第四章 入学式
いよいよ入学式。王都の新入生たちも集まり、レオの学校生活が始まります。
入学式の朝、学園の正門にはさまざまな乗り物が列を作っていた。
普通の馬車に交じって、騎竜に引かれた馬車や、ユニコーンの馬車まで並んでいる。レオは角のある白馬を、通り過ぎるまで目で追った。
馬に引かれていないのに、ひとりでに進む車もあった。
「あれは?」
「魔力自動車。見るの、初めて?」
アリアに聞かれ、レオはうなずいた。
「本では読んだことがあるけど、本当に走ってるところは初めて見たよ」
正門の前で乗り物が止まるたび、着飾った子供たちが降りてくる。
刺繍の入った上着や、つやのある靴。襟元や袖口にまで飾りのついた服を着ている子もいた。
「やっぱり、王都の子は華やかね」
アリアが少し羨ましそうに言った。
「王都の連中は、見せ方に気を使うからね」
マックスは腕を組み、正門を眺めていた。
「こっちじゃ服装で人を判断するところがあって、きちんとした服を着てないと、軽く見られるらしいよ」
デイビッドの言葉に、レオは自分の服を見下ろした。
母がきれいに直してくれた服だった。ただ、門から入ってくる子供たちと比べると、ずいぶん地味だった。
「本人たちは、それが誇りなんだろうけどね。カリオナ州じゃ、金のかかる見栄だって笑う人もいるよ」
マックスが言った。
一泊一ゴールドのホテルに泊まるのは、見栄ではないのだろうか。
レオは少しだけそう思ったが、口には出さなかった。
やがて、校内に案内の声が響いた。
『新入生の皆さん、ようこそ王立魔法学園へ。午前九時より入学式を行います。中央校舎の大講堂へお集まりください』
正門を見ていた子供たちが、校舎へ向き直った。
『入学式では、入学許可証を交付します。欠席した方、および入学許可証を受け取っていない方は、入学が認められません。必ずご出席ください』
「行こう。遅れたら大変だ」
レオが言うと、ボブもうなずいた。
「ここまで来て、入学できませんでした、じゃ困るもんな」
*
大講堂の入口では、一人ずつ小さな石板が渡された。
片手で持てるほどの長方形で、表面は白く、文字も模様もない。
レオは裏返してみたが、そちらも真っ白だった。
「これ、何に使うんだろう」
「あとで説明するんじゃない?」
アリアに言われ、レオはひとまず膝の上に置いた。
席が埋まった頃、時計塔の鐘が鳴った。
一つ、二つと数え、九で止まる。
「ただいまより、王立魔法学園の入学式を始めます。まずは、校長先生よりお言葉をいただきます」
職員が告げると、壇上に座っていたアスガルドが立ち上がった。
中央まで進み、新入生たちを見渡す。
「輝かしい歴史と伝統を持つ、我が王立魔法学園へようこそ。私は十年前、当校の校長に就任して以来、その歴史と伝統を受け継ぎ、さらなる発展のため、日夜努力を重ねてまいりました……」
レオは背筋を伸ばして聞いていた。
初めのうちは。
話は学園の歴史から、卒業生の功績へ移り、それから校長が就任してからの取り組みへ続いた。
そろそろ終わりだろうと思ったところで、また別の話が始まる。
レオは膝の上の石板を持ち直した。
隣のボブは、じっと床を見ている。少し離れた席では、こくりと頭を揺らしている子もいた。
「……以上をもちまして、私からの挨拶といたします」
拍手が起こった。
レオも手をたたきながら、小さく息を吐いた。
校長が席へ戻ると、今度は副校長のクリスティーナが立ち上がった。
家まで訪ねてきてくれたときとは違い、きちんとした式服を着ている。
「続いて、今年度より新設された奨学金制度について、お知らせします」
レオは顔を上げた。
「当校では初めての制度です。今年度は首席合格者のみを対象としますが、来年度以降、対象者を増やしていく予定です」
会場のあちこちで、小さな話し声がした。
「奨学金を受けた生徒には、卒業後、親衛魔法騎士団で五年間勤務する義務が課されます。ただ、親衛魔法騎士団は、入団を望んだからといって入れる場所ではありません。名誉ある騎士団への道が開かれるという点では、二重の恩恵ともいえるでしょう」
クリスティーナは一度言葉を切り、レオの方を見た。
「それでは、当校初の奨学生となる首席入学生を紹介します。レオ・ライオンハートさん。壇上へどうぞ」
「はい!」
思ったよりも大きな声が出た。
立ち上がった途端、周りの視線が集まる。
レオは椅子に足をぶつけないよう気をつけながら通路へ出て、壇上へ向かった。
近くまで行くと、クリスティーナが小さくうなずいた。
「おめでとう、レオ」
「ありがとうございます」
差し出された奨学証書を受け取る。
