第3話 みんなが帰りたくなる場所を作ろう
それでは、第3話です。
ここからは「ダンジョンを作る楽しさ」を前面に出し、思わず「ここに住みたい!」と思える空間づくりを描いていきます。
朝日が森の木々を優しく照らしていた。
ダンジョンの朝は驚くほど静かだ。
やや強く刺すように思ったのに、割りと快適な小鳥の鳴き声。
木の葉を揺らす風。
遠くで流れる小川の流れる音も緩やかに聞こえて、それでも自然界の音はまだ少し力強く、快適ながらもビクビクしてはユウトも自然の一部と化す。
今はまだ鋭くとも何故かこれからを期待させるような、それ以外の音はほとんどない。
「ん~ん、おーいぇ……」
ユウトはダンジョンにしか見えない、その家の前で大きく深呼吸をした。
会社員だった頃は目覚まし時計に叩き起こされ、満員電車へ飛び乗るような休まらない毎日だった。
今は違う。
誰にも急かされない朝。
それだけで肩に伸しかかるような重みは薄れて、ビクビクしながらも期待感の在る今の環境は、徐々に軽くなるようでスースーする。
「先生ー!」
明朗にも甘いような声とともに火の精霊フレアが駆け寄ってきた。
その後ろから、シルフィ、ミーナ、テラ、ルーチェ、リーフもヒラヒラと可愛く集まっては、ニコニコと煌めくから充実しない法が在るものか。
「おはようございます、先生」
「おっおっおーぃえ、じぇっしゅっ!」
これまで苦手としながら消耗した挨拶は、ユウトに生きる希望をもたらして、甘えようがチラチラと観てしまおうがニコニコしてくれる。
そんな自分がよもやこれ程にも、対話によるストレスを覚えないとは素晴らしいと、ユウトは少し驚いていた。
すると昨日の白いモフモフが足元へ飛び込んできた。
「きゅい!」
続いてモチスライムが「ぷるん♪」と跳ねる。
リスが肩に登り、子オオカミがしっぽを振る。
「皆皆々様ぁ~、朝からお疲れさまですぅん、まだおっさんではないっ!」
ユウトがしゃがむとモフモフたちは競うようにすり寄ってくる。
思わずニヤニヤしてしまったが、その些細なことさえ引きずるのだろうとユウトは覚悟したが、集まるみんなは許してくれるだろうかとも思った。
「先生」
シルフィが少し遠慮がちに口を開いた。
「お願いがあるんです」
「お願い……、おーぃえ?」
「みんなでゆっくりお昼寝できる場所が欲しいんです」
「お昼寝ですかゆ?」
「はい!」
今度はモフモフたちまで一斉に鳴き始める。
「きゅい!」
「ぷるん!」
「きゅるる!」
最早合唱とも謂える程のリアクションなら、どうやら全員賛成らしい。
ユウトはヘラヘラしながら頷いた。
「む、それではやってみませふ、ん。」
目の前に先の未来デパートに在りそうな光の設計図が現れる。
ユウトは鉛筆を持つように指を動かした。
まずは大きな木。
木漏れ日が心地よく差し込むように配置する。
その下には柔らかな芝生。
さらに木陰へ、ふかふかのクッションを並べる。
小川の音がほどよく聞こえる位置に、小さなハンモックも設置。
暑くなりすぎないよう、風が自然に抜ける通り道を作る。
最後に花壇を描き、季節ごとに花が咲くよう魔力を流す。
「……おうんぃぇん、みんな観てましゅん、でけまそた……」
設計図が光になる。
次の瞬間。
目の前の景色がゆっくりと変わっていく。
芝生が伸びる。
木々が枝を広げる。
花が一斉に咲き始める。
ふわりと甘い香りが風に乗った。
「おーぃええぇぇ、へーっへっへぇーい、へーへぇーい」
摩訶不思議にも先の通りにユウト、自在なプランニングとコンセプトを出力して、ユウトは尚に胃腸と神経の自由化に少し叫んだ。
「わあぁ……!」
精霊たちが目を輝かせる。
モフモフたちは待ちきれない様子で飛び込んだ。
ぽふっ。
クッションへダイブした子オオカミが、そのまま気持ちよさそうに眠り始める。
リスはハンモックで丸くなる。
モチスライムはクッションの上で「ぷるぷる」と揺れながら眠ってしまった。
「もう寝てしまわれる? おーぃえ?」
ユウトが閑にそう云いながらヘラヘラすると、リーフも閑にも甘くて優しいお顔をユウトに向けた。
「先生が作る場所は、とても安心するんです」
「まんずで?」
「はい、先生の魔力はとても優しいので」
その言葉にユウトは少しニヤニヤしながら甘えたくなる。
すると、頭の中に澄んだ声が響いた。
【コンフォート・ビルドが発動しました。】
【施設『お昼寝広場』を登録。】
【効果:疲労回復・精神安定・睡眠促進】
【精霊たちの幸福度が上昇しました。】
【モフモフたちの定住率が上昇しました。】
「どぅんいぇん、またしても? コーフクド?」
思わずニヤニヤと笑ってしまう。
「ゲームみたいなやつだじゃや」
しかし、数字よりも目の前の景色が答えだった。
精霊たちはヒラヒラと煌めいて、モフモフな皆様は安心しきって眠っている。
それだけで充分だった。
「先生」
「御主人様やユーたんでも宜しいが……」
それをスルーしたように見えたルーチェが空を見上げながら言った。
「このダンジョン、少しずつ生き返っています」
「生き返る……」
「はい」
「管理者が心を込めて作れば作るほど、この場所そのものが喜ぶんです」
ユウトは足元の草を見つめた。
確かに踏みしめる地面から温もりのようなものを感じる。
「家もダンジョンも……同じなのか、……住む人が充実していると、場所ももっと快適になる」
その言葉に、精霊たちは何度もしみじみと理解を示している。
その頃、ダンジョンの外では――。
「……本当に未登録ダンジョンか?」
一人の若い冒険者が、門の前で頭を掻いた。
中から聞こえてくるのは魔物の咆哮ではない。
楽しそうな笑い声と小さな鳴き声。
「なんだ、このダンジョン……?」
彼は恐る恐る、一歩だけ門へ近づいた。
この第3話で「お昼寝広場」が完成し、「ダンジョン=住まい」という作品の魅力が形になり始めました。
次の第4話では、初めて外部の人間(冒険者)がダンジョンを訪れ、「攻略するつもりが、癒やされてしまう」という本作らしいエピソードが始まります。
ここから作品の個性がさらに強く打ち出されていきます。




