【02】 1. 試験
ミキは、無造作に積まれた武器の横で車に揺られていた。
ふと、外に顔を向ける。
都心を離れ、星の光しか見えない景色が、 後ろへと流れていく。
静かで穏やかな夜だった。
座席ではなく、後ろのトランクにいる。
座席には座らせてもらえない。それは、ここでの掟だ。
彼女の所属する組織は、上下関係がとても厳しかった。犯罪組織だからだろうか。
ミキは、12歳の子供だ。今は、殺し屋の見習い。
組織では、そんな奴は贅沢に座席には座らせてもらえない。
見習いなんて、金を運んでこないうえに、この実力主義社会ではカースト下位だ。
そんな感じで、今でも昭和のような、警察学校のような、理不尽な行いが多々あるこの世界で、今日も生きていかなければらならい。
だが、
そんな下っ端の窮屈な生活は今日で終わる。
なぜなら、今日は一人前の殺し屋になる試験があるからだ。
試験に合格する必要があるものの、ミキはその事実に歓喜していた。
一人前になれば、以前よりは自由で楽な生活が出来るはずだ。
そして、ちょうど今、その試験会場に向かっている。
試験会場と言っても、大層な場所ではない。
そこは、リスト―暗殺の注文が入っている人間の一覧表―の該当者の家だ。
ちなみに、リストの該当者を、彼らは、『ターゲット』と呼ぶ。
話を戻すと、つまり、試験とは世間に知られずに人殺しをすれば合格、暗殺の実践ということだ。
今回の任務の最終確認でもしようと思ったその時。
「もしかして、緊張してる?」
ミキが黙りこくっていたから、緊張しているように見えたのだろうか。
車を運転していた、先輩が声をかけてきた。
上下関係が厳しいと前述したが、訂正・補足しよう。
上層部がいわゆる体育会系なジジイばかりで、変に若者に厳しくしたがる奴が多いだけで、
見習いと関係が深い先輩達は、それに従うふりをしながら、裏では後輩達を可愛がっている。
なんなら、彼も若者の範囲内だ。
見習いは、そんな先輩達を兄のように慕っている。
「そう?むしろ絶好調なんだけど。
いつも通りやればよゆー、よゆー!」
だが、ミキの境遇は少し違う。
彼女を知る、彼女の兄貴分は彼一人だった。
ミキはこの通りというように、ニカッとはに噛んでみせた。
「本当に?無理しなくていいんだからな?」
心配性なのか、彼はミキを気にかけた。
「よっちゃんは私のなんなんだよ、父親かよw」
よっちゃんと呼ばれた彼の名は、陽介。
面倒見の良い彼は、ミキと同じく、ミキを妹のように可愛がっている。
陽介は苦笑いを浮かべた。
「ちがくて―—」
そんなことを話しているうちに、車は目的地に着いたようだ。
「さぁ、ミキお嬢様〜。
着きましたよ〜」
陽介がさっきとは打って変わって、ふざけた調子で言った。
「今度は誰だよ」
すかさず、ミキがツッコミを入れる。
「あなた様にお仕えする、爺でございます」
「おかしくなっちゃった?いつもの、よっちゃんじゃない⋯」
「盛り上げてんだよ、大事な試験で緊張してると思って!」
なぜか陽介は逆ギレ気味で反論してきた。
それがおかしかったのか、ミキはクスクス笑いだした。
どうやら、陽介の頑張りは無駄ではなかったらしい。
とその時——
「お前ら!何もたついてる、早くしろ!」
突然、苛立だしげな声が車内に響き渡った。
この声はミキの教官だ。というか、車にはミキ達の他にこの教官しかいない。
彼も、体育会系ジジイの一人である。
今回は試験ということで、当然採点がある。
教官たちは、見習いと共に任務に行き、実際に隣でジャッジする。
移動中とはいえ、試験という重要な場面で、ミキ達から緊張が感じられないことが気に食わなかったらしい。
「は~い。急ぎまーす」
気だるげに返事をしたのは、ミキだ。
(後が怖いなぁ)
ミキではなく、なぜか陽介がそう思った。
「じゃ、気合い入れてこう!」
ミキと陽介が降りた後、陽介はそう言い、拳を差し出した。
その拳を見て、ミキがニヤッとした。
「おー!」
コツンッ
2人は拳同士をぶつけ合った。
そして、その足を試験会場へと向けた。




