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22話

「キメラだと……?」


「そうよ。かつて古の文明が作りだしたと言われる伝説の生物。錬生術師が目標としている複合生物よ」


「そんな化物を生み出してどうするつもりだ」


「どうするですって? そんなの決まっているでしょ。復讐するのよ。父と母、そして妹を奪ったこの国に!」


「復讐だと? ここにいた錬生術師は事故に巻き込まれて死んだはずじゃないのか。復讐するのは何かの間違いじゃないのか」


 怪訝そうな顔でジャックは問う。


「間違い? そんなわけないわ。父さんも母さんも戦争のための魔物を作るなんてことはしたくはなかった。だというのに国の連中は無理やり私達家族を誘拐してここで研究させたのよ。それでも反対した両親の見せしめとして妹が殺されたわ。それでもこの国に復讐する理由がないとでもいうのかしら」


「……」


 マジーナはエレノアの話を聞いて同情してしまい何も言えなくなってしまう。一方のジャックはエレノアに反論する。


「あるわけないだろうが」


「……なにっ」


「そんなに家族を殺されたのが怨めしいなら殺した奴らに直接仕返ししやがれ。そんな危険生物が街中で暴れたらこの街に住んでいる人間はどうなんだ? 関係のない一般人を巻き込んでじゃねーよ」


「うるさいわね!」


 ジャックの正論にエレノアは端正な顔を歪ませながら叫ぶ。


 ジャックの言うことは正論だがそんなこと復讐に囚われた彼女には関係のないことだった。


「街の人間が死のうがしったことないわよ! 私達家族が苦しんでいたのにのうのうと生きていた連中のことなんか知らないわよ。復讐の邪魔をするというのならあなた達も同罪よ。やってしまいなさい」


 エレノアがキメラに指示を出す。


「ちっ!」


 エレノアの指示を受けたキメラはジャックへと襲い掛かって来た。キメラのベースとなっている赤獅子のバロンの動きはやはり人口生命体とあって本物の赤獅子のバロンよりも劣化しているので突進してきても楽々とかわすことができた。


 しかしその後にキメラと一体となっているバフォメットの頭が突進をかわして横に飛んでいるジャックへ炎のブレスを浴びせる。


「……くっ!」


 迫りくる炎にジャックは羽織っていたマント脱ぎそれを盾代わりにして炎を防ぐ。ジャックの羽織っていたマントは火山地帯に生息する炎獣の毛皮で作られておりこの程度の炎なら熱も通すことはない。


 だがこの程度でキメラの攻撃の手は終わらない。駆け抜け際にバジリスクがジャックのマントへと毒液を吐き出しジャックは完全にかわし切れずマントが溶かされてしまう。


「ジャック!」


「大丈夫だ。この程度ではやられたりはしない。お前はヘタに手出しをせず自分の身だけをあんじてろ。今回ばかりはお前のめんどうを見ながらやれる相手じゃない」


 ジャックはマジーナにそう言いつけてキメラへ視線を戻す。


 一体一体なら……いや三匹同時でもジャックなら対処はできるが、このキメラという生物はそれよりも厄介だった。


 魔物は知性が低く連携を取るような動きは得意ではない。だから三匹同時だろうともジャックなら対処は可能だがこのキメラは違う。同じ身体からなのか連携がとれているのだ。


「中々上手くしのいだみたいだけどその程度でこのキメラは倒せるかしらね」


「やってみればわかる」


 そう言いジャックはキメラへ攻撃を仕掛けに動く。


血流操作ブラッドフローコントロール


 ジャックは体内の血流を操作して身体能力をあげる。そしてキメラに尋常ではない速さでキメラに接近すると剣で斬りかかる。


「……っ! 溶けただと」


 キメラに剣を振るうと剣がキメラに当たる前に溶けた。


「こいつ、全身にバジリスクの毒を纏っているのか」


 毒があるとわかるとジャックはさっと身をひるがえしキメラから距離をとる。


 ジャックもバジリスクが尻尾にいることから毒は警戒していたがまさかキメラの全身を毒が覆うことができることは予想外だった。


「キメラか。思ったよりもめんどうなやつだな」


 刀身が溶けた剣を投げ捨てるとジャックはフォルスを発動させる。


血液弾ブラッドバレット


 ジャックは右手の人差し指に血を集めて弾丸を作り放つ。キメラの隙を狙い放った弾丸はキメラに直撃するが弾丸はバジリスクの毒と赤獅子のバロンの強靭な毛皮に阻まれダメージはあまり通っていない。仕方なくそのまま血液爆発ブラッドバーストを発動させようとするが毒によって完全に溶かされる。


