩しながら別の方向へ動いている。
ヴィクトルの眉が寄った。
「……妙だな」
シリウスも敵陣を見る。
そのとき、伝令が駆け込んできた。
「左翼が押されています!」
「第三陣、後退!」
怒号が飛び交う。
その直後だった。
敵陣の奥で、人の波が割れた。
一人の男が歩いてくる。
黒鉄の鎧は傷こそあるものの、厚く重い造りで、肩には深紅の外套が掛かっている。
腰には幅広の大剣。
短く刈り込まれた黒髪の下、鋭い目が戦場を見渡す。
その瞳がシリウスを捉える。
そして、周囲を固める精鋭の王国騎士たちへ視線が移る。
「……あそこか」
男が大剣を抜く。
そのまま、まっすぐこちらへ向かってくる。
ヴィクトルが剣を構えた。
続けてリアも構える。
シリウスは迫ってくる男を見て、口元を上げた。
「おいおい、大将自らお出ましか?」
「それは、こちらの台詞だな」
シリウスが一瞬だけ目を瞬かせる。
「……そりゃ、ごもっとも」
その瞬間、敵将が踏み込む。
砂が弾けた。
大剣が、シリウスへ振り下ろされる。
その前に、ヴィクトルが敵将へ斬り込んだ。
大剣と剣がぶつかる。
――ガァン!
ヴィクトルの身体が沈んだ。
ヴァルターがすぐさま横へ回り込み、敵将の腕へ斬り込む。
敵将は大剣を振り上げた。
二人の剣をまとめて弾き飛ばした。
「……っ!」
騎士たちが息を呑む。
敵将の視線が、シリウスへ向いた。
シリウスが剣を構える。
「……俺がやる。下がっていろ」
「シリウス様!」
止めに入ろうとするヴァルターの声を聞かず、シリウスは踏み込む。
剣が閃いた。
敵将が受ける。
シリウスはさらに踏み込み、敵将の懐へ入った。
柄が脇腹を打つ。
敵将が一歩下がった。
だが、すぐに大剣を振り下ろす。
――ガキィン!
受けた衝撃でシリウスの身体が流れる。
続く一撃をかわし、シリウスが斬り返す。
しかし、敵将はその刃を受け止めた。
鍔迫り合い。
シリウスが押される。
敵将がさらに力を込めた。
大剣がシリウスの肩口を裂く。
「シリウス様!」
「来るな!」
シリウスが一歩下がる。
「……まだ終わってないだろ」
肩から血が流れていた。
それでも剣は下げない。
敵将が踏み込む。
シリウスも迎え撃つ。
だが、今度の一撃は防ぎきれなかった。
シリウスの身体が大きく弾かれる。
片膝が砂についた。
敵将が大剣を振り上げる。
「リア!」
ヴィクトルの声が響いた。
リアが駆ける。
シリウスの前へ飛び込んだ。
大剣が振り下ろされる。
――ガキィン!
リアの剣が受け止めた。
一瞬、敵将が目を見開く。
大剣がさらに押し込まれる。
リアの腕が震えた。
足元の砂が沈む。
「リア!下がれ!」
シリウスの声が飛ぶ。
「……できません!」
リアが剣を弾き返す。
敵将が踏み込んだ。
横薙ぎの一撃を、リアは剣を滑らせて逸らす。
大剣が地面を叩き、土が跳ねた。
「リア、耐えなさい!」
ヴィクトルが叫ぶ。
ヴァルターがシリウスのもとへ駆け寄る。
「シリウス様、退いてください!」
「だが――」
「頭を冷やしなさい!」
ヴィクトルも駆け寄り、シリウスの肩を支える。
その間にも、リアは敵将の前から退かない。
「一人で俺を止めるつもりか」
リアは剣を握り直した。
「……止めます」
敵将が踏み込む。
リアも踏み込む。
二人の剣が、再び激しくぶつかった。
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