第4話 攻略開始……のはずでした
それでは、第4話です。
今回は、この作品ならではの「ダンジョンなのに攻略できない理由」を、少し笑えて、ほっとできる雰囲気で描いていきます。
ダンジョンの入口で一人の青年が地図を広げていた。
革鎧に短剣、腰には小さなポーション袋。
新人冒険者のリクは、依頼書と目の前の石門を何度も見比べる。
「未登録ダンジョン……間違いない」
冒険者ギルドでは、未登録ダンジョンを発見すれば報奨金が出る。
さらに、内部を調査して危険度を報告すれば、冒険者としての実績にもなる。
「よし……」
リクは深呼吸をした。
「攻略開始だ!」
意気込んで門をくぐる。
だが――。
「……え?」
思わず足を止めた。
目の前には薄暗い洞窟ではなく、木漏れ日が降り注ぐ森が広がっている。
澄んだ小川が流れ、色とりどりの花が咲き、柔らかな風が青年のお顔をそっと吹き抜けた。
「ダンジョン……だよな?」
地図を見ても、間違いなくダンジョンと記されている。
なのに、空気は驚くほど澄んでいた。
森を歩いているだけで、肩の力が抜けていく。
「なんだこれ……」
その時だった。
「きゅい!」
白いモフモフが草むらから飛び出してきた。
「うわっ!」
反射的に剣へ手を伸ばく。
しかし、モフモフはリクの足元まで来ると、尻尾をぶんぶん振りながら見上げてきた。
「……敵じゃない?」
「きゅい♪」
お顔へすり寄ってくる。
ヌクヌクでモコモコ、ふわふわだ。
「か、かわいい……」
さらに、丸いリスが肩へ乗る。
モチスライムが靴の周りをぷるぷる跳ねる。
子ウサギが膝へぴょんと飛び乗った。
「ちょ、ちょっと待って!」
完全に囲まれてしまった。
だが、不思議と怖くない。
むしろ、お顔がとろけてしまう。
「君たち……人懐っこいな」
その様子を少し離れた場所から見ていたフレアが少し挑発的に云った。
「先生の言った通りだったな」
「ええ」
シルフィも優しく頷く。
「この人、悪い人じゃありません」
「でも、驚いてますね」
ユウトは苦笑した。
「普通はそうなる、んん。」
ダンジョンへ入ったと思ったら、デフォルメされたアニマルたちがモフモフしながら甘えてくるのだから。
「かかっ、カヌゥチュヲワアァn」
ユウトが声をかけると、リクは飛び上がるほど驚いた。
「ひゃっ!?」
「おっおっ、おーぃえ、なんか、……すまそん」
「い、いえ!」
リクは慌てて姿勢を正した。
「あなたが……このダンジョンの管理者ですか?」
「む、確かにユウトさんでご座りましゅ」
「管理者!? ん? ござりましゅ?」
未登録ダンジョンにはすでに管理者がいる。
そんな話は聞いたことがない。
しかも――。
「ここ……ダンジョンですよね?」
「そーぉ……ですな、ん」
「えっと……魔物は?」
「こつらのほうへ」
リクの反応に若干怯えながらも、何故かズーズー弁でユウトが答えると、モフモフたちが一斉に「きゅい!」と鳴いた。
「……この子たちですか?」
「そーですな、ん、だからさっきからおっさんですかアナタ」
自分でツッコミを入れてみては、よく分からないとか云われそうだと思いながら、リクにはユウトが少しオジサンに見えてきた
また自分より少し歳上くらいの『ユウトさん』さんの、エキセントリックな対応をやや気にしながらも、リクはしばらく黙っていた。
それから、子ウサギを抱き上げる。
「……討伐、無理です」
あまりにも真剣な表情だったので、ユウトは吹き出してしまった。
「む、そのようになさりませ」
ダンジョンの管理者に就任した設計士のユウトが、いんぎんにもチーフメイドのように云ったので、精霊たちも笑い声を上げる。
ダンジョンに、こんな穏やかな笑い声が響くことなど、きっと世界中探してもないだろう。
その時、リクのお腹が「ぐぅ……」と鳴った。
「あ……」
顔を真っ赤にするリク。
ユウトは少し考えてヘラヘラと笑った。
「ちょうどお昼だや? よかったら、お嫌でなければ、こつらのほうへ銅像」
「え? 銅像?」
「ここへ来た最初のお客様ですからな。」
リクは目を丸くした。
冒険者になって初めて入ったダンジョンで、言われた言葉が――
「こつらのほうへ銅像」
だった。
「……こんなダンジョン、聞いたことないしこんな人も見たこと無い。」
思わず漏れたその一言に、ユウトはニヤニヤして精霊たちも可愛くニコニコしたが、何処までもエキセントリックなユウトを見たまま、リクは開いた口がふさがらないでいる。
ダンジョンの常識は、ここでは通用しない。
ここは攻略する場所ではないし、仮にも誰かが「おかえり」と迎えてくれる家なのだから。
一方その頃。
街の冒険者ギルドでは、リクの仲間たちが首をかしげていた。
「遅いな……」
「新人だから迷ったか?」
誰も知らない。
リクが今、ダンジョンの探索や討伐ではなく、モフモフアニマルたちと昼食を囲もうとしていることを。
第5話では、この作品の名物になりそうな「ダンジョンカフェ」の始まりを描きます。
ユウトが初めて異世界の食材で料理を作り、精霊やモフモフさんにモエモン、そして冒険者リクが「また来たい」と思う、温かな食卓が生まれます。
これが後の「街との交流」へとつながる最初の一歩になります。




