第三十一章 冬休み
冬休みが近づき、レオのもとへエステバンから新たな誘いが届きます。
冬休みを数日後に控えたある日、エステバンから、また手紙が届いた。
『レオ・ライオンハートへ
よう、元気にしているか。
恋の方もうまくいっているといいんだが。
今回、手紙を送ったのは、別の誘いがあるからだ。
クアントロ州で大規模な討伐作戦が予定されていて、参加する冒険者を募っている。俺たちのパーティーも加わるつもりだ。お前の父さんも、来てくれることになった。
レオも連れてこいと言ったんだが、リチャードに、まずは本人の気持ちを聞けと言われてな。こうして手紙を書いている。
故郷へ戻ったら、まずはゆっくり休め。その後、参加してくれるなら助かる。
日時と集合場所は、父さんに聞いてくれ。
エステバン』
部室で手紙を見せると、エマが差出人の名前を見た。
「エステバンさんって、どなた?」
「この学園の卒業生だよ。魔法大学も卒業していて、今は冒険者をしているんだ」
「魔法大学を出た方が、冒険者に?」
エマは興味を引かれたように、手紙へ目を戻した。
「ソフィアのお兄さんなんだ。夏休みに、父さんと一緒に会いに行ってね」
「ロレンス家の……。ずいぶん変わった方なのね」
「そんなに珍しいの?」
「冒険者は、命に関わる仕事でしょう。名門の生まれで、魔法大学まで出ていれば、ほかにも道はあるはずだから。そういう方が冒険者になる話は、あまり聞かないわ」
「そうなんだ……」
レオは、楽しそうにダンジョンの話をしていたエステバンを思い出した。
あの人なら、ほかにいくら道があっても、好きな方を選びそうだった。
*
学期最後の授業が終わると、学内放送が流れた。
「本日をもちまして、今年度の授業はすべて終了しました。明日からは、三か月間の冬季休暇となります」
教室のあちこちで、嬉しそうな声が上がった。
「休暇中は学園施設の運営を休止しますので、宿舎を利用している生徒は帰宅、帰省してください。今学期も、よく勉学に励みました。来年の春、皆さんと再び会えることを楽しみにしています」
レオは教科書を鞄へしまった。
「なお、今学期の成績を中央校舎の掲示板に掲示しました。各自、確認してください。以上です」
放送が終わると、生徒たちは次々に教室を出ていった。
レオもエマと合流し、掲示板へ向かった。
前に集まっていた生徒たちの間から、成績表を見上げる。
「レオは、また八百点満点で一位ね」
「エマは七百九十五点で、二位だね。どこで間違えたの?」
「闇魔法の最後の問題。答えを書き終える前に、時間になってしまって」
「そうだったんだ。惜しかったね」
そこへ、ボブとアリアが駆けてきた。
「もう出てる?」
ボブは二人の横へ入り、成績表を下の方まで目で追った。
「あった! 上がってる!」
嬉しそうに、自分の名前を指さす。
「やっぱり、頑張ったかいがあったな」
「百六十五位……。まだ下の方じゃない」
アリアが横から言った。
「前より二十位も上がったんだぞ。そこを見てくれよ」
「分かったわよ。よかったわね」
「何だよ、その言い方」
言い合う二人を見ていると、レオも笑ってしまった。
アリアがこちらを振り向く。
「二人は、冬休みをどう過ごすの?」
「僕は、父さんとクアントロへ行くつもり。冒険者の討伐作戦に参加するんだ」
「冒険かあ。いいな。僕も行ってみたい」
ボブが口を挟んだ。
「あなたはまず運動しなさい。まともに動けるようになってからよ。……エマは?」
エマは少しだけ笑った。
「秘密」
「秘密?」
レオが聞き返しても、エマはそれ以上、教えてくれなかった。
*
翌朝、レオは荷物をまとめ、トピア行きの飛竜船に乗るため、飛竜船港へ向かった。
エマも見送りに来てくれた。
船へ乗り込む人たちを横目に、二人は通路の手前で向かい合った。
「気をつけてね、レオ。三か月も会えないなんて、きっと寂しくなるわ」
「うん。僕も」
「手紙を書くから、返事をちょうだいね」
「必ず書くよ。……まだ出発してもいないのに、もう寂しいんだけど」
エマは笑ったが、レオの手を離さなかった。
乗船を促す声が聞こえた。
レオは一度荷物を置き、エマを抱きしめた。
「行ってくるね」
「うん。またね」
体を離すと、エマはようやく手を放した。
レオは鞄を持ち、通路を渡った。
席へ荷物を置くなり、窓のそばへ寄る。エマはまだ同じところに立っていた。
レオが手を振ると、エマも振り返してくれた。
やがて、飛竜船がゆっくり浮かび上がった。
船首が南へ向く。
エマの姿は少しずつ小さくなった。レオは見えなくなるまで手を振り、それから席へ戻った。
