第5話 みんなで囲む初めての食卓
それでは、第5話です。
今回は、「この場所に帰ってきたい」と感じられるような、温かな食卓を描きます。
「一緒に、ご飯……ですか?」
リクは目をぱちぱちと瞬かせた。
ダンジョンへ来て魔物の討伐ではなく昼食に誘われる。
そんな経験をした冒険者はおそらく世界中に一人もいないだろう。
「む、如何にもっ」
ユウトは根拠の無い空虚な自信を持つように、刺すような目を向けながらギャグを催すようにうなずいた。
「せっかくなので銅像」
そのまたしても現れた「謎の銅像」を想像させる言葉に、はてなとなりながらも、リクのお腹がまた「ぐぅ……」と鳴る。
恥ずかしそうに耳まで赤くする姿を見て、精霊たちはお互いのお顔をみながらヒラヒラと、甘えたくなるようなお顔になった。
「では先生、今日の収穫を持ってきますね!」
木の精霊リーフが森へヒラヒラと飛んで行った。
「それぇ~っ」
水の精霊ミーナは湖へ向かって澄んだ水を汲んでくる。
「あうぅ、ちょっぴり重いですぅn」
風の精霊シルフィは果樹園から赤く実った果物を抱えて戻ってきた。
「あっあっあん、落ちそぅ、んくっふうぅーん、んフフっ、イッパイですぅn」
「これ全部、このダンジョンで採れたんですか?」
リクは目を丸くする。
「ん、そうてすが何か……」
「しかも、毎日イッパイになるんじゃよ」
ユウト自身もまだ驚いていた。
ダンジョンなのに畑も果樹園もある。
まるで一つの村のようだ。
家の隣には小さなキッチンが在って、かまどには火の精霊フレアが魔法で優しく火を灯す。
「先生、火加減はお任せするぜよ!」
「助かりましゅ」
ユウトは野菜を刻み始めた。
会社員時代に酒のためにもと一人暮らしで覚えた料理。
豪華ではない。
でも、食べる人がニコニコできるような味を目指してはいる。
今日は採れたての野菜をたっぷり使ったスープに焼きたてのパン。
香草を添えた串焼きと、甘い果物のサラダ。
異世界の食材ばかりなのに、不思議と手が迷わない。
コンフォート・ビルドの力なのか、「素材事態の味やキャラクター性を確認しながらも、ひとつひとつ充実して一体化する食卓」を作るための感覚が自然と湧いてくる。
やがて、ふわりとスープの香りが広がった。
「わぁ……」
リクのお腹が鳴るのはもう三度目になる。
「もう限界です……」
その一言に、みんながホクホクしながら待機する。
庭に置かれた大きな木のテーブルへ料理が並べられる。
モフモフする皆様も、自分の場所へちょこんと座っていた。
子リスは木の実のお皿。
モチスライムには果汁ゼリー。
子オオカミには香草入りのお肉。
それぞれの好みに合わせたご飯だ。
「みんな、ちゃぁ~んと、お席がありましゅよぉ~、オジサマったらさっきから誰ですかっ、……おーぃえ?」
リクがそのキャラとツッコミに感心していると、ユウトは少し誤魔化すようなお顔になった。
「誰一人かけても意味無いしな……、カ……ゾク……?」
この世界に転生する以前は神経をすり減らして、事在る毎に衰弱しながら神経過敏をこじらせていた、ユウトにとってすこぶる意外な言葉だった。
そしてそのユウトがおもらしした一言で、食卓が少しだけ静かになった。
精霊たちは嬉しそうに顔を見合わせる。
モフモフたちは尻尾をぶんぶん振った。
「先生……」
シルフィが小さくつぶやく。
「ありがとうございます」
「え? 何のやつ? わたくスのやつ?」
「私たちを家族って云ってくれて」
ユウトは少しだけ困ったように頭をかいた。
「まだここにきてから日が浅いけど、これだけ神対応も充実してるしみんなも可愛いし、僕の何かが変わりそうな気がする……」
昨日会ったばかり。
それでも、この場所はどこか懐かしくて、安心できる。
会社にいた頃には一度も感じたことのないような、そんなリンケージとかムズムズするような感覚は、ユウトにとっての処方箋になりそうだった。
「いただきます!」
みんなの声がそろう。
一口スープを飲んだリクは、大きく目を見開いた。
「おいしい……!」
「ん、おいちぃ……」
体の奥まで温かさが染み込んでいく。
これまでの重い苦悩や苦痛ががすっと溶けていくような、不思議な感覚だった。
すると頭の中に、澄んだ声が響く。
【『コンフォート・ビルド』効果を確認】
【食卓に『心安らぐ』効果が付与されました】
【食事をした者の疲労を軽減します】
その体温のつまったような声は、もうユウトにとって甘えたくなるくらいの代物と化しては、当人ひとりのお顔を軽くトリップさせた。
「おーぃえ?」
「……え?」
リクは思わず自分の状態とまだ聞きなれない言葉、その双方に因ってユウトを見た。
「ユウトさん、この料理……」
「どーしただん?」
「食べた瞬間、疲れが消えました」
ユウトも驚いて、自分のスープを口に運ぶ。
「ん……、大賛成……。」
優しい味だけではない。
このダンジョンそのものが、食卓に癒やしを与えているのだ。
ルーチェが精霊らしい艶めくような甘いお顔でニコニコする。
「先生が心を込めて作ったものには、このダンジョンも応えてくれるんです」
その言葉を聞きながら、リクはゆっくりと辺りを見回した。
その事実からユウトの功績と実績に、ヒラヒラとニコニコし合う精霊たち。
夢中でご飯を食べるモフモフたち。
まだ若干感覚に警戒しながらも、割りと個の性能や性質が活かせると思った、ユウトのお顔は少しニヤニヤしていた。
そして、リク自身がデフォルメモンスターズや、艶めく精霊たちにエキセントリックな管理者のユウトに、このテーマパークを目指すようなダンジョンを冒しかけた事を恥じた。
「……帰りたくないな」
思わず漏れたその本音に、ユウトは精霊達が甘えたくなりそうなくらいに、優しくニヤニヤした。
「また来るんじゃよ? 粗品とか持ってくるんかぬ?」
その言葉に、リクの表情がぱっと明るくなった。
「おういぇい……」
「ん、おういぇい……」
その頃、街では――。
「リクのやつ、本当に何してるんだ?」
ギルドの仲間たちは、まさか新人冒険者がダンジョンで「また来ます」ととろけ顔になっているとは、夢にも思っていなかった。
ここで第一章前半のテーマである「読者も住みたくなるダンジョン」が形になってきました。
次の第6話では、ユウトがダンジョンに温泉を設計します。
しかし、その温泉には「精霊やモフモフが思わぬ入り方をしてしまう」という、ほのぼのコメディらしい騒動が待っています。