「ちっ。この程度の圧縮じゃダメージは与えられないか」


 と舌打ちをするジャック。もう少し血を圧縮する時間があれば中にまで弾丸を届けられるものをと思うジャック。だがそれを許してくるほど相手も甘くはない。


 どうしようかと考えているとこれまでの戦況を見ていたマジーナが叫ぶ。


「わたしが時間を稼ぐのだ! ジャックはその間に圧縮するのだ」


「おい!」


 勝手なことをするマジーナにジャックは呼び止めるがマジーナはフォルスを発動させる。


「燃え尽きろ! フレイムエッジ!」


 フォルスが発動し赤くきらめく粒子がキメラの前に現れると炎の刃がキメラ目がけて襲い掛かる。


 キメラはそれをさっとよけてかわすがそれは囮でマジーナはかわした先にフォルスを発動させる。


「今なのだ! フレイムエッジ!」


 炎の刃がキメラに襲い掛かるがキメラの動きの方が早く刃は直撃せずかする程度だった。だがそれでもキメラの注意をひけてようでキメラは標的をジャックからマジーナへと変更する。


「あのバカ!」


 と文句を言いつつもジャックは好機を無駄するわけにもいかず急いで血を圧縮して弾を作りだそうとする。


 その間マジーナは危なげにキメラの攻撃をかわす。毒液に炎、それに爪がマジーナを襲い掛かる。それを回避する姿は見ているだけでもハラハラするほど危なっかしい。


 ジャックはそんな危険を冒すマジーナに苛立つがそれよりもそんなマジーナの手を借りないといけない自分に腹が立つ。


 だがマジーナのおかげであと少しで十分な威力の弾丸が作りだせそうになったところでマジーナがキメラの攻撃を受ける。


「マジーナ!」


 幸い毒や炎ではなく爪の一撃だったのでマジーナは白銀の刃を盾代わりにして切断だけは待逃れたが、その威力までは殺し切れず吹き飛ばされ壁に激突する。


 そしてキメラはマジーナへ止めをさすべく動き出していた。


「ちっ!」


 本当ならもう少し圧縮して威力を高めたかったジャックだが、それを止めてキメラへと弾丸を放つ。


血液弾ブラッドバレット!」


 ジャックの放った血液弾はマジーナへ駆けていくキメラへと向かって行く。


「……っ!」


 それに気が付いたキメラは血液弾に向かって毒液と炎を吐き出し防ごうとするが完全には溶かしきることはできずキメラの身体へと直撃し毛皮を突き破る。


「今だ、血液爆発ブラッドバースト


 体内に弾が入ったのを確認してジャックは爆発させる。


 これにはキメラもたまらず地面に転がる。


 その隙にジャックは壁にへたり込んでいるマジーナの元へと駆け寄る。


「おい、大丈夫か」


「……さすが……ジャックなのだ」


 ハハっと笑みを浮かべるマジーナ。見た限りあちこちから血が流れているが致命傷は受けていない。


「それだけ笑えれば十分だ。だか残念ながらまだだ。笑うにはまだ早い」


 とジャックが言うと同時に獣の咆哮が部屋中に響き渡る。


 キメラが立ち上がって来た。血液爆発を受けて脇腹の辺りが吹っ飛んでいるが動けないわけではない。


「やっぱり威力が足りなかったか」


 できればもう数十秒ほど血を集めて圧縮すれば跡形ものなくとはいかなくても殺すことはできたが、そんなことをしていたらマジーナの命はなくなっていたからしょうがなかった。


 キメラは立ち上がるとジャックを睨み付け突進を仕掛けてきた。


 ジャックはチラリとマジーナを見るがマジーナは動けそうにもない。ここでキメラの突進をよければマジーナに直撃だ。かといってマジーナを担いでキメラの突進をかわすだけの余力はジャックにもない。さっきの血液弾でかなりの血を使ってしまったのだ。


「となるとここで決着をつけるしかないか」


 ジャックはさっきマジーナが攻撃を喰らった時のことを思い返す。


 キメラの攻撃を喰らったマジーナは吹っ飛びはしたが毒には侵された様子はなかった。それはつまりキメラも常に毒を纏っていられるわけではない。


 バジリスクと違い赤獅子のバロンの動きは素早い。そのせいで動き回ると毒のバリアが完全には機能しなくなる。


 だからその毒のバリアが全身を覆えないトップスピードから攻撃をしかける瞬間を狙う。つまり今だ。


 ピンチであると同時にこの状況はチャンスでもある。


血液創造ブラッドクリエイト


 ジャックは残った血を使い剣を創造する。真紅の剣は血が少ないと言うこともあり柄を合わせても五〇センチほどの大きさしかない。キメラ相手にこれじゃ心もとないとジャックは思うが贅沢は言ってられない。そう思っているとマジーナがジャックに腕を差し出す。