*
トピアへ着くと、レオはウィチア郡へ向かう馬車を探した。
何人かに尋ねているうちに、郡内の商店へ品物を届けるという商人が見つかった。
行き先を話すと、少しばかりの代金で乗せてもらえることになった。
荷物の間に腰を下ろし、レオは出発を待った。
馬車が街を離れるにつれて、道沿いに畑や林が増えていく。
晩秋のウィチアは肌寒かった。上着の前を合わせ、腕を縮める。
けれど、林には赤や黄色に色づいた木々が並び、見ていて飽きなかった。
王都の大きな建物も立派だったが、レオは故郷の景色が好きだった。
見覚えのある道へ入ると、自然と身を乗り出していた。
*
数か月ぶりに見る家は、きれいになっていた。
夏休みに直したところに加えて、傷んでいた箇所にも手が入ったようだった。レオは戸口に荷物を置き、扉をたたいた。
「母さん、父さん。レオだよ。帰ってきたよ」
返事がなかった。
もう一度呼んでから、扉へ手をかける。
鍵はかかっていなかった。
「ただいま……」
中へ入ると、家の中も整えられていた。家具や道具がきちんと収まり、以前よりすっきりしている。
部屋には、まだ暖かさが残っていた。
少し出かけているだけなのだろう。
レオは荷物を下ろし、椅子へ座った。
鞄から本を取り出して待っていると、一時間ほどして、外から馬車の音が聞こえた。
本を置き、扉を開ける。
父と母が、ちょうど馬車を降りたところだった。
「母さん、父さん。ただいま!」
「レオ!」
母が駆け寄り、レオを抱きしめた。
父もそばへ来て、二人まとめて腕を回す。
「帰っていたのか。待たせたな」
「ううん。少し前に着いたところだよ」
母の腕に抱かれると、ようやく帰ってきたのだという気がした。
レオが顔を上げたとき、馬車からもう一人、降りてきた。
金色の髪が目に入る。
レオは目を瞬かせた。
エマだった。
「……エマ?」
エマは鞄を持ち、こちらへ歩いてきた。
母が振り返った。
「ああ、このお嬢さんがね、村の集会所でレオ・ライオンハートを探していたの。それで、一緒に来てもらったのよ。学園のお友達なんでしょう?」
「う、うん……」
レオはエマを見たまま答えた。
「さっき挨拶してもらったが、しっかりした、感じのいいお嬢さんだな」
父が言い、家の扉を開けた。
「外は冷える。話は中でしよう」
レオは聞きたいことを飲み込み、エマと一緒に家へ入った。
父が暖炉へ薪を足す。
レオはその前へかがみ、魔法で火をつけた。薪に火が移るのを確かめてから立ち上がると、父が二人を見比べていた。
「それで、お前たちは、どういう仲なんだ?」
「どういうって……」
「もしかして、前に話していた、好きな女の子というのは、このお嬢さんか?」
レオの顔が熱くなった。
隣を見ると、エマも頬を赤くしていた。
それで十分だったらしい。
父が笑い、母も嬉しそうに手を合わせた。
「まあ、本当なのね。レオに、こんな可愛い恋人ができるなんて」
「母さん……」
「何だ、隠すことはないだろう。めでたいことじゃないか」
エマは恥ずかしそうにしていたが、少し笑っていた。
*
夕食は、四人でテーブルを囲んだ。
母は学園での暮らしをあれこれ尋ね、エマは一つずつ丁寧に答えた。
「レオは、ちゃんと食べている?」
「はい。よく食べています」
「余計な心配しなくても、大丈夫だよ」
レオが口を挟むと、母は笑った。
「あなたに聞いても、いつも大丈夫としか言わないでしょう」
エマが楽しそうにこちらを見た。
自分の家で、父と母の隣にエマが座っている。
不思議な光景だった。
けれど、両親と話すエマの顔を見ていると、レオも嬉しくなった。
食事が終わるまで、テーブルでは話が途切れなかった。
*
夕食の後、レオはエマを家の外へ誘った。
扉を閉めると、冷たい空気が頬に触れた。
「エマが来てくれたのは、すごく嬉しいんだけど……。どうしたの? 何も言ってなかったよね」
「一度、レオの家に来てみたかったの。ご両親にも会いたかったし」
「それは、僕も嬉しいよ。でも……ご両親は、許してくれたの?」
エマは目を伏せた。
少し間を置いてから、小さく答える。
「……ううん。家出してきたの」
「い、家出?」
レオは思わず声を上げた。
エマは、うつむいたままうなずいた。
一緒にいられるのは嬉しい。
さっきまで父と母と笑っていた時間も、本当に楽しかった。
けれど、家出と聞いて、そのまま喜んでよいのか分からなくなった。
レオは何か言おうとしたが、言葉が出てこなかった。
お読みいただき、ありがとうございます。久しぶりの帰省に、思いがけない訪問者が加わりました。




