第6話 森の奥に秘密の温泉を作りましゅ
第6話。
今回は、「こんな温泉があったら毎日通いたい」と思えるような、癒やしと笑顔に満ちたエピソードをお届けします。
朝露に濡れた草を踏みしめながら、ユウトはダンジョンの奥へ歩いていた。
肩には白いモフモフ。
頭の上には丸い小鳥。
後ろにはモチスライムやデフォルメされた子オオカミたちが、楽しそうについてくる。
すっかり朝の散歩が日課になっていた。
「先生、今日はどこへ行くんですか?」
シルフィが風に乗るように隣へやってくる。
ユウトは地図を広げながら答えた。
「この辺りに温泉のやつを造りまそのやつをやりませう」
「温泉?」
「ツクリマソノヤツ?」
「やりませう?」
「ん、やりませう」
六人の精霊が一斉に首をかしげる。
「お湯に入ってダラダラしながら、肩凝りも腰痛もなおせそうな場所のやつ」
「カタコリ……」
「ヨーツゥ……」
「それのやつ?」
「ん、それのやつ、スッキリヨ?」
その言葉だけで、モフモフたちの耳がぴくりと動いた。
どうやら「スッキリしそうな場所」ということだけは伝わったらしい。
「きゅい!」
「ぷるん!」
「まだ何もやってねぇだじゃえ?」
ユウトはニヤニヤ笑いながら設計図を開いた。
今回の場所は森の奥。
大きな岩に囲まれた静かな一角だ。
小川の源流が流て木漏れ日がやさしく降り注ぐ。
「ここなら、ヌクヌク出来そーだゆn。」
鉛筆を走らせる。
まずは天然岩の湯船。
景色を楽しめる露天風呂。
足湯も一つ。
休憩用の東屋。
サウナ小屋と天然冷水の露天スペース。
湯上がりに冷たい果実水が飲める小さな休憩所。
木々を傷つけないように配置を工夫し、風が抜ける設計にする。
「……こぉれでぇい、ふへへへへ」
最後の線を描き終えた瞬間、設計図が金色に輝いた。
地面がゆっくり震える。
岩が自然な形で積み重なって、透明なお湯がこんこんと湧き始めた。
ふわりと湯気が立ち上る。
硫黄の独特な腐敗した卵のような匂いではないのか、どこか花のような優しいお香が漂ってくる。
「どんなじゃや?」
その声と同時に。
「わぁぁぁ!」
精霊たちが歓声を上げた。
シルフィは風に乗って湯船を一周して、ミーナは目を輝かせる。
「お湯が透き通ってます!」
フレアは待ちきれず、ぱしゃんと足を浸けた。
「あっあっ、あっちぇ……」
炎の精霊にしてはちょっぴり謎にも、ユウトもアッチェアッチェをやって、その様子を見ていたモフモフたちも一斉に動き出す。
「きゅーーい!」
「ぷるぷる!」
「おっおっおーぃえい」
白いモフモフが飛び込むと、続いて子リス、子オオカミ、子グマ、モチスライムまで、デフォルメモンスターズは次々と温泉へ入った。
ぽちゃん。
ぽちゃん。
ぽちゃん。
露天の浴槽はカラフルにモフモフなデフォルメモンスターズでいっぱいになった。
「……どぅゆ……入れねぇ………」
ユウトは思わず苦笑する。
湯船の真ん中ではモチスライムが伸びたりしながら、手で振るのとは全く違うように、ぷるぷると揺れている。
白いモフモフさんはメルトダウンを起こしたか、精霊達に依れば単にとろけているのであって、もう眠ってしまっていた。
「先生」
リーフが小さく笑う。
「みんな、とても幸せそうです」
「そうですな」
そのとき、頭の中に声が響いた。
【施設『精霊の湯』を登録しました。】
【疲労回復効果を強化。】
【精神安定効果を強化。】
【精霊の魔力回復速度が上昇しました。】
【モフモフたちの幸福度が大幅に上昇しました。】
「幸福度が大幅上昇か」
ユウトは湯気の向こうを見つめる。
デフォルメモンスターズや精霊たちの可愛い笑い声。
穏やかな空気。
誰も争わない時間。
「んん~っ、これで代謝もパフォーマンスもアケアゲのやつ、ん、まさにっ……」
最強の武器も巨大な城も結局は交感神経を圧迫して、極度に消耗したり神経症にでもなるか、それ程のリスクをユウトには背負えなかった。
腕を磨いたり最上級の武具で強くなったりと、限界を越えて往くこと自体は悪くないし、そうしたアクションゲームも知っている。
しかしユウトが必要としたのは、こんな毎日だった。
その頃。
ダンジョンの入口では再びリクが立ち尽くしていた。
「お土産を持ってきましたー!」
両手には街で買ってきた焼き菓子の袋。
もう彼の足取りに迷いはない。
それは冒険者のものですら無くなっていて、ダンジョンの管理者どころかリクに見える、エキセントリックな世界への帰還者と化していた。
「ただいまヨ?」
そう言って門をくぐる姿は、まるで家へ帰る人そのものだった。
次回予告 第7話「ただいま、と言える場所」
リクは焼き菓子を手に再びダンジョンを訪れます。
ユウトたちとの交流が深まる一方、ギルドでは「リクが未登録ダンジョンに入り浸っている」という噂が広がり始めます。
一方、ダンジョンではモフモフさんやデフォルメモンスターズたちが焼き菓子をめぐって、思わず笑ってしまうような小さな騒動を巻き起こします。
第一章の「帰ってきたくなる居場所」というテーマを、さらに深く描いていきます。




