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18話

「ジャックを探すと言ってもどうやって探すのだ? わたしはジャックがどこにいるのか知らないのだ」


 ミューズに連れられてカフェを出たマジーナはどうやってジャックを探すのか質問する。マジーナはジャックが休みの日に何をしているか全く知らない。そんな手がかりが何もない状態でこの広い王都から目的の人物を探し出すのは至難の業だ。


「それなら大丈夫大丈夫。なんたってこっちには人形ドールのフォルスを持つシエルがいるからね」


「へ?」


 何が大丈夫なのかわからず首を傾げるマジーナ。シエルが人形を生み出しその生み出した人形を自在に操ることのできるフォルスだと言うことは知っているが、そのフォルスで人探しが出来るというのは初耳だ。


「あー、あんたは知らないのか。シエルのやつは前に付き合っていた男の浮気が気になって街中に人形を配置して監視してやがったんだ」


「か、監視……それは恐いのだ」


「あれっ? そういえば結局その男は浮気してたんだっけ?」


「えー? なんのことかなー? あたしは何も知らないよー」


「何とぼけてんのさ。あんたが付き合っていた男のことだろ」


「ミューミュー、あたしは誰かと付き合ったことがないからわかんないなー」


「いやいや私はあんたから直接……」


「ミューミュー」


 ガシッとミューズの肩を掴むシエル。顔と口調はあいかわらずほんわかしているのに目はどこか狂気がはらんでいる。


 これ以上深入りしたらマズイと本能が危険を感じそのことについては今後一切忘れようと誓うミューズ。


「ごめん私の勘違いだったわ」


「なんだ、ミューズの勘違いか」


 ミューズの意言葉を素直に信じるマジーナは安堵するように言う。


「うーん。けどミューミューが言ったように人形を街中に配置して探すのが一番いいかもねー。初めてだから上手くできるかわからないけどやってみよー。初めてやるから上手くできるかなー」


「……」


 なぜ初めてを強調するように二回も言うのか気になったが命が惜しいミューズはそのことについて突っ込まない。


「いでよー、スタッフドベアー」


 シエルのフォルスが発動すると光に包まれて全長五センチほどのクマのぬいぐるみが次々と現れ街中に散っていく。なぜかクマの手には包丁が持たされており身体のいたるところに赤いものがこびりついていた。


「……」


 現れたクマに気になる点があるが絶対に突っ込まないぞと自分に言い聞かせるミューズ。


「おお! シエルがこんなに小さなぬいぐるみを生み出すこともできるなんて知らなかったのだ! 初めてなのにすごいのだ」


「そうだねー。初めてなんだけど上手くできてよかったよー」


「ところでこのクマのぬいぐるみは何でみんな包丁を持っているのだ?」


「えー、何でってそれはもちろん刺すために決まってるよー」


「……」


 誰を? と突っ込みたくなるがミューズはそれを堪える。その代わりにマジーナが誰を相手にするのか気が付いたようだ。


「あー。迷宮とかで魔物とかと出会ったら戦わないといけないからか。そこまで先のことを考えているとはさすがシエルなのだ」


「マジマジはいい子だねー」


「よすのだ。褒めても何も出ないのだ」


「本当にあんたっていい子だね」


 ミューズもマジーナの純粋っぷりがうらやましく思いマジーナの頭を撫でてやる。


「あー! 見つけたよー」


「えっ? もうなのだ?」


 フォルスを発動してまだ数分しか経っていないのにジャックを見つけたことに驚くマジーナ。


「たぶんねー。マジマジから見せてもらった魔法写真マジックフォトで見せてもらった人だと思うよー」


「初めてなのにすごいのだ」


「本当だねー。初めてなのにすぐに見つけたよー。たぶん彼がこの近くのハンター総本部にいたから初めてでもすぐに見つかったんだよー」


「ハンター総本部? 何でジャックはそんなところにいるのだ?」


 ハンター総本部は普通のハンターが滅多に行くことはない。大抵の用は各ハンターギルドに行けば済むからだ。


「さぁー。何か調べ物をしているみたいだけど行ってみればわかるんじゃないかなー」


「う、うむ。そうなのだ」


 マジーナは少し緊張した面持ちで答える。そして身だしなみが気になり私服に何の問題のないことを確認しながら手櫛で髪を整えジャックがいるであろうハンター総本部に向かった。


 ハンター総本部はマジーナ達がいたカフェから歩いて一五分ぐらいで着いた。


 ハンター総本部に入るにはハンターライセンスが必要になるためそれを見せて中に入る。この中には機密書類等があるためハンターでなければ中には入ることは出来ない。そう考えるとシエルの人形は何故この中にいたジャックを探し出すことが出来たのか不思議に思うが、今はそれよりもジャックに私服を見られるという緊張感でそれどころではなかった


 ジャックがいるのは三階の資料室なのでそわそわしながら階段を登る。三階に上がるとミューズはジャックをすぐに見つける。ジャックは何か調べ物をしているのかテーブルに資料を広げながら考え込んでいた。