レオが頭を下げると、クリスティーナは証書を持つ右腕に手を添え、そのまま高く掲げた。
「皆さん、誇らしい同級生に拍手を」
講堂に拍手が広がった。
周りに合わせて手をたたく子が多い中、笑顔で盛んに拍手を送ってくれる子もいた。
ボブは、自分が呼ばれたわけでもないのに満面の笑みだった。その隣では、アリアもこちらを見て手をたたいている。
レオは照れくさくなり、少しだけ頭を下げた。
壇上を降りようとしたとき、一人の少女と目が合った。
長い金髪を下ろした、きれいな顔立ちの子だった。
少女は、まっすぐレオを見ていた。
その表情からは、何を考えているのかわからない。レオには、にらまれているように見えた。
どこかで会っただろうか。
思い当たらないまま目をそらし、レオは席へ戻った。
「さすが、コンサス州の誇り。首席合格者、レオ・ライオンハート様」
ボブが小声で言った。
「やめてよ……」
証書を膝に置き、レオは顔を伏せた。耳まで熱くなっていた。
「続いて、次席および第三位の合格者を発表します」
クリスティーナは、そのまま二人の紹介へと移った。
「この二名に奨学金はありませんが、四年間、特別室を使用する権利が与えられます。もちろん、首席合格者にも同様の権利があります」
クリスティーナは手元の紙へ目を落とした。
「次席合格者、エマ・ローゼンデールさん。第三位合格者、マルコ・グスタフさん。壇上へどうぞ」
立ち上がった少女を見て、レオははっとした。
さっき、こちらを見ていた子だった。
エマは落ち着いた足取りで壇上へ進み、証書を受け取った。拍手が起きると、軽く頭を下げた。
その隣で、マルコは嬉しそうに笑っていた。
客席へ手を振り、証書を胸の前で持ち直している。
並んでいる二人の様子は、まるで違っていた。
*
エマとマルコが席へ戻ると、クリスティーナは説明を続けた。
「最後に、入口でお渡しした石板についてです」
レオは膝の上の石板を手に取った。
「それは、学園からのさまざまな情報を受け取るための魔道具です。これから四年間、常に携帯し、連絡を確認してください」
白いだけの表面を、レオは改めて見つめた。
「紛失した場合、再発行はできます。ただし、高額の費用がかかりますので、大切に扱うように」
レオは思わず両手で持ち直した。
「それでは、石板に少しだけ魔力を注いでください」
言われたとおり、石板に少量の魔力を注ぐ。
すると、白い表面に青い文字が浮かんだ。
『入学許可証
氏名:レオ・ライオンハート
出身:コンサス州ウィチア郡
入学試験成績:四〇〇/四〇〇
順位:一/二〇〇
割当宿舎:特別室第一号
備考:特別奨学生・親衛魔法騎士団入団候補生』
レオは文字を目で追った。
入学許可証。
その文字を、もう一度読む。
これで、本当にこの学園の生徒になったのだ。
ふと横を見ると、ボブが石板をのぞき込んでいた。
「四百点満点で、一位かあ……」
*
入学式が終わると、新入生たちは職員の案内で、それぞれの宿舎へ向かった。
ボブとは男子宿舎の入口で別れた。彼は一般室へ、レオは職員に案内されて最上階へ向かった。
この階には、部屋の扉が二つしかなかった。
廊下も下の階より広く、扉の間がずいぶん離れている。
職員に特別室第一号の扉を開けてもらい、レオは中を見た。
「……ここ、全部ですか?」
「ええ。あなたのお部屋です」
入ってすぐのところに、広い居間があった。
革張りのソファとテーブルが置かれ、その奥には暖炉がある。壁際には大きな本棚があり、机と椅子もそろっていた。
居間の奥には寝室があり、大きなベッドが置かれていた。
浴室とトイレまで、この部屋専用のものがそろっている。
昨日までの仮宿舎も、十分きれいで過ごしやすかった。それなのに、ここは宿舎というより、一軒の立派な住まいのようだった。
レオは居間へ戻り、本棚に手を触れた。
これだけあれば、本をどれほど並べられるだろう。
ひとまず仮宿舎へ戻り、荷物を運んだ。
持ってきたときには大きく感じたトランクが、この部屋に置くと、妙に小さく見えた。
荷物を寝室へ入れ、レオは居間のソファに腰を下ろした。
体がゆっくり沈む。
少し座るだけのつもりだったが、なかなか立ち上がる気になれなかった。
*
昼食を終えると、レオは母に送る手紙を書いた。
コンサス州から王都までの空の旅。広大で華やかな王都の街並み。そして、入学式の日に初めて目にした、さまざまな乗り物や魔力自動車のこと。
新しく友達になったボブとアリアのことも書き添え、最後に、こちらでは元気にやっていけそうなので心配しないでほしい、と締めくくった。
正式に入学を認められたレオには、一人で使うには広すぎる部屋が用意されていました。




