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16話

 ジャック達がサハギン族のいる村から王都に帰還して一ヶ月が過ぎていた。


「えーと、待ち合わせの場所は……」


 人込みで賑わう王都の大通りを歩きながらマジーナは地図と睨めっこをしながら歩んでいた。


 今日はハンターの仕事がないのでマジーナの恰好はハンター育成学校の制服ではなく私服だ。白いワンピースに髪をサイドアップにまとめて女の子らしい可愛らしい出で立ちだ。


「あれ? もしかしてあそこなのだ?」


 大取りを歩くこと数分。マジーナはもらった地図と見比べて確認する。


「ハートブレイクカフェ。なんだか不吉そうな店名なのだ。でも地図に書かれている店はあそこで間違いないのだ」


 看板と指定された店の名前が一緒なのを確認してマジーナは店内に入る。


 幸いハートブレイクという名とは対照的に店内の内装は整っており失恋を思わせるネガティブな要素は見当たらず普通にお洒落なカフェだった。強いて言うのならカップル客が一組もいないことだろうか。


「こっちよこっち」


 店内をもの珍しそうにキョロキョロするマジーナを見つけた赤髪の快活そうな少女が席を立ち上がりながら手招きをして呼ぶ。マジーナもそれに気が付いて赤髪の少女がいるテーブルへ近づく。


「すまないのだ。少し店の場所がわからなくて遅れてしまったのだ」


「いいのいいの私らもさっき来たところだし。それよりも久しぶりねマジーナ。卒業してからだから一ヶ月ぶりだ」


「うむ、久しぶりなのだミューズ」


 マジーナはハンター育成学校の友人との再会にマジーナは顔を綻ばせながら喜ぶ。


「マジマジーあたしもいるよー」


 やや間延びするような声でマジーナに話しかけてきたのはミューズの隣の席に座っていた茶髪の少女。


「シエルも久しぶりなのだ」


 そう言いながらマジーナは席に座ると店員に飲み物を注文する。そして飲み物がやってくると三人は再会を祝して乾杯をする。


「いやー、にしてもあたしらも卒業して一ヶ月か。みんな卒業後はどんな感じなの?」


 乾杯を終えるとミューズがそれぞれの進んだ進路について話を切り出す。


「んー。私は迷宮ハンターになったけど、思ってたよりも稼げないよねー」


 話を振られシエルがここ一ヶ月のことを振り返りながら話す。


「迷宮に潜ればお宝をがっぽがっぽ稼げると思ったらそうでもないんだよねー。浅い階層だといいお宝も全然落ちてないからその日暮らしでいっぱいいっぱいなのよねー。かといって深い階層に行くにはリスクが跳ね上がるしー。前に新人ハンターの何人かが無理して深い階層に潜って半死半生で帰って来たしー。もっとパパーって稼げると思ってたけど現実は厳しいもんなんだねー」


 理想と現実との違いにふて腐れるように語るシエル。それに賛同するようにミューズも喋る。


「わかるわー! あたしも稼げると思って新天地ハンターになったのにさ、新人だと危険度の高い未開拓地に行ってもすぐに死んじゃうみたいなんだよね。だから行けるとしたらすでに先駆者が危険な魔物を狩りつくしたようなところばっかで財宝とかもほとんど残ってないのよ。有名なクランに所属すれ別だけどそういうのってうちの学校をトップクラスで卒業しないと勧誘されないんだよね」


「やっぱそうだよねー。うちのところも同じだよー。優秀な若手は大きいクランに所属するみたいだねー。そう思うとソロでやっている絶対零度コキュートスさんはすごいと思うよー」


「あー、迷宮ハンターの超有名人の絶対零度さんか。あの人はすごいよねー。氷の美少女なんて言われてファンもいっぱいいるみたいだし何より強いし。でもうちのところの光の聖女様の方もすごいよ」


