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第十六章 学園祭・下編

学園祭編の後半です。

表彰式では、生徒会長のダイアナから、賞品を受け取った。


「優勝おめでとう、レオ・ライオンハート君」


「ありがとうございます!」


ローブの布地は滑らかで、受け取った杖には細かな飾りが施されていた。


こんな立派なものを、自分が持っていていいのだろうか。


レオは何度も見直してから、客席へ頭を下げた。


隣で杖を受け取ったウラジミルは、うつむいていた。


短く礼を言い、そのまま壇上を降りていく。


レオも賞品を鞄へしまい、実習場の外へ出た。


マックスたちの店は、片づけられていた。


バトルアリーナの試合へ行ったのかもしれない。


レオも競技場へ向かった。


*


競技場の前には、屋台が並んでいた。


「動くミミズのゼリー! 口の中でも、くねくねしますよ!」


「火魔法で焼いた、焼きたてクッキーはいかがですか!」


「冷たいマナポーション、あります!」


レオはマナポーションを一本買った。


冷えた瓶を手に競技場へ入り、少しずつ飲みながら対戦表示を探した。


『ホームチーム

ボブ・ガルシア ほか四名


アウェイチーム

アストニシア・スタンコビッチ ほか四名』


まだ、ボブたちが戦っていた。


上段にボブ、中央にデイビッド、下段にアリア。


ソフィアが本陣を守り、マックスは森の中を移動していた。


レオは空いている席へ座った。


しばらくは、どちらも前線の塔を挟んで攻防を続けていた。


変化は、急に起きた。


相手の選手が、次々と中央路へ集まってきた。


一人、二人。


森からも姿が現れる。


五人全員だった。


デイビッドが後退する。


だが、正面から火球が飛び、横へ逃げようとした先にも水砲が来た。


シールドが光った。


そこへ、さらに雷が重なる。


『ホームチーム、ミドルランナー、リタイア』


ボブたちが慌てて本陣へ戻った。


けれど、相手は止まらなかった。


五人で戦闘塔を攻撃し、非活性になると、そのまま前へ進む。


四人で迎え撃ったものの、相手の攻撃を防ぐうちに、本陣塔へ魔法が届き始めた。


やがて、塔の光が崩れた。


試合終了の案内が流れる。


レオは中央路を見つめていた。


五人で一か所を攻める。


単純だけれど、急に来られたらどうするだろう。


「やあ、レオ君」


隣から声をかけられた。


ルカだった。


肩から『バトルアリーナ大会運営』と書かれた布を掛けている。


「決闘、優勝したんだって?」


「はい。ありがとうございます」


「こっちは、いかにも初心者同士って試合だったね」


ルカは競技場を眺めた。


「五人が急に来たら、慣れていないと慌てると思います」


「君ならどうする?」


レオは少し考えた。


「中央に五人いるなら、上段も下段も空いていますよね。中央で三人が塔を使って時間を稼いで、その間に二人で相手の本陣を……」


ルカが首を振った。


「三人では厳しいと思うよ」


「……駄目ですか?」


「今の試合ならね。三人じゃ、あの五人を十分には止められない。向こうの本陣を壊す前に、こっちが落ちると思う」


「先輩なら?」


「四人で守って、一人を走らせる」


ルカは上段路を指した。


「リベロが戻ってくるのを待つ必要もない。上か下にいる選手が、そのまま進めばいい。残る四人は、本陣近くの三本の道の塔を使って守る」


「四人なら、持ちこたえられる……」


「相手と同じくらい戦えるならね。塔もあるし、さっきよりはずっと守りやすい。その間に一人が向こうの本陣を攻撃すれば、相手も全員で攻め続けるわけにはいかなくなる」


レオはうなずいた。


人数を分ければいい、というだけではなかった。


誰が何人を、どれくらい止められるのか。


そこまで考えなければ、先に自分たちが負けてしまう。


「じゃあ、僕は仕事に戻るよ」


ルカは手を上げ、通路へ出ていった。


少しして、今度はボブたちがやって来た。


オリビアも一緒だった。


「レオ、見てた?」