「いたわね。あれがマジーナの想い人かぁ」


「べ、別に想い人とかそんなのじゃないのだ」


「あんたね……」


 ここまで来て未だに自分の気持ちを認めないマジーナにミューズはため息をこぼす。


「……ん?」


 ミューズがやれやれと首を横に振るとジャックから少し離れたところから自分たちと同じようにジャックを見詰める人の姿があった。


「ああっ! まさかこんなところで愛しのジャック様にお会いできるなんてこれはまさか運命! 神の与えた奇跡! そうに違いありません。何やらジャック様はお悩みのご様子。この光の聖女ことフィリアスがジャック様のお悩みを解決させてみせます。そしてそのあかつきにはジャック様から熱い接吻が……ぐへへ」


「うわぁ。あの人よだれを垂らしてる。顔はいいのに勿体ない……ってあれっ? ちょっと待って。あの人今フィリアスって言った? 聞き間違いじゃなく? 言われてみれば光の聖女様に似ているような似てないような」


 いつも読んでいる新天地ハンター向けの雑誌に出てくるお淑やかなイメージのフィリアスとかけ離れただらしない表情を浮かべる人物が同一人物なのか疑うミューズ。そしてどうか他人の空似であって欲しいと切に願う。同じ新天地ハンターとして憧れている人物が男を前にしてよだれを垂らすような変人だとは信じたくはなかった。


「ミューミュー」


「どうしたのシエル?」


「あの人って絶対零度コキュートスさんかなー?」


「何言ってるのよ。そんな超有名人がこんなところにいるわけないでしょ」


 と断言しつつシエルの指差した方向を見ると柱の陰に隠れながらジャックに熱い視線を送る青い髪の少女がいた。


「……物思いにふけるジャックも素敵」


 そう言いながら恍惚とした表情を浮かべる青い髪の少女。あれは恋する乙女の表情だとミューズは確信する。


 しかしあれが氷の美少女と言われた絶対零度なのだろうかと疑問に思う。


 無表情で無感情。それが絶対零度さんのアイデンティティーなのにそれが崩壊するほど顔がにやけていた。


 おまけにその人物も光の聖女同じジャックという男に惚れこんでいるみたいだ。


「マジーナ。あんたには勝ち目がないかもね」


 仮にも新天地ハンターと迷宮ハンターでアイドルのように扱われる二人が相手ではマジーナではつけ入る隙はなさそうだ。マジーナも顔が悪いわけではないがあの二人には敵いそうもない。それだけあの二人が並はずれているのだ。あの二人からアプローチをかけられて落ちない男などいるはずがないのだ。


 幸いマジーナは緊張していて二人の存在には気がついてはいない。


「おっとこうしている場合ではありませんね。さっそくジャック様にお声掛けしませんと……」


 憐れんだミューズはマジーナになんて声をかけようかと考えていると、光の聖女が歩み出そうとすると地面に転ぶ。


「ぶへらっ!」


 とても女の子が出してはいけないような声をあげながらパンツを丸見えにする光の聖女。


「これはどういうおつもりですかココさん」


 そして光の聖女は立ち上がりながら絶対零度へと視線を向ける。


「……ジャックは私の夫となる人。あなたみたいな泥棒猫はジャックに近づけないのは当然のこと」


「あらあらおかしいですね。あなたのような人がわたくしを差し置いてジャック様の伴侶になろうなんて一〇〇年早いんじゃないかしら」


「……そんな脂肪の塊なんかにジャックはこだわらない。大事なのは感度だから。……それに私はジャックと手を握ったこともある」


「て、手を!? なんて羨ましい。ですがわたくしはジャック様におでこに手を当ててもらったことがあります」


「……むっ。ずるい。けど私はジャックにおんぶしてもらったことがあるもん」


「わ、わたくしだってジャック様にお姫様抱っこをしてもらったことがあります」


「……」


「……」


 張り合う二人は明らかに敵意をむき出しにバチバチと火花を散らせる。


 そんなくだらない言い争いをする二人を傍からみていたミューズは子供か! と思わず突っ込んでしまいそうになる。


「あの二人は未だに白馬に乗った王子様が迎えに来てくれるとか信じてそうなタイプだな。これなら案外あんたにも勝ち目が……」


「むむむ、ずるいのだ。わたしだってお姫様抱っこされたいのだ……」


 二人の言い争いに気が付いたマジーナがうらやましそうに言う。


「あんたも同類か……ってかあの人たちこんなところでフォルスを使ってるし」


 二人と同じようにスイーツなマジーナにミューズがあきれていると、二人はフォルスを使い出していた。


 絶対零度がフォルスを発動させて氷の壁を作りだし、それを瞬時に溶かす光の聖女。そしておかえしと言わんばかりに光の槍を投擲する。


「危ないのだ」


 光の槍が投げられたのを見てマジーナはそれがジャックに当たるかもしれないと見て慌てて飛びだした。


「キーンエッジ!」


 マジーナのフォルスにより現れた白銀の刃が光の槍とぶつかり相殺される。そしてジャックの身が心配になったマジーナは慌ててジャックの元へと駆け寄っていった


「大丈夫なのかジャック」


「ああ、おかげで助かった。でもどうしてもお前がここにいるんだ? 今日は休みだったはずだが?」


「それは……」


 マジーナは自分がここにいる理由を思い返し言葉に詰まっているのを見て、ミューズが代わりに説明してやろうとジャックに近寄ろうとすると、けたたましいサイレンの音が響き渡った。


 そのサイレンの音を聞いてこの場にいた全てのものの顔が険しい顔つきへと変わる。


 王都でサイレンが響き渡る理由はただひとつ。


 魔物の襲来を告げる音だ。


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