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23話

「納得できないのだ!」


 マジーナは怒りをぶつけるようにテーブルをドンッと叩く。


「落ち着きなよマジーナ」


「そうだよー」


 鼻息荒く憤るマジーナに友人のミューズとシエルが宥める。ちなみに彼女たちが今いるのは以前会った時に待ち合わせをしたカフェだ。


 王都に魔物が襲来してすでに一週間が過ぎていた。魔物の進行も王都の手前で防ぐことができ王都はいつも通りの平穏が戻り始めていた。


 そしてつい先ほどその魔物襲来の一件の報奨について発表された。


 主だった内容なは多くの魔物を倒した光の聖女フィリアスと絶対零度のココの両名には多額の報奨金に加えて後日国王が直々に礼を述べるために城に来いという内容だ。他の者も倒した成果により順次報奨金が支払われるとのことだった。かくいうマジーナの目の前にいる友人二人もそれなりに魔物を倒し報奨金をもらっており懐が温かくほくほく顔だ。


 そしてマジーナが憤る理由もその報奨が関係していた。


「だって何であれだけ活躍したジャックには報奨が支払われないのだ」


 マジーナが憤っていたのは魔物退治の報酬がジャックには一切支払われなかったことだ。ジャックはどのハンターよりも先に到着して魔物を倒し後退しかけていた戦線を盛り返したのだからそれなりの報酬をもらってもおかしくはないはずだった。


 そんなマジーナにミューズは言う。


「しょうがないでしょ。あんたらは途中で戦いを放棄して逃げたんだから。本当なら罰せられてもおかしくないことをしたのをお咎めなしにしてもらっただけ感謝しないと」


「……っ!」


 違う! ジャックは逃げたのではないのだ! とマジーナは声を大にして言いたかった。しかしそれは言うことはできない。


 そうなる原因を作ったのは自分なのだから。


 エレノアを見逃して欲しい。自分でも無茶苦茶なことを頼んだのはわかっていた。けどそれでも彼女の境遇を聞いてなんとかしてあげたいと思った。


 当然ジャックもダメだと言っていた。だけどエレノアを見逃すことができない代わりに提示したのはエレノアの身柄をハンター協会が預かるということだった。今回の一件とは別に危険人物としてハンター協会が管理している収容所に収監されるということだ。


 そうなると今回の事件はただの魔物の襲撃ということで終わらせないといけなかった。だからジャックのやったことは表に出ることはないので自分たちはあの場で敵前逃亡したと思われても仕方のないことだった。


 自分だけならともかくジャックまで巻き込んでしまったと思うとマジーナは気持ちが重たくなる。本当ならジャックは大勢の人間の命を救ったというのに自分の我儘のせいでそのことがなかったことになってしまったのだ。


「あーもう!」


「どうしたんだいマジーナ」


「ちょっと行ってくるのだ」


「行くってどこに?」


「ジャックのところなのだ!」


 うだうだと悩むぐらいならさっさとジャックに謝ってこっぴどく文句を言われた方がいいと思ったマジーナはジャックの元へ駆け出す。







「ってわけであの錬生術師はあんたに頼まれた通りに処理してやったよ。感謝しな」


 ギルドカウンターに腰をかけたヴェラが紫煙を吐き出しながらジャックに告げる。


「ちっ!」


 ヴェラに借りを作ったことが悔しくて頭を掻くジャック。


「にしてもあんたにしては珍しいじゃないか。このあたしに貸しを作ってまであの錬生術師を助けようなんてするてね。あの錬生術師に惚れたのか? それともお嬢ちゃんに頼まれたからかい」


 面白いオモチャでも見つけたかのように笑うヴェラ。


「別にそんなんじゃない。あの錬生術師の錬生に関する知識を失うのが惜しいと思ったからだ」


「ふーん。そうかい。それでも今までのあんたならこんな回りくどいことはしないと思うけどね」


「だったらどうだっていうんだ」


「別にあんたが何をしようがあんたの勝手さ。ただあんたにしては珍しいこともあるもんだと思っただけさ」


 と肩をすくめるヴェラ。


「まあともかく今回の頼まれごとを聞いてやった代わりにあんたもこっちの頼みを聞いてもらうよ」


 ヴェラはそう言うと一枚の依頼書を投げつける。


 ジャックはその依頼書を受け取ると中身を確認する


「メルクリア共和国にある森林で木々が突然枯れだしたそうだ。あんたはその調査に行ってきな」


「メルクリア共和国と言ったら新天地フロンティアに出来た国だな。まためんどくさいところまで行かせるな」


「新天地まで行って無事なのはうちじゃあんたぐらいだからね。しのごの言わず行ってきな」


 とだけヴェラは言うと話はそれでおしまいのようで煙管に口をつける。


 ジャックもそれ以上は何も言わずギルドを後にする。


 そしてジャックがギルドから出ると息を切らして膝に手を当てるマジーナの姿があった。


「……何をしてるんだお前は」


 ジャックはそんなマジーナの姿を見ながら怪訝そうに訊ねる。


「……はぁ……はぁ。ジャックに謝ろうと思ったのだ」


「謝る? 何を」


「エレノアさんの一件のことなのだ。わたしが無理を言ったせいでジャックが報酬をもらえなかったのだ。本当ならジャックは街を救った英雄になっていてもおかしくなかったのだ」


「そのことか」


 申し訳なさそうにするマジーナとは対照的にジャックはあきれるようにため息を吐く。


「別に俺は英雄になりたいわけでもないし報酬が欲しかったわけじゃない。第一お前の我儘をきいた時点でそれぐらいわかっていた。だからお前が謝る必要はない」


「でも……」


「そんなに申し訳なく思うなら次の仕事の時にはもっと役立てるようにしろ」


「次の仕事?」


「さっきババアからエレノアの一件の見返りに仕事を任された。お前も手伝え」


「いいのだ?」


「何がだ」


「自分が行ってもジャックの邪魔にならないのだ」


「知るか。嫌ならついてこなくもていい」


 相変わらず不機嫌そうな顔で答えるジャックだったがマジーナは嬉しさのあまり飛び跳ねそうになる。


「嫌じゃないのだ! ジャックが駄目だといってもついて行くのだ」


「だったら準備してこい。明日には出発するぞ」


「わかったのだ!」


 マジーナはさっきまでの陰鬱としていた表情とは一変して嬉しそうな表情をしながら答えると冒険の準備をするべく駆けて行った。


「ったく手間のかかるやつだな」


 と愚痴るジャックだったがその表情は嫌そうではなかった。


 そしてジャック達は新たな冒険に出るのであった。

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