15話
ドサリとバジリスクだったものが地面を転がる。バジリスクはジャックの血液爆発により上半身は跡形もなく吹き飛び残った下半身もかろうじて残っている状態だった。
「やったのだ!」
バジリスクを倒したのを確認してマジーナは両手をグッと握りしめガッツポーズをとる。
そんな喜びを身体で表現するマジーナにジャックは近づくと軽く小突く。
「油断するなと言っただろう、バカ」
「あいたっ! すまないのだ」
ジャックに言われ、これまで散々油断して危ない目にあってきたマジーナは慌てて周囲を警戒し安全を確認する。
大量にいた大蛇はバジリスクとの戦いに巻き込まれ生き残ってはおらず、サハギン族もバジリスクとの戦いで疲弊しており喜びを感じるよりもグッタリとしていた。
「よし」
安全だとわかり再びガッツポーズをするマジーナ。そしてマジーナはジャックに目をキラキラさせながら話しかける。
「さすがジャックなのだ。あのバジリスクを一撃で倒すなんてすごいのだ」
「お前もよくやったなマジーナ」
素っ気なく答えるジャックだったが、マジーナは驚き固まってしまう。
「ふぇ? ジャックがわたしのことを名前で呼んだのだ」
今までちんちくりんだとかお前やバカと呼ばされたがまともに名前で呼ばれたことはなかった。それはつまり今の戦いでジャックは少しは自分を認めてくれたということだ。そのことがわかりマジーナは喜びにへらと表情を崩す。
「何でそんなに喜んでいるんだ?」
ジャックは表情を崩すマジーナの気持ちがわからず怪訝そうに見る。
「仕方ないのだ。わたしとってはすごく嬉しいことなのだ」
「わけがわからん」
本当にわからないようでジャックは頭を振るが、立ちくらみを起こしよろめく。
「大丈夫なのかジャック」
よろめくジャックにマジーナは慌てて駆け寄る。
「心配はいらない。ただの貧血だ」
ジャックは駆け寄ろうとするマジーナを手で制す。ただでさえ今日一日でかなりの量の血を使い病み上がりのうえバジリスクを倒すために血を圧縮して放ったために血が足りなくなるのは当然だった。
そんな状態でもジャックとしてはマジーナに聞きたいことがあった。
「……それよりもさっき言っていた血清ってのは誰が打ったんだ? お前が打ってないのは間違いないだろ」
「誰って……はっ! もしやジャックはああいうのが好みなのだ!?」
マジーナは血清を打ったエレノアのむちむちボディを思い返しそんな勘繰りをする。
「何を言ってんだお前は?」
そんなマジーナにあきれ返るジャック。
「それよりもその血清を打ったやつは誰なんだ。おそらくそいつがこのバジリスクと大蛇をけしかけた犯人だ」
「ど、どういうことなのだ!?」
「どうもこうもない。大蛇は本来なら毒なんか持っちゃいない蛇だ。そんな大蛇の血清を持っているとなるとそいつがその大蛇を作りだしたってことに違いないだろ。バジリスクもこんなところに出てくる生物じゃないからな。そいつが作りだしたんだろう」
「作りだす? 何を言っているのだジャック? 魔物を作りだすなんてことできるわけがないのだ」
「出来る。錬生術師ならそれが可能だ」
「錬生術師?」
聞きなれない言葉にマジーナは目をぱちくりさせる。
「あまり公には知られていないがそう生物を人工的に作りだす連中のことだ」
「じゃあエレノアさんはその錬生術師なのだ?」
「間違いない」
ジャックは確信を抱きながら答える。
「それでそのエレノアってやつはどこにいる?」
「わかんないのだ。数時間前に村を出て行ったらしいけど行先までは知らないのだ」
「数時間前か。今なら探せば見つけられるか」
エレノアを探そうとするジャック。しかしボロボロのジャックの身を心配しマジーナは止めようとする。
「無茶なのだ! いくらジャックでも今の状態でまともに人探しなどできないのだ」
「それもそうだが……」
ジャックは考える。このまま見逃すか、それとも追いかけるか。
いや考えるまでもない。今の状況で無理をすればどうなるかジャックにも十分わかっていた。追いかけたところで今の自分に何が出来るだろうか……。
「仕方がない。今は諦めて身体を休める。その代わりサハギン族の連中からそのエレノアがここで何をしていたか調べるとしよう」
☆
ジャックがエレノアの正体に気付いた頃、当のエレノアは森の中を自身が生み出した人口生命体のケルピーに跨り森を駆けていた。
「まさかこんなところにハンターがやってくるなんて予想外だったわね。もう少しサハギン族のあの生命力と回復力の秘密について解明してみたかったけど残念ね」
とエレノアはサハギン族の村の方角を見ながらぼやく。
生物を超越したあのサハギン族の生命力と回復力を研究して人口生命体にも取り入れよとしたエレノアだったが、結果はあまり成果がなかった。人口生命体でサハギンの細胞を使って作りだしてもあれほどの生命力と回復力を得た個体は生まれてこなかったのだ。今まで色んな生物の人口生命体を作ってきたがこんなことはなかったのに。
それだけサハギン族の神秘は深いということなのだろうか。これまで数多くの学者が研究してもあの生命力と回復力の秘密を解けなかったのだからしょうがないと言えばしょうがなかった。ある学者がサハギン族はあの生命力と回復力と引き換えに生物として大切な何を失ったのだと言っていたのもあながち間違いではないのかと思ってしまうほどだ。
しかしそれでもエレノアにとって得る者はあった。
「まさかサハギンの因子が他の因子との繋がりを持たせることができることを発見できたのは予想外だったわ」
彼女が発見したのはサハギンの因子を使えば他の生物の因子との繋がりを持たせたまま錬生できることだった。これまで他の生物の特性を持ったまま生物の錬生はできなかった。二つの因子を掛け合わせてもベースとなる因子に飲み込まれてしまうだけだったのだ。
しかし今回作りだした大蛇はバジリスクの因子を持たせることで毒を持った大蛇が作りだすことができたのだ。もちろん本来のバジリスクの毒と比べると明らかに劣化しているがそれだけでも大発見であった。
「これで計画は大分前倒しできそうね。」
満足そうな笑みを浮かべるエレノアだったが、ふとサハギン族の村で会った二人のハンターを思い返す。
「あの二人はカナイの森にいた人物と同一人物だったけどこれは偶然? それとも私の存在に気が付いてやってきたのかしら……」
自分の計画に勘付いて捕まえにやって来のかと考えを巡らせるがマジーナのことを思いだしそれはないと判断する。
「あんな新人のハンターを連れて私を捕まえに来るわけがないわね。けどもしかしたら毒にやられていたあの男……ジャックと言ったかしら? あの男の方は血清から私の正体に勘付くかもしれないね」
ジャックはカナイの森の時から自分のことを探しているようだったからあの血清から自分が錬生術師だと勘付いてもおかしくはなかった。
それ以前にこんなサハギン族の村にいた自分を怪しんで何か探りを入れてきたかもしれない。そう思うとジャックが気絶していたのは幸いだったかもしれない。
「でもまあ仮に勘付いても今頃バジリスクと大蛇が村を襲撃しているはずだから問題はないでしょう。仕留められなくても足止めが出来れば上々だわ」
そう言ってエレノアは首に巻いていたロケットペンダントに入っている魔法写真を見る。
「私はこんなところで捕まるわけにはいかないわ。父さんに母さん、そして妹を殺したこの国に復讐するまでは……」




