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12話

「ごほっごほっ! あなたは誰なのだ」


 突然の来訪者にマジーナはむせ込みながら訊ねる。


「私はエレノア・マクガフィン。ここの族長に頼まれて病人を診に来た研究者よ」


 白衣を身に纏った人物は肩をすくめおどけるように自己紹介する。


「あなたが……」


 そう言ってマジーナはチラリと彼女の胸と自分の胸を見比べて負けた気分になる。そんなマジーナの肩をタマオがやさしく叩く。


「貧乳も需要はあるギョ」


「うるさいのだ!」


 マジーナはベシッと裏拳を叩きこむ。その際に拳がタマオの目に入りタマオは「目が。目がぁ」と騒ぎながら地面をのた打ち回る。


「自分にはまだ時間はあるのだ」


 将来に期待を込め自分を慰めるマジーナ。


「あっ、わたしはマジーナ・メッシーガ。新人の美食ハンターなのだ」


 マジーナは胸のことに意識がいって自己紹介をしていないのを思い出し自己紹介をする。


「美食ハンター? それがどうしてこんなところに?」


 美食ハンターと聞いてエレノアは興味深そうに訊ねてくる。


「あうっ! それは色々と事情があるのだ」


 マジーナはチラリとタマオを見ながら言いづらそうに答える。


「そう。それは残念ね」


 エレノアは深く詮索する気はないようであっさりと引き下がるとテントの真ん中で寝かされているジャックを指差す。


「それで私が診るのはそこで寝ている彼のことかしら?」


「そうなのだ! 早くジャックを診て欲しいのだ。大蛇の毒にやられて苦しんでいるのだ」


 マジーナはエレノアに頼み込む。


「ここの族長に頼まれて来たけど私は医療に対してそこまで詳しいわけじゃないのだけどね」


 エレノアは顎に人差し指を当て考え込む仕草をする。


「そこを何とかして欲しいのだ。私に出来ることなら何でもするのだ」


「……」


 必死に懇願するマジーナにエレノアは困ったように視線を彷徨わせる。


「ダメなのか?」


 マジーナのすがるような態度にエレノアは観念したように言う。


「……ない袖は振れないって言いたいけど幸い大蛇の血清を持っているからそれを打てばすぐによくなるわ」


「本当なのか」


 パーッと顔を輝かせるマジーナ。


「ええ」


 エレノアはなぜか複雑そうな表情を浮かべながら答える。


「じゃあお願いするのだ」


「わかったわ」


 エレノアは鞄から注射器と血清を取り出しジャックに注射する。注射されたジャックは「うっ」と少しだけ呻くがその後しばらくすると呼吸が落ち着き出す。


「あとはしばらく安静にしておけば大丈夫よ。順調にいけば明日にでも目が覚めると思うわ」


「よかったのだ」


 マジーナは安堵するとエレノアに頭を下げる。


「助かったのだ。この借りは必ず返すのだ」


「そう? じゃあ期待しないで待ってるわね」


「むむむ。そこは期待して欲しいのだ。何なら今すぐ借りを返してもいいのだ。特効薬の研究をしていると聞いたけどよかったらそのお手伝いをするのだ」


「残念ながら結構よ。研究も一段落したし私は今からここを発つから」


 何とか礼をしようとしたマジーナだが取りつく島もなく断られてしまう。


「それは残念なのだ。ではまた今度会った時に力になるのだ」


「次があるのならね」


 ニコッと笑みを浮かべて鞄を閉じるとエレノアはテントを後にする。残されたマジーナはそんなエレノアの感想をポツリとこぼす。


「すごい仕事ができる大人の女性って感じだったのだ」


 マジーナの無茶な頼みをすぐに答えてさっさと治療を終えて出ていく姿にマジーナはそんな印象を抱く。


「これが胸囲の格差者社会ってやつギョ」


「うるさいのだ」


 したり顔で語るタマオにマジーナの目つぶしが炸裂する。


「目が、目がぁ」


 地面をのた打ち回るタマオを無視しジャックに視線を向ける。この短時間でだいぶタマオの扱いになれたマジーナだった。


「ジャック。わたしは君に助けられてばかりで情けないのだ。でもいつかきっと助けられた恩を返すのだ。だからそれまで見捨てないで欲しいのだ」


 マジーナはジャックの無事をに安堵すると同時に不安でたまらなかった。こんな失態ばかりの自分をジャックが見捨てるんじゃないかと。目が覚めた瞬間にお前はいらないから王都に帰れと言われるんかもしれないと恐かった。