「ジャック……わたしの血も使うのだ」


「……いいのか」


 ジャックが確認するとマジーナはコクリと頷く。


 ジャックはマジーナの腕から流れ出た血を真紅の刃に当てるとマジーナの身体から血を吸い出す。


「……あふっ!」


 血を吸われるという未知の感覚にマジーナは顔を赤らめ吐息をもらす。


 マジーナの血を吸った刃はさっきよりも大きくなり八〇センチぐらいまでになっていた。それでもまだ長さが欲しい、そう思った時だった。


「この力は……」


 今までに味わったことのない不思議な感覚に襲われた。剣の方から力が溢れてくるのだ。これまで血液創造で剣を作りだしてきたがこんなことは初めてだった。


 考えられるとしたらマジーナの血が原因だが……そのことについて考えている時間はない。もう眼前までキメラがやってきていた。


 ジャックは素早く真紅の剣を構える。今なら何でも切れるそんな感じがした。もしかしたらマジーナの刃のフォルスが関係しているのかもしれない。


「はあああ!」


 ドンッと足を一歩踏み込み剣を振り下ろす。


 すれ違い一閃。


 ……。


 …………。


 ………………。


「くっ」


 ジャックが膝をつくと同時にドスンと真っ二つにされたキメラが倒れる。


「そんな馬鹿な」


 エレノアがキメラを倒されたことに驚き膝を屈する。


「どうやらここまでだな」


 立ち上がったジャックはエレノアの元にやってくると首元に剣を突きつける。


「くっ! 殺せ」


 復讐をする手立てを奪われたエレノアは生きる気力はなかった。


 このまま国に突きだされれば殺されるかもしくは自分の得た知識を利用するために活かされるかのどちらかだろう。いやキメラの開発できたと知られればそのまま生かされるに違いなかった。それならばこんなクソみたいな国に尽くすぐらいなら死んだ方がましだった。


「ああ、お望み通り今楽にしてやるよ」


 ジャックもせめての慰みと思い一思いにここで殺してやろうとする。ジャックとて復讐には賛同できないが彼女の境遇には同情する気持ちはあった。


「待つのだジャック!」


 ジャックが剣を振り上げるとマジーナがジャックを止めに入る。


「彼女を殺さないでやってほしいのだ」


「本人が望んでいるのにか?」


「死んじゃダメなのだ! 死んだらジャックを助けてくれた時の恩返しができなくなっちゃうのだ。わたしはあの時のことを感謝しているのだ」


「あなたは馬鹿なの……」


 くだらないことを言うマジーナをエレノアは嘲笑する。


「彼の毒はわたしが作った生物の毒なのよ。それを助けたところで感謝するなんて頭がおかしいんじゃないの」


 エレノアの言う通り自分が作った毒を自分が解毒するなんて言わばマッチポンプのようなものだ。怨まれこそすれど感謝する人間などいない。


「そんなことないのだ! あなたは助けないで放っておくことも出来たのに助けてくれたのだ! あなたはいい人なのだ」


「私がいい人? 笑わせないで。私がやろうとしたことを忘れたの? この国の人間を殺そうとしたのよ」


「それは確かに悪いことなのだ。けどあなたの気持ちもわからなくはないのだ。大切な人を殺されたら誰だって許せないのだ。八つ当たりだってしたくなるのだ」


「八つ当たりってあなたね……」


 関係のない人たちを巻き込もうとしたことを八つ当たりと言い切ってしまうマジーナにあきれてしまう。


「あなたは本当に悪い人じゃないのだ」


「何を根拠に言ってるのよ」


「それはなんとなくなのだ」


「なんとなくって……」


「だから恩を返すまで死ぬのはダメなのだ」


「だったら私殺して。それでチャラってことでいいわよ」


「それはダメなのだ!」


「あなたの意見はどうでもいいわ。早く殺しなさい」


 いつの間にかマジーナのペースに流されつつあったエレノアはマジーナの相手はするのをやめジャックにそう言う。


「ダメなのだジャック! 彼女を見逃して欲しいのだ」


「……マジーナ。それは出来ない。少なくとも魔物の襲撃のせいで死んだ人間が何人かいるのだろう。それなのにみすみす見逃すことはできない。それにこのまま見逃せばまた同じことを繰り返すかもしれない」


「でもジャック!」


 まだ何かを言おうとするマジーナをジャックは手で制して黙らせるとマジーナに告げる。


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