第2話 ここは精霊さんたちのおうちです
それでは、第2話です。
ここから「癒やしダンジョン」の魅力を前面に出し、読者が「ここに住みたい」と感じられる空間づくりを意識して描きます。
森の奥から六つの光がゆっくりと近づいてくる。
光は次第に人の形を取って、やがてユウトの前に六人の少女が姿を現した。
風に揺れる若葉色の髪の少女。
水面のように透き通る青髪の少女。
夕焼けを思わせる赤髪の少女。
落ち着いた茶色の髪をした少女。
月明かりのような銀髪の少女。
花飾りを髪に付けた緑髪の少女。
年齢は十六~七歳ほどに見える。
全員が優しいお顔でヒラヒラとニコニコして、同時にぺこりと頭を下げた。
「ようこそお帰りくださいました、先生。」
「……え? ウフッ、わたくスのやつ?」
先生?
誰のことだろうか。
ユウトが辺りを見回すと、六人は不思議そうに首をかしげる。
「もちろん、先生のことですよ?」
「あなたが、このダンジョンの新しい管理者ですから。」
「管理者は、私たちにとって先生なんです」
そう言って、風の精霊がふわりと笑った。
その笑顔には警戒心がまるでない。
まるで何年も前から知っている相手を見るような、安心しきった甘くて優しい笑顔だった。
「私は風の精霊、シルフィです」
「水の精霊、ミーナ……」
「火の精霊、フレア!」
「土の精霊、テラです」
「光の精霊、ルーチェです」
「木の精霊、リーフと申します」
六人が順番に名乗る。
ユウトは慌てて頭を下げた。
「えっと……ユウトさんですが、どうか長い目でお願いしましゅ……」
その瞬間。
「先生がお名前を教えてくれた!」
「わあっ!」
「うれしい!」
六人は顔を見合わせ、まるで子どものようにはしゃぎ始めた。
「おほっ? ……そんなに? おーぃえ?」
ユウトが戸惑っていると、シルフィがソワソワしながらも艶々と優しくて甘いお顔でユウトを観た。
「管理者さんは今まで誰もいませんでしたから。」
「ずっと、このダンジョンには主がいなかったんです。」
「だから私たち、少し寂しかったんですよ。」
その言葉に、ユウトはどうするかと思いながら、設計以外は何も無いことが、太鼓持ち空間な状況においても根拠の無い自信が持てなかった。
誰も住んでいない家。
誰も帰ってこない場所。
それでも精霊たちは、ずっと待っていたのに相違無い。
そんな場所に自分のような半端者が来たのか。
「……こんなヤロウですが、長い目でお願いします」
ソワソワしながらも何かを誤魔化すようなユウトは、これまで陰キャを究めすぎているが、それでも精霊たちはヒラヒラと艶めきながらニコニコしている。
「はいっ!」
六人の声がぴたりと重なった。
その様子があまりにも可笑しくて、ユウトは思わず萌えてしまった。
すると、足元で何かが「ぷるん」と跳ねた。
「きゅ?」
見ると白い毛玉だけではなかった。
透明でもちもちしたスライムが、ぴょんぴょん跳ねている。
その後ろからは、丸々とした子リス。
短い足で走る子オオカミ。
ふわふわの白ウサギ。
ぽてぽて歩く小さなクマ。
気づけば何十匹ものモフモフたちが、ユウトを取り囲んでいた。
「おーぃえ!?」
「先生だー!」
「先生が来たー!」
シルフィたちが嬉しそうに声を上げる。
するとモフモフたちは一斉に――。
どどどどどっ!
ユウトに向かって走り出した。
「えっ、あっあっあっあん――」
もふっ。
もふもふっ。
ぷるん。
ぽすっ。
「おほっ、おーぃえおーぃえ、あっあっあたりましゅn、モフモフしゃん……」
気づけば全身がモフモフに埋もれていた。
肩にはリス。
膝には子オオカミ。
頭には鳥。
腕の中ではスライムがムニュムニュと、プニュプニュしながら何かを期待しているように見えて、ユウトがネットリと揉み込んでみると、もっとやってけろととろけている。
「……モコモコ、モフモフしゃん、プニュプニュ……、ムニュムニュ……ンフッ……」
会社では怒鳴り声しか聞こえなかった。
ここでは聞こえるのは小さな鳴き声と可愛くて艶っぽい声だけだった。
神経衰弱にも無理をしてきたユウトには、今まさに必要なものがたかっていて、ダンジョン内か判然としない広間がドリームスクエアと化した。
そんなユウトを見たリーフが優しくも甘い、そんな可愛いお顔をユウトに向けた。
「先生」
「あえ?」
「ここは戦うためのダンジョンではありません」
リーフは周囲の森を見渡した。
「ここは、私たちの家なんです」
風が木々を揺らし、湖がきらめく。
遠くでは果樹園らしき木々が実をつけ、小さな花畑には色とりどりの花が咲いている。
まるで一つの小さな村のようだった。
「だから先生」
「この家を、どうか一緒に育ててください」
ユウトは静かに周囲を見回した。
この場所なら怒鳴る人はいない。
締め切りもない。
誰かと競う必要もない。
好きなものを作りながら攻撃的ではない人たちを集めたり、精霊や萌え萌えアニマルたちと暮らせるのは、ユウトにはすこぶる有り難い事だった。
そんな毎日が本当に始まるのかもしれない。
ユウトは自然と笑みを浮かべて小さく賛成した。
「んむ、ここを……世界で一番住み心地のいいダンジョンにしませふ……、んーん、たまらん」
その宣言にヒラヒラと艶めく精霊たちと、モフモフな萌え萌えアニマルたちは、歓声を上げながら体当たりをしてくるがむしろモエモエだった。
そしてその頃――。
ダンジョンの外では一人の冒険者が古びた門を見つけていた。
「こんな場所に……未登録ダンジョン……だと?」
その視線は夢のようにも見える、その快適で静かな楽園へと向けられていた。
次回の第3話では、ユウトが「コンフォート・ビルド」を本格的に使い始めます。
最初に作るのは豪華な城ではなく、「みんなでくつろげるリビング」と「モフモフ専用のお昼寝広場」。
読者が「ここに住みたい」と感じるような、温かく快適なダンジョンづくりが始まります。




