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第十八章 夏休み

一学期が終わり、夏休みが近づいてきました。

やがて、一学期最後の授業が終わった。


それから一週間後、夏休みを翌日に控えた朝、寮にも校内放送が流れた。


『先週終了した各授業の評価をもとに、本日、中央校舎の掲示板へ、今学期の成績と順位を掲示します』


レオは鞄へ入れかけていた本を置き、顔を上げた。


『四年間、計八回の成績は、卒業後の任官や入団、就職に際して、重要な参考資料となります。今後も勉学に励んでください。皆さん、一学期間お疲れさまでした』


続いて、夏休み中の案内が流れた。


『明日から、一か月間の夏季休暇に入ります。その間、学生食堂、図書館、カフェテリア、遊戯室など、校内の主要施設は休止します。寮に残る方は、中央校舎の職員食堂をご利用ください。ただし、食事は有料となりますので、ご注意ください』


放送が終わると、廊下がにぎやかになった。


レオも部屋を出て、中央校舎へ向かった。


途中でボブと合流したが、掲示板の前はすでに人でいっぱいだった。


「見える?」


「全然……」


レオは背伸びをやめた。


成績を確かめた生徒が、一人、二人と抜けていく。


しばらく待つと、ようやく一年生の掲示が見える場所まで進めた。


『一年生 第一学期成績・順位


第一位 八〇〇/八〇〇

レオ・ライオンハート


第一位 八〇〇/八〇〇

エマ・ローゼンデール


第三位 七五〇/八〇〇

ソフィア・ローレンス


第四位 七四五/八〇〇

マルコ・グスタフ』


自分の名前を見つけ、レオはほっと息を吐いた。


そのすぐ下に、エマの名前もある。


「レオもエマも、すごいなあ。何で、そんな簡単に満点が取れるんだ?」


「いやいや。簡単に取れるわけないだろ」


横から声がして、マックスが人の間を抜けてきた。


デイビッドも一緒だった。


「才能があるうえに、暇さえあれば勉強してるんだから。僕らには、なかなか追いつけないね」


デイビッドが言うと、レオは少し困って笑った。


「僕だって、わからないところは何度も読み直してるよ」


「その何度も、ができないんだよなあ」


マックスが肩をすくめた。


ボブは、その間も掲示を上から順に見ていた。


「あれ。僕の名前、どこだ?」


「下から探した方が早いんじゃない?」


アリアの声だった。


ソフィアと並んで、こちらへ歩いてくる。


ボブは言い返しかけたが、先に掲示の下の方へ目を向けた。


少しずつ上へたどり、やがて指を止める。


「百八十五位……ふむ」


「食べるのと同じくらい勉強してたら、もう少し上だったでしょうね」


「食事は毎日必要だけど、試験は毎日じゃないし」


「だから、試験の直前になって慌てるのよ」


二人が言い合っている横で、ソフィアがレオへ挨拶した。


「一位、おめでとう」


「ありがとう。ソフィアも三位だね」


「自分では、結構頑張ったつもりだったんだけど」


ソフィアは少し苦笑し、掲示の上の二つの名前を見た。


「二人には、まだ届かなかったな」


「七百五十点だって、十分すごいよ」


レオが言うと、ソフィアは「次はもう少し近づくからね」と笑った。


*


掲示板を離れようとしたところで、女子寮の方からエマが歩いてきた。


皆が挨拶すると、いつものように静かな顔で会釈を返す。


掲示板へ近づき、自分の名前を確かめると、すぐに戻ってきた。


「一位、おめでとう。エマ」


アリアに言われ、エマはわずかに微笑んだ。


「ありがとう」


「夏休み、何か予定はあるの?」


アリアが尋ねると、エマは少し考えてから答えた。


「……今年は両親が忙しいから、王立図書館で本を読もうと思ってる」


レオは少し羨ましくなった。


学園の図書館は休みでも、王都には、ほかにも大きな図書館があるのだ。


一方、マックスとデイビッドは顔を見合わせていた。


「夏休みも、本?」


「休みになっても変わらないんだね……」


エマは、何が不思議なのかわからない様子だった。


「それなら、コンサス州へ遊びに来ない?」


アリアが言った。


「うちの別荘があるの。エマには少し質素に見えるかもしれないけど、森と川が見えて、きれいなところよ」


エマは少し考えた。


「両親に聞いてみる。王都を離れるなら、親衛騎士団にも相談が必要だから」


「うん。無理ならいいけど、来られそうだったら教えてね」


エマはうなずいた。


それからレオへ顔を向けた。


「レオ。少し、時間ある?」


「うん?」


エマが近づき、カフェテリアの方を指した。


「話したいことがあるの」


レオは少し戸惑いながら、うなずいた。


*


カフェテリアの隅の席に、二人で向かい合って座った。


エマは周囲を一度見てから、声を落とした。


「昨日、お母様から聞いたんだけど。親衛騎士団から、レオについて報告があったそうなの」


「僕について?」


「危険な者たちに襲われたって。私と親しくしている生徒だから、念のため知らせてくれたそうよ」


レオは、あの二人の男を思い出した。


捜査官を名乗り、自分の腕を拘束した男たち。


「その人たちは、前にあった魔物の脱走事件にも関わっている可能性が高いそうなの。魔物を使って、何かを起こそうとしているんじゃないかって」


「そうなんだ……」


「だから、夏休みも王都にいた方がいいと思う」


エマはまっすぐレオを見た。


「コンサス州では、人の少ない場所も多いでしょう。王都ほど騎士団の手も届かないし、また狙われたら……」


そこで、少し言葉を切った。


「泊まるところがなければ、お母様に相談できるから」


レオは、すぐには返事ができなかった。


心配してくれていることは、よくわかった。


自分が危険な状況にいることも。


けれど、母の顔が浮かんだ。


夏休みには帰ると、もう手紙で伝えてある。


母はきっと、待っている。


レオも会いたかった。


学園祭で見た、友達とその家族の姿が頭をよぎった。


「……心配してくれて、ありがとう」


レオはゆっくり言った。


「少し、考えてみるよ」


エマは黙ってうなずいた。


レオが椅子から立つと、その手をエマがつかんだ。


思わず、顔を見る。


エマも自分のしたことに驚いたように手元へ目を落とし、すぐに離した。


「……気をつけてね」


頬が、少し赤くなっていた。


「うん」


レオはそれだけ答え、カフェテリアを出た。


外へ出てから、急に胸がどきどきし始めた。


歩きながら、自分の手を見る。


エマの柔らかく、温かい手の感触が、まだ残っていた。


*


部屋へ戻ったレオは、帰省の荷物をまとめた。


着替えと、一学期の間に書きためたノート。


決闘大会で受け取ったローブと杖も、母に見せたくてトランクへ入れた。


飛竜船の乗船券は、すぐ取り出せるよう鞄へしまう。


ほかに忘れているものはないだろうか。


寝室をのぞくと、ファントムがベッドの上で腹ばいになって眠っていた。


レオはそばへ座り、頭から背中、尻尾へと撫でた。


体が小さく震える。


ファントムは目を開け、ゆっくり起き上がった。


「夏休みは、故郷へ帰るんだけど。一緒に行く?」


『夏休みとは何だ』


「ええと……一か月くらい、この部屋を離れて、別のところで過ごすんだ」


ファントムはレオを見た。


次に、居間へ続く扉へ顔を向ける。


ふわりと飛び上がり、寝室を出ていった。


レオが追いかけると、ファントムは開いたトランクへ降りていた。


服の間へ鼻先を突っ込み、体を押し込んでいく。


やがて、ちょうどよい場所が見つかったらしく、丸くなった。


目を閉じる。


「……来るんだね」


返事の代わりに、小さな寝息が聞こえてきた。


レオは笑い、荷造りの手を止めた。


*


翌日、レオはエマへ手紙を書いた。


『エマへ


心配してくれて、本当にありがとう。


今の自分が危険な状況にいることは、わかっているつもりです。


でも、故郷で一人、僕の帰りを待っている母を、がっかりさせたくありません。僕も、母に会いたいです。


自分の身くらいは守れると思っています。

無茶な自信かもしれないけど、今はそう思っていたいです。


気をつけて帰ります。

無事に戻って、またエマに会えるよう、女神様に祈ります。


レオ』


手紙を畳み、召喚した伝書鳩へ託す。


白い鳩が、窓から飛び立った。


レオはその姿を見送ってから、トランクを持ち上げた。


ファントムはそばで羽ばたいていた。


「行こうか」


部屋を出て、飛竜船港へ向かう。


やがて、乗り込んだ飛竜船がゆっくりと浮かび上がった。


眼下に学園の建物が並んでいる。


レオは窓から中央校舎を探した。


船が南へ向きを変えると、学園は少しずつ遠ざかっていった。


*


コンサス州のトピアへ着くと、レオは領主の城の厩へ向かった。


預けていたロバが、耳を動かしてこちらを見た。


「久しぶり」


レオが首を撫でると、ロバは鼻を寄せてきた。


厩の世話をしていた人が、荷物を持つレオへ声をかけた。


「餌代は領主様から半年分いただいているからね。追加はいらないよ。そのまま連れて帰っていい」


「ありがとうございます」


レオは深く頭を下げた。


荷物を載せ、ロバに乗る。


王都とは違う、広い空が見えた。


レオは手綱を握り、母の待つウィチアへ向かった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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