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草薙銀之助短編集  作者: 草薙銀之助
異世界の魔王に転生したので世界を支配します 一期

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十四話 魔王と聖剣士の大決戦

異世界の魔王に転生したので世界を支配します

 鎧が軋みながら尖った足音を響かせて、その厭な音は僕にストレスをおぼえさせて、それでもその音は青年の使命がそうさせている。


 僕の魔王フロアは床全体に絨毯を敷いてあるし、それが幾分か足音くらいは吸って、暗黒騎士の鎧の音も実は証書ア我慢している。


 そして青年は消し去った魔族達の事や、その使命に燃えていた自分自身の痛ましさを痛感して、尚も使命のためだと言い聞かせて職務に準じる。


 その下から上がってくる厭な音は、同時に恐怖となって我々魔族達を戦慄させたが、今度は幹部もいるし上層にいた上級魔族達もいる。


 更にその上には魔王の僕がいて磐石ではあるが、僕の推理が正しければ交渉の余地は在るか、まだ分からないがおそらく可能だ。


 上層から幹部のいる階層へ到達したが、上層の魔族とは知らない青年はまだこれだけいるのかと、それでも姿勢が崩れないのは立派だろう。


 青年は突きの構えから構わずに突撃して、非効率にもぎゅうぎゅうに詰まった当階は、攻撃自体を許さないので僕は魔王の部屋から出撃させた。


 せっかくサルベージしてきた魔族達は二度の展開にも、予想外ながら戦っても変わらない結果、再度のエクバスキルが発動された。


 その直ぐ上には幹部や魔王の僕がいると、術師たちが幾数の結界を咄嗟に張ったが、その中でもろとも消え去ってしまった。


 その事実は僕にとって甚大な衝撃となったが、ルガウルが降りてそのフロアで闘いに挑むが、流石に幹部だけあって隙が無い。


 ダークネスバトラーだが幹部レベルにして、そのステータスや総合的な質は、他の上級魔族とはまるで格が違ってすこぶる強い。


 紳士的なオジサンさんの魔界執事は、年功の有りそうなくらいの老執事だか、尚も圧倒しようとする聖騎士とほぼ互角の戦いを魅せた。


 幹部レベルの戦闘を拝見するのはこれが初めてだが、激しい聖剣の剣戟に大してまさかの徒手空拳、サシでの闘いは開幕から激しいものだった。


 いやそれどころか鎧の上からでも構わないと、拳脚による打撃が圧倒しながら、ワンインチに硬直しながら青年を打ち飛ばした。


「そなたの魔族に対する憎しみはしかと受け止めました、ですがしかし、我々もあなた方人間に同朋を亡くしております。」


 ルガウルの静かなる言葉は青年にも染みたか、ゆっくりと立ち上がると瓦礫の前で老執事の言葉に、青年騎士はじっと耳を傾けている。


「あの大技を出来るだけ使用しないようにと、そのようなお気遣いを戴いていた事は我々も承知しておりますし、職務も御座いましょう。どうかこのまま魔王に従っては戴けませんか。」


 老執事の“魔王”に反応した青年は、それは出来ぬと謂ってまた平突きに構えると、ルガウルは落胆しながら交渉を続けようとする。


 苦悩する青年はルガウルに斬り衝けたが、ダメージを覚える老執事は構えもしないで、何度も青年の剣戟を受けては吹き飛ばされた。


「何故だ!何故反撃して来ないっ!」


 ラテン語によるその言葉は翻訳されて聞こえたが、それに対して老執事の言葉は噛み合わないどころか、血を流しながらも悠々と語り始めた。


「あなたもあの畑や田んぼを視ましたでしょう、城壁の周りには街町が増えております、それは全て魔王様がこの魔界を変えようとなさっておられるのです。」


 悠々清寂に語る老執事に何度も殴り衝ける如く、斬り衝けては苦悩に叫んで尚も斬り衝ける、その青年にバトラーの言葉は悉く刺さる。


「魔王が魔界を変えるだとぉ! ふざけるなぁ!」


 最早聖騎士として相応しくない怒号は、バトラーの言葉による魔法とも違うような、そして魔法のようにそれとは違うダメージが利いていた。


「けして我々はふざけてなどおりませぬ、農業も商業もこれから発展する予定でした、それに偏見や悪意を根本から無くす努力を、魔王様はこれからもお続けになるでしょう。」


「何も分からぬ魔族風情がぁっ!」


「何も解さぬと意固地になっておられますは、あなた方人間に御座いましょう、あなた自身も既に覚えも御座いましょう」


 青年は最早聖騎士でも敵でも無くなっている、少なくとも僕にはそう見えていたし、ルガウルの言葉はまさに魔族の総意と覚えるのに充分だった。


「私の家族はお前たちに殺されたんだ、子供たちでさえ妻も弄ぶように、僕の目の前で……、妻は複数の悪魔たちに凌辱されたっ、だからわたしは魔族を赦さないっ!必ず殺すっ!」


「交渉決裂ですな……」


 功を奏するかと思われたルガウルの交渉は、青年が聖騎士となった本来や目的を思い出させて、闘うしかないとルガウルも構えた。


 斬り衝けさせたダメージを引