「ギョギョギョ! ジャックに限ってそれはないギョ」


 マジーナの話を聞いて笑うタマオ。


「ジャックは口は悪いし態度も生意気だけどなんやかんや言ってお人好しだギョ。誰かを見捨てるなんてしないギョ」


「そう……なのか?」


 マジーナは今までの素っ気ないジャックの態度を見るといまいち同意できなかった。


「そうだギョ。だってジャックはPTAに目をつけられてた俺っちサハギン族を助けるようなお人好しだギョ。普通は国をも滅ぼす恐ろしい組織に目をつけられた連中を助けてくれるような人間はいないギョ。例えそれが仕事だとしても。ましてや俺っちサハギン族は人間に嫌われているのにギョ」


 これまでの言動を見る限り確かこんな種族を助けたいと思う人間は中々いないだろう。


「そんなやつを助けようとするぐらいあいつは大馬鹿だギョ。だからお前を見捨てるなんてことはしないギョ」


「……そっか。励ましてくれてありがとうなのだ」


 少し心が楽になったマジーナは礼を言うとタマオは少し照れたように反論する。


「っんん! べ、別に励ましたわけじゃないギョ! 落ち込まれるといじりがいがなくなるギョ」


「照れてるのだ」


 今まで見せたことのないタマオの態度にマジーナはふふっと笑う。


「違うギョ! ったくこれだから人間族は優しくすると変な勘違いをするから嫌いなんだギョ……」


 ぶつぶつとぼやくタマオ。


「大変だギョ!」


 そんなタマオの達の元に髭面のサハギンがやってくる。タマオの父であるタマギンだ。


「どうしたんだギョ? 親父? 空から美少女でも落ちてきたギョ?」


「それはそれで大変ギョ! すぐにどんなパンツを履いているか確認しないといけないギョ……って違うギョ。大量の大蛇がこの村に押し寄せてきたギョ。あと数時間もしたら村までやってくるギョ。お前も戦える準備をするギョ」


「やつらこの村まで来ていたのかギョ」


「やつらのことを知っていたのかギョ?」


「さっき森で襲われたギョ」


「そうだったのかギョ。村でも何名か襲われた者がいるギョ。いくらサハギン族が大蛇に噛まれても命に別状はなくても痛いのは嫌ギョ。だから討伐隊を組んで打って出るつもりだったけどその前に敵からやってきたギョ」


「さっきまで村が慌ただしかったのはそういうことだったのかギョ」


 タマオは村の様子が慌ただしかったのを理由に納得する。


「戦いはめんどくさいギョ。それなら可愛い女の子のパンツを覗いている方が幸せギョ。でも可愛い女の子に痛めつけられるならともかく蛇ごときに痛めつけられるのは嫌ギョ」


 やれやれといった感じでタマオは重い腰をあげる。


「待つのだ。それならわたしも一緒に戦うのだ」


「本気かギョ? お前ら人間族は脆いギョ。大蛇に噛まれたらジャックと同じ目に合うギョよ? さっきの巨乳のおねーちゃんはもうこの村にはいないから毒にかかったら命の保障はできないギョ?」


「それでもかまわないのだ。ジャックが起きていたらきっとこうするのだ」


「やれやれ、困ったお嬢ちゃんギョ」


 微笑ましいものでも見るように言うタマギン。


 決意の固いマジーナを見てタマオは説得することは諦める。


「勝手にするギョ。 何かあっても俺っちは責任を取らないギョ。何かあってあとでジャックに文句を言われたくないギョ」


「わかったのだ」


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