「新天地ハンターの光の聖女様かー。あの人もすごいよねー。ソロで危険な新天地を次々と探索している人だよねー」


「そうそう。絶対零度さんと同じぐらいファンが多いのよね。私のところの男のハンターなんてそれ目当てで新天地ハンターになったやつも結構いるみたいだし」


「うちのところもそうだよー。絶対零度さんに氷漬けにされたくて迷宮ハンターになった人がいっぱいいるよー」


「かー、男ってのはどうしてこうもバカなんだかねー」


「ほんとほんとー」


 と同じハンターである同僚たちのグチをこぼす二人の少女たち。


 そんな二人の話を聞いていたマジーナは。


「へー、そうなのだー」


 ジャックを追って美食ハンターになったマジーナは他人事と言えないので紅茶を飲みながら二人とも色々と大変そうだなーと聞き流す。


「いやいや! なに他人事のみたいに聞き流してんのよ! そういうあんたはどうなのよ?」


 他人事のように言うマジーナにミューズが訊ねる。


「どう? って何がなのだ?」


「何がじゃないわよ。新天地ハンターと迷宮ハンターの有名クランからも勧誘を受けておきながらそれを蹴って美食ハンターなんかになってあんたは何してるのよ」


「何って、まあ色々なのだ……」


 マジーナはつい先日訪れたサハギン族の村のことを思い返し苦笑する。ちなみにお茶菓子としてウロコチップスがテーブルに置かれているがマジーナは一切口にしていない。


「けどまさかバジリスクと戦うなんて思ってみなかったのだ」


 バジリスクとの戦いのことを思い返し結構無茶をしたなーっと反省する。


「「はぁー!」」


 一方マジーナがバジリスクと戦ったと聞いてミューズとシエルの二人が席から身を乗り出しながら驚く。


「バジリスクってあのバジリスク!? パチリスクじゃなくて?」


 パチリスクとはバジリスクと見た目がよく似ている紛らわしい蛇のことである。似ているのは見た目だけで毒もなく大蛇よりも弱い。一説にはその弱さを隠すためにバジリスクに擬態していると言われている。


「本当なのだ。毒も吐いてきたしあの時は死ぬかと思ったのだ」


 信用しない二人にマジーナは身振り手振りを加えながら説明する。するとミューズが事の重大さを理解していないマジーナに少しキレ気味に注意する。


「死ぬかもってね! バジリスクなんて新人が相手にするようなもんじゃないのよ。討伐方法が確立されているって言ってもAランクの危険種なのよ。Bランクのハンターが集まってやっと倒せるかもしれないって相手よ。私ら最低ランクのGランクハンターがまともに太刀打ちできるような相手じゃないのよ」


「……むむむ。それぐらいわかっているのだ」


「わかってないわよ。何でよりにもよって美食ハンターがそんな危険種と戦っているのよ」


「それは……」


 もごもごと口を濁すマジーナ。


 ジャックから錬生術師のことは周りの人間には言うなと厳命されているから詳しいことは言えないのだ。幸いミューズもそこにはそこまで細かく聞く気はなく他のことが気になっていたので詳しく聞かれることはなかった。


「ってかよくバジリスクと対峙して生き残れたわね」


「それはジャックのおかげなのだ」


「ジャック? 誰よそれ」


 ミューズがチラリとシエルに向けるがシエルもジャックに心当たりがなく首を横に振る。


「ジャックはわたしのパートナーなのだ。ジャックは凄いのだ。あのバジリスクを一撃で仕留めたのだ」


 一方のマジーナは誇らしげに胸を張って答える。


「ジャックねぇ。もしかしてあんたが美食ハンターになったのってそのジャックって人がいるからなの?」


 マジーナの態度に違和感を感じたミューズが問うと学生時代のマジーナをよく知っているシエルが否定する


「えー、それはないよミューミュー。学校でも恋とかに無縁だったあのマジマジがそんな理由で進路を選ぶわけないよー」


「しょしょしょうなのだ! わたしはジャックと一緒ににゃりたいから美食ハンターににゃったわけがにゃいのだ!」


「……あんたわかりやす過ぎでしょ」


 あからさまに動揺するマジーナにミューズがあきれるように言う。


「本当だねー。こんなマジマジ初めて見たよー」


「でも美食ハンターにバジリスクを一撃で倒せるほどの凄腕がいるなんて聞いたことがないわね」


「あたしも初耳だよー」


「仕方がない。そのマジーナの好きな人を一目見に行こうか」


「そーしよー」


「えっ? 何でそうなるのだ? それにわたしは別にジャックのことが好きというわけでは……なくもないのだが……」


「あんたもハッキリしないね。そんなんじゃ他の女の取られちゃうよ」


「それは嫌なのだ!」


 マジーナは咄嗟に声に出すがすぐにハッとする。


 そして対面に座るミューズとシエルが面白いオモチャでも見つけたかのようにニヤニヤと笑っていた。


「よし! ってことでジャックって人がどういう人なのか今から観察しに行くわよ」


「い、今からなのだ!?」


「当然よ。ジャックって人がどういう人物なのか私らはマジーナの友人としてチェックしないといけないから」


 そう言うなりミューズはちゃっちゃっとお会計を済ませるとマジーナを連れてジャックを探しに行くべく行動に移した。

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