「うん。最後のところから」


「あーあ、負けちゃったよ」


ボブが椅子へ腰を下ろした。


「準決勝で負けたら、賞品はないのよね?」


アリアに聞かれ、レオは案内を確かめてうなずいた。


アリアは残念そうに息を吐いた。


「ほかのみんなは?」


「マックスとデイビッドは商売。ソフィアは運営のお手伝いに行ったわ」


やがて決勝が始まった。


ボブたちを破ったチームは、ここでも中央へ五人を集めた。


対戦相手は対応しきれず、同じように押し切られた。


「まただ……」


ボブがつぶやいた。


*


『午後六時より、大講堂にて保護者交流会を開催いたします。参加を希望される皆様は、大講堂へお集まりください』


案内が流れると、ボブが立ち上がった。


「行こう」


「保護者の交流会だよ?」


レオが言うと、アリアが振り返った。


「友達のご両親に挨拶するくらい、いいでしょ」


レオは少しためらったが、三人のあとについていった。


大講堂の前では、マックスとデイビッドが再び店を出していた。


「悪役令嬢の嫉妬の炎で焼き上げた、熱々のクッキー! その力で、一年を元気に過ごしましょう!」


ボブが吹き出した。


アリアは足を止め、マックスを見た。


「悪役令嬢って、何よ……」


マックスは短く笑い、すぐ次の客へ袋を差し出した。


大講堂の展示は片づけられ、代わりにたくさんのテーブルが並んでいた。


果物や菓子、酒やジュースが置かれている。


生徒たちは家族を友人へ紹介し、保護者同士も飲み物を手に話していた。


レオたちはソフィアを見つけ、彼女の両親へ挨拶した。


そのあと菓子とジュースを取り、壁際へ移動する。


少し離れた場所に、大きな人の輪ができていた。


その中心に、エマがいた。


隣には、よく似た面差しの女性が立っている。


エマは飲み物を持ち、いつものように静かな顔で、周りの話を聞いていた。


「あちらのお嬢さんは?」


オリビアが尋ねた。


「エマよ。友達なの。隣はお母様だと思う」


アリアが答えると、オリビアは目を見開いた。


「エマさんって、ローゼンデール家の?」


「うん」


オリビアは服の裾を整え、そちらへ向かった。


丁寧に挨拶を交わし、しばらくすると、嬉しそうな顔で戻ってきた。


「アリア。あのお嬢様とお友達だなんて、母さん、驚いたわ」


「そんなにすごい家なの?」


ボブが尋ねた。


「あなた、知らなかったの?」


オリビアは声を落とした。


「王国四大名家の一つ、ローゼンデール家よ。エマ様のお父様は、王国の宰相を務めていらっしゃるの」


レオはジュースの杯を持つ手を止めた。


宰相。


「それに、今の王妃陛下のご実家でしょう。エマ様は王妃陛下の妹君。国王陛下にとっては、義理の妹に当たる方なのよ」


ボブが口を開けたまま固まった。


アリアも、エマの方を見ている。


レオは何も言えなかった。


裕福な家の子だとは思っていた。


けれど、王妃の妹だなんて、考えたこともなかった。


「やあ、レオ。ボブ、アリアも!」


そこへ、マックスとデイビッドがやって来た。


それぞれ父親らしい男性を連れている。


レオたちは、慌てて挨拶した。


二人の父親も、気さくに挨拶を返してくれた。


「息子がいい友達に恵まれたようで、安心したよ」


マックスの父が笑った。


「商売の方も、なかなか工夫していたね」


隣で、デイビッドの父もうなずいている。


ひとしきり話したあと、二人は息子たちと別のテーブルへ向かおうとした。


「マックス、ちょっと」


アリアが呼び止めた。


「あの悪役令嬢のクッキーって何なの? でたらめを言って売ってたんじゃないでしょうね」


マックスは人差し指を立て、左右に振った。


「九割の事実に、一割の誇張。嘘じゃないよ」


「どこが九割も事実なのよ!」


「だって、アリアが火炎魔法で焼くのを手伝ってくれただろう?」


マックスは短く笑った。


「それって、私が悪役令嬢ってこと? そもそも悪役令嬢って何よ!」


マックスは答えず笑うと、父親たちの後を追いかけていった。


「ちょっと、待ちなさい!」


