第54話 受賞、だと?
わたしは平常心を保ちつつ、淡々と創作と仕事と人間としての最低限やるべきことのバランスをとりながら生活をした。
……いや、する予定だった。
「ふぁ? 受賞?」
思わず変な声が出た。
新しい日常のリズムが出来たと油断したころにイレギュラーが差し込まれてしまったのだ。
webで稼ぐには、投稿サイトで読まれたり、書籍化したり、契約作家になったりといった方法がある。
書籍化したり、コミカライズの原作の仕事を得たりするためには、連載をして拾い上げを待つだけでなく、コンテストに応募して積極的にアピールするという方法もあるのだ。
タグひとつで簡単に応募できるコンテストも数多くあるため、わたしは気軽に応募した。
そして応募した事実を半分忘れていた。
忘れていたコンテストで受賞すると、嬉しいという感情よりも、キツネにつままれたような現実味のない化かされたような気分になる。
とはいえ、嬉しいものは嬉しい。
わたしは浮かれた。
受賞したといっても佳作なのでたいしたことはないが、受賞は受賞である。
税金に悩まない程度ではあるが賞金もあるし、書籍化もされるのだ。
久美子や美香にも祝ってもらったし、家族にも伝えた。
会社にも報告をして、シゴデキお姉さまに「無理はしないように」と釘を刺された。
……まぁ、無理だね。
頭では分かっているし、1回やらかしているわけだから本人も気を付けてはいるわけだが。
無理だね。
頑張っちゃうね。
張り切って、無理しちゃうね。
わたしはコンテストの賞金や、書籍化した際の印税に関する経理的なことを気にかけつつも、改稿に取り組んだ。
web投稿サイトへの投稿はお休みした。
でも会社へは休まず行った。
なるべくいつもと同じような生活パターンを心掛けていた。
でもね。
受賞したら浮かれるし、編集さんとの打ち合わせは緊張するし、書籍が出るとなれば張り切ってしまうものなのですよ。
国立国会図書館へ納本もされるわけですよ。
そりゃあ下手な物は出したくないですよね。
そこは人情として分かってください。
わたしは、とってもとっても真面目に改稿へ取り組んだ。
有給を使おうか、どうしようかと悩んだ日もあった。
でも使わなかった。
そして結果としてまた倒れたのだ。
馬鹿である。
「お前さー。もうちょっと上手に体調管理しろよ」
佐々木。
車で送迎してくれるのはありがたいが、説教はやめてくれ。
分かっているんだ、本人は。
だがね。分かっているからといって、毎回キチンと出来るわけじゃない。
君だって社会人だからわかるだろう?
出来ることと出来ないことの間には、頑張ればどうにかできるものが沢山あるのだよ。
こうしてわたしの有給は休養のために消え、久美子たちには説教されて、両親のニマニマ笑いは増えた。
受賞作が無事、出版された頃には、わたしは前の失敗をサクッと水に流して、再び創作を始めたのだった。




