14話
サハギン族総出でバジリスクを倒そうと立ち向かったが……その結果は燦々たるものだった。
バジリスクに攻撃を繰り出しても武器は瞬時に溶けてしまい使い物にならなくなる。ならばと捨て身でバジリスクにタックルを仕掛けようとするもののするりとかわされたあげく毒液を吐き捨てられて悶え苦しむ始末。その巻き添えを喰らい大蛇も溶かされるがバジリスクは関係なく大蛇ことサハギンを攻撃してきた。マジーナも援護としてフォルスを使うが白銀の刃も毒の前にあっけなく溶かされてしまっていた。
そんなこんなでサハギン族はものの数分でなすすべもなく撃退されてしまった。
「痛いギョ!」
毒にやられ地面をのた打ち回るサハギン族。それでもサハギン族の目は死んではいなかった。どんな目に合ってもお宝を守る。目は雄弁に語っていた。
「まだまだギョ」
毒で動くものキツイはずなのにタマオは立ち上がりバジリスクに攻撃を仕掛ける。
「すごい執念なのだ」
その姿にマジーナも圧倒される。これが仲間のためだったら感動してもおかしくはなかった。
そしてバジリスクに攻撃を仕掛けるタマオを援護するようにマジーナはフォルスを発動させる。マジーナとしてもこの先にジャックが寝ている以上通すわけにはいかないのだ。
「キーンエッジ!」
輝く粒子とともに白銀の刃がバジリスク目掛けて出現する。
「シャー」
しかし白銀の刃はバジリスクの毒で溶けて霧散していしまう。
「今だギョ」
バジリスクの注意が白銀の刃に向いたその瞬間を狙ってタマオがタックルをぶちかます。当然バジリスクに近づいた瞬間に毒の影響で自身に激痛が襲うがお宝のためと割り切り耐える。
「まだまだギョ!」
タックルをまともに喰らい吹き飛ばされたバジリスクに覆いかさばると、タマオは拳を握り締め追い討ちをかける。バジリスクの身体にタマオの拳が叩き込まれる。叩き込んだタマオの拳は毒により腐敗し変色するがタマオは構わず攻撃を繰り出す。
バジリスクも自分の毒をこんなに耐える生物がいることに驚きを隠せなかった。
「オラオラオラオラオラオラ! お前なんかにパンツを奪わせないギョ」
凄まじい執念で追い討ちをかけるタマオだったがバジリスクもただ何も抵抗せずにやられているわけではなかった。
「シャー!」
バジリスクの口から大量に吐き出される毒液。これは周囲に発している毒とは濃度が違う。いわば毒の原液のようなものだ。それをタマオは全身に浴びせられた。
「ギョッ!」
さすがにこれにはたまらずタマオも地面を転げまわる余裕もなくうつぶせに倒れビクンビクンと痙攣をおこす。普通の生物ならとっくに死んでいるがこれでも死なないのはさすがサハギン族といったところだろう。
「……」
他のサハギン族はタマオのありさまを見て勝てないのではないかと戦意が失われていく。
「おのれっ! よくも息子を! 許さんギョ」
唯一戦意が削がれていなかったタマオの父タマギンが果敢に特攻するもののタマオと同じように毒液を浴びタマオの隣でビクンビクンと痙攣するハメになった。
タマオ達を返り討ちにしたバジリスクは悠然と這いずり着実に村へと迫りつつある。
「くっ! どうすればいいのだ」
マジーナは考える。
戦意を削がれたサハギン族はもう完全に戦えない。となるとバジリスクに立ち向かえるのは自分一人のみ。
だがサハギン族と違い人間族である自分はバジリスクに接近されたらそれだけで即死だ。バジリスクの身体から発せられる毒の射程範囲は半径三〇センチ程度。幸いバジリスクの動きはタマオの殴打のダメージがあるのか動きが鈍い。余裕を持って動けば接近されずなんとかなる。
問題は攻撃をどうやって当てるかだ。たとえ毒を喰らわなくてもダメージを与えなければ意味がないのだ。
近づくことができない以上遠距離攻撃で仕留めようにもマジーナのフォルスではあっという当たる前に溶かされてしまう。
いくら考えようにも今のマジーナではバジリスクを倒す手段がない。
しかし逃げるわけにはいかない。村にはジャックが休んでいるのだ。せめてジャックが目覚めるまで時間稼ぎぐらいはしようと死ぬ覚悟を決め飛び出そうとするマジーナだったがその首根っこを誰かに掴まれる。
「うぐっ」
「バカ野郎、死ぬ気か」
「その声は……ジャック!」
マジーナが後ろを振り返るとそこには村のテントで療養中のジャックの姿があった。
「どうしてジャックがここに? しばらく目を覚まさないじゃ……」
ジャックを診たエレノアの見立てでは二、三日で目を覚ますという話だった。あれからまだ数時間しか経っていない。
「知るか。俺も思っていたよりも早く目が覚めて不思議なくらいだ。その理由を聞こうとお前を探してたらこのありさまだ。お前は俺に何をした」
「何をしたと言われても何もしてないのだ。せいぜい大蛇の血清を打ってもらったぐらいなのだ」
「……血清?」
マジーナの言葉に眉をしかめるジャック。
「そのことを詳しく聞きたいが今は時間がない。バジリスクを倒すのが先決だな」
気持ちを切り替え目の前に迫りつつあるバジリスクに視線を移すジャック。バジリスクはジャックが登場すると生物の本能からか警戒を高めゆっくりとジャックに迫りつつあった。
「何かあいつを倒す算段があるのだ?」
「なくはない。だがあいにく俺は病み上がりで俺も本来の力を出せない」
ジャックは平然としているが、毒の効果はまだ完全に抜けきっておらず戦えるような状態ではなかった。
「だから三分だ。やつの注意を三分だけ引きつけろ」
「……三分」
「三分間やつを倒すために全身神経を集中させる。その間完全に無防備になるけどやれるか?」
「……自信はないのだ」
正直に返答するマジーナ。
これまで何一つ役になっていないのだ。任せろとはとてもじゃないが言えなかった。
「だろうな」
ジャックも正直に述べる。その言葉にマジーナはショックを受けるが否定することはできなかった。
「けどな、お前のポテンシャルなら出来るはずだ。お前は自分を信じれないかもしれないが、お前を信じる俺を信じろ。お前はまだフォルスの力を十全に活かしきれていない。フォルスの力ってのは想いの強さだ。気持ちを強く持て」
ジャックはそう言って人差し指を噛み切ると銃を構える様に人差し指を前に出し、目を瞑り意識を集中させる。
人差し指の先端からは血が集まり凝縮されていく。ジャックは血を圧縮して毒に溶かされない弾丸を作りだそうとしているのだ。
そのジャックの行動が危険だと本能的に察知したバジリスクはジャックへと襲い掛かろうとする。
「させないのだ! キーンエッジ」
白銀の刃がバジリスク目がけて出現する。
「シャー!」
現れた白銀の刃はバジリスクの毒に溶かされ霧散してしまった。バジリスクはそんな攻撃をものともせず真っ直ぐジャックへと近づいてくる。
「やっぱり当たらないのだ」
これまでと変わらない結果にマジーナは心が折れそうになるが、ジャックは目を閉じ集中している姿が目に入り気合いを入れ直す。
自分を信用しているジャックの期待だけは裏切りたくない。
――お前は自分を信じれないかもしれないが、お前を信じる俺を信じろ。
そう、ジャックは自分のことを信用してくれている。ならばその期待に応えたい。
――フォルスの力ってのは想いの強さだ。気持ちを強く持て。
その言葉がマジーナの中で反芻される。
ジャックを守る力が欲しい。そのためにはあの毒をものともしない強力な力が必要なのだ!
そう願う思いが力となりマジーナに新たな力を与える。
「燃え尽きろ! フレイムエッジ」
マジーナがそう唱えると赤い粒子がバジリスクの目の前に現れる。赤い粒子は次第に刃の形を形成し炎を帯びながらバジリスクへと伸びる。その刃はバジリスクの放つ毒を炎の力で圧倒し溶かされることなくバジリスクの身体へ肉薄する。
「シャー!?」
バジリスクもこの赤き刃が危険だと察し身をひるがえしかわす。それでもマジーナの放った炎の刃はバジリスクの身をかすめ焦がす。
バジリスクは自身の身体に傷を負わせたマジーナに脅威を感じターゲットをジャックからマジーナへ変更する。
「シャー!」
バジリスクは這い寄りながらもマジーナに威嚇するように毒液をまき散らす。
「燃え尽きろ! フレイムエッジ」
マジーナも距離を取りつつその毒液を回避しながら炎の刃で対抗する。
安全マージンをとって戦うマジーナには毒液が当たらず、それなりの距離をとっているためフォルスの発動や狙いに精細さがかけるためバジリスクに当たらない。
そんな一進一退の攻防を続ける両者だったが、それは突如終わりを告げる。
もうすぐで三分を経つだろうかと考えていたマジーナは距離を取るためにバックステップで下がると足元にぶにゅりと柔らかいものを踏みつけた感覚を味わう。この感覚は今日で二度目だ。
マジーナが足で踏みつけたのはタマオだった。
タマオを思いっきり踏みつけバランスを崩したマジーナは地面に転ぶ。
「しまったのだ」
マジーナが地面に転んだ隙をついてバジリスクが近づき毒液を吐こうと息を吸い込む。
もうダメだ。
そう思ったマジーナだったがバジリスクが毒液を吐き出す前にジャックの声が聞こえる。
「よくやった」
声のした方を見ると、ジャックの人差し指の先には直径一センチにも満たないほどの小さな血の塊があった。ジャックはそれをバジリスクに向けて放つ。
「血液弾」
ジャックの指から離れたそれはバジリスクに向けて真っ直ぐ進む。バジリスクの毒などものともせず溶けずに真っ直ぐと。
バジリスクもそれに気が付きマジーナに向けて吐こうとしていた毒の原液をそれに向けて吐き出す。
しかし毒の原液を受けても極限まで圧縮されたそれは完全に溶かされずバジリスクの眉間を貫く。
「血液爆発」
バジリスクの眉間を貫くとジャックはトドメと言わんばかりに血の弾丸を爆発させてバジリスクの頭を吹き飛ばした。