アリアの声が、大講堂に響いた。


レオは、午前中の看板を思い出した。


首席合格者の祝福入り。


確かに魔力は流した。けれど、頭がよくなるようにした覚えはない。


「九割の事実って……」


レオがつぶやくと、アリアも眉を寄せた。


*


ボブたちが別の保護者へ挨拶に行き、レオは一人になった。


ジュースを少し飲む。


あちこちに、家族がいた。


母がいないことを、もう何度も思い出していた。


「レオ」


振り向くと、エマが立っていた。


先ほどの女性も一緒だった。


「お母様よ」


レオは杯を置き、急いで頭を下げた。


「初めまして。レオ・ライオンハートです」


「アンネ・ローゼンデールです。娘と親しくしてくださって、ありがとうございます」


エマの母は、優雅に挨拶を返した。


「首席で入学なさったそうですね。エマがお世話になっていると聞いています」


「い、いえ。僕の方が、ずっとお世話になっています」


「この子、家ではレオさんのことをよく褒めるんですよ」


レオは思わずエマを見た。


「ほかの方をあんなふうに褒めるのは、初めて聞きました」


「お母様」


エマが母の服をそっと引いた。


顔が少し赤くなっていた。


アンネは口元を緩めてから、レオへ尋ねた。


「ご両親も、いらしているのですか?」


「あ……今日は、都合がつかなくて」


「そうでしたか。ご挨拶したかったのですが、残念です」


アンネはそれ以上尋ねず、穏やかにうなずいた。


「では、また。これからも、娘をよろしくお願いしますね」


「はい。こちらこそ」


エマも小さく手を上げ、母と一緒に人の輪へ戻っていった。


レオは、その後ろ姿を見送った。


「君が、レオ・ライオンハートかね?」


また声をかけられた。


長い杖を持った、ローブ姿の中年の男性だった。


隣にウラジミルがいた。


「ウラジミルの父、ラスカント・サルカンだ」


「は、はい。レオ・ライオンハートです」


レオは背筋を伸ばした。


ラスカントは息子へ目を向けた。


「今日の決闘を見たよ。息子を、見事に打ち負かしてくれたね」


何と答えればいいのかわからず、レオは黙った。


「一度負けたのは、いい経験になるだろう。礼を言うよ」


「父さん!」


ウラジミルが父の袖を引いた。


ラスカントは、その頭へ軽く拳を落とした。


「魔法決闘の専門教師まで付けてやったのだぞ。それが、田舎で魔法をかじっただけの相手に負けるとは。少しは恥を知りなさい」


ウラジミルが口を閉じる。


レオは顔を上げたが、ラスカントはもう息子へ目を向けていた。


「戻ったら、先生に今日の試合を報告するように」


それからレオへ向き直り、薄く笑った。


「では、失礼するよ」


レオが頭を下げると、二人は人混みの中へ去っていった。


少しして、レオは顔を上げた。


誰かに見られている気がした。


人の間に、一人の中年の男が立っていた。


こちらを、まっすぐ見ている。


目が合っても、そらさなかった。


知っている人だろうか。


レオには、見覚えがなかった。


杯の残りを飲み、もう一度そちらを見る。


男は、まだ見ていた。


レオは杯を返し、大講堂を出た。


*


部屋へ戻ると、幼竜が居間で魔力球を転がしていた。


レオの方をちらりと見てから、球を追ってソファの向こうへ飛んでいく。


机に鞄を置き、賞品を取り出した。


ローブと杖を並べる。


母に見せたら、何と言うだろう。


レオはしばらく眺めてから、大切にしまった。


入浴を済ませ、寝室へ入る。


ベッドに横になると、急に疲れが出た。


大講堂の男の顔が浮かんだ。


誰だったのだろう。


どうして、あんなに見ていたのだろう。


考えているうちに、まぶたが重くなった。


幼竜の羽音が聞こえた気がしたが、目を開ける前に眠っていた。

学園祭編をお読みいただき、ありがとうございました。

レオにとって、友達やその家族と過ごす時間は、楽しくもあり、少し寂しくもあったかもしれません。

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