20話
ジャック達が王都の門を通り抜けると眼前に広がるは魔物の軍勢。その数五〇〇〇。その光景は圧巻と言っても過言ではなかった。
「……すごい数なのだ。大蛇にオーク、危険種の赤獅子のバロンとバジリスク。それにバフォメットまでいるのだ」
マジーナは迫りくる魔物の軍勢に驚き目を見開く。大蛇の数の多さもさることながら危険種である赤獅子のバロンやバジリスクにヴァフォメットが一匹ずつではなく一〇〇体ほどいるのだ。驚かない方が無理だ。
「これを全部相手にすると思うと心が折れそうなのだ」
危険種一体ですら危うかったのにそれが一〇〇体となるとどうしていいのやらと不安を露わにするマジーナ。
「バカか。何のためのサイレンだと思ってんだ。一人で全部倒す必要はない。あちこちに人混みが出来ているせいで遅れているが他のハンターもしばらくすれば応援に来る。それまで俺達は守備隊の援護に回ればいい」
「守備隊? 守備隊は敗走したんじゃ……」
「よく見ろ」
ジャックに言われて魔物の群れをよく見ると、魔物軍勢を抑え込む集団の姿が目に入った。魔物にばかり目が行ってそれに気が付かなかった。
「戦線が崩れて敗走したあとにまた立て直したんだろう。腐っても守備隊だからな。それぐらいやってもらわなきゃ困る」
ジャックの言う通り一度戦線が崩壊し撤退した彼らだがすぐに再編をして魔物の進行を防いでいる。彼らとてこの王都に守るべき者がいるのだから一度やられたぐらいで引き下がるわけにはいかない。
一度敗走したおかげで魔物がだいぶ王都に迫ってきているがそれでもなんとか持ちこたえている。とはいっても本当になんとか堪えてる状況だ。大蛇の毒を警戒しているせいで守備隊も積極的には攻撃を仕掛けられず攻撃が鈍くなったところへ危険種がやってくるのだから戦線を維持しているだけでもいっぱいいっぱいなのだ。押し返す余裕は一切ない
「俺達は守備隊が手薄になっているところのフォローに回るぞ。また戦線が崩壊したら魔物が一気に王都までなだれ込むからな」
「わかったのだ」
ジャックの指示に緊張した面持ちで答えるマジーナ。
「あまり気張るな。危険種の相手は俺がする。お前は俺の周りにやってくる雑魚を掃除してくれればいい」
「わ、わかったのだ」
ジャックに群がる雑魚を掃除するという指示を受けて余計にマジーナの顔が強張る。自分のミスでジャックに身の危険が及ぶかもしれないと思うと余計に力が入る。
「余計に硬くなってやがる」
ジャックとしては緊張をほぐしてやろうと言ったのだが余計に強張るマジーナを見て改めて自分にはこういうことが苦手だと実感する。
「まあいい。戦っているうちに硬さがとれるだろう。最悪一人でもなんとかすればいい」
そう割り切るとジャックは守備が手薄になりかけている前線へと向かう。マジーナもそれを見て慌てて追いかけてくる。
「血液塗装」
ジャックは走りながら親指の先を噛み切り流れ出る血を腰に差していた件に塗装していく。血をコーティングすることで切れ味は少し落ちるが血で塗装することで強度が増すのだ。武器創造でも同じように剣を生み出すことができるが血がもったいないので塗装するだけにした。敵の数も多く敵の狙いがわからない状態で力を全て使うわけにはいかない。
「シャー!」
前線までやってくるとジャックへと大蛇が襲い掛かってきた。
「はっ!」
ジャックはそれをものともせずに血でコーティングされた剣で切り裂く。幾分か切れ味が落ちていようとも大蛇ぐらいはたやすく切り裂くことは可能だ。
そしてそのままジャックは歩みを止めることなく大蛇を斬り伏せていく。
「す、すげえなあいつ。いったい何もんだよ?」
「大蛇とはいえああもやすやすと倒すなんてただもんじゃねーな」
次々と大蛇を危なげなく斬り伏せて進むジャックに守備隊の人間たちも驚きは隠せない。
「……すごいのだ」
フォルスの使い方だけでなく剣術の心得まであるのかとマジーナもジャックの動きに感心する。
「って見惚れている場合じゃないのだ」
すぐに冷静に戻りジャックの援護をすべくフォルスを発動してジャックが取りこぼした敵を始末していく。
そしてジャックの活躍により戦線を押し返すことができた頃になるとそいつが現れた。
バフォメット。
全長三メートルを超える二足歩行の黒山羊で赤獅子のバロン同様にBランクに相当する魔物だ。
バフォメットは口を大きく開けて炎を吐き出し辺り一帯を焼き尽くす。
「……ちっ」
ジャックはそれを飛びのいてかわす。大蛇もその炎に巻きこまれ死んでいくがバフォメットはそれに構わずには二発目の炎を吐き出す。
もちろんジャックはそれを難なくかわすが、逃げ遅れた守備隊の一人が炎に焼かれて地面を転げまわる。
「あぢーよ! 誰か水をぐれー!」
それを見た他の守備隊が水のフォルスを発動し消化してやりその男を後ろへと下げる。
ジャックはそのやり取りを見て考察する。
「やっぱり人口生命体は本物よりも能力が劣るのか。本物のバフォメットなら一瞬で消し炭にあってもおかしくはない火力があるからな」
本来のバフォメットが吐き出す炎のブレスは火だるまになることなく燃やしつくほどの高温だ。それを受けて命がある辺り完全なコピーを生み出すことはできていないようだった。
カナイの森で戦った赤獅子のバロンも本来よりも劣化していたし、サハギン族の村に現れたバジリスクも毒の効果が弱かった。そのせいで毒を喰らったサハギン族が翌日にはピンピンしていた。
しかしそうなると疑問が残る。
「何でそんな未完成な状態のやつらを使ってエレノアは王都に攻めてきたんだ?」
ジャックにはエレノアの狙いがわからなかった。
王都を攻め滅ぼすにしてもたった五〇〇〇ではこの王都を滅ぼすことはできない。数で押し切るにして地方都心ならともかくこの王都を落とすことはできないだろう。
ここには優秀なハンターがいる場所なのだから五〇〇〇の魔物ではそれなりに被害は与えるが絶望的な状況というわけでもない。
「だとしたら何が狙いだ……」
エレノアの狙いについて考えようとするがその前にバフォメットが炎を吐き出してきたので、そのことについては後にするジャック。
「まずはあいつを仕留めるか」
ジャックはそう言うと炎を掻い潜りバフォメットへと接近する。
バフォメットの炎は危険だが注意するのはそれだけでいい。炎は脅威だがバフォメットは動きが鈍重で炎を吐いた瞬間に大きな隙が出来る。そこをつけばC級ハンターでも倒せなくもない。
「はあああ!」
バフォメットに接近したジャックは剣を横なぎに振り払う。
「ヴェエエエ!」
バフォメットは後ろに下がってその剣撃をかわす。
「ちっ! 巨体の割にすばしっこい。こいつも大蛇と同じように改造されてるのか」
一撃で仕留める予定だったがそれをかわしたバフォメットがただのバフォメットではないとジャックは冷静に分析する。
「だがその程度では俺には勝てると思うなよ。血液操作」
ジャックは己に流れる血液の流れを加速させる。運動の前に身体をウォーミングアップすることで動きが良くなるように、血流を加速させることで体内の血のめぐりを速くし一時的に身体能力を向上させることが出来るのだ。そしてジャックはそのままバフォメットへと再び接近する。
「ヴェエ!?」
さっきとは段違いに違うジャックの動きの速さにバフォメットは驚きを隠せない。そんなことをしている間にジャックの剣撃が襲い掛かる。
「おらっ!」
バフォメットはそれをかわそうとするが遅かった。ジャックの振るった剣がバフォメットの腕を切り落とす。
「ヴェエエエエエエ!」
腕を切り落とされて怯むバフォメットにジャックは容赦なく次の攻撃を加える。
腕を切り落とした状態から身体を捻りもう一撃を加えバフォメットを斬り伏せる。
「おおおっ!」
バフォメットを倒したことで守備隊の面々から歓声が上がるがジャックはそれを気にすることなく二匹目のバフォメットを倒しにかかっていた。マジーナもジャックのフォローをしながら大蛇を倒していく。
そしてそれから一〇体ほど危険種を倒したところで援軍がやってきたのでジャックは休みを取るためにマジーナを連れて後ろに下がる。
この国で活躍しているハンターが総出で魔物を討ち取りに来たのだ。一、二時間もあれば魔物の群れも倒せるだろう。
「……っ!」
そこでジャックはエレノアの狙いに気が付く。
「そうかそういうことか。となるとあいつの狙いは……」
「どうしたのだジャック?」
考え込むジャックにマジーナが訊ねる。
「すぐに街に戻るぞ」
「えっ? そんなことをしたら後で怒られるのだ」
「そんなことはお前が気にすることじゃない。怒られるのは俺だけだ」
「でも……」
「来ないなら置いていく」
「あっ! 待つのだジャック」
ジャックとマジーナは街へと向かう。それを見た他のハンターが魔物を前に逃げ出すのか腰抜けの罵るがジャックは相手にせず街へと駆けて行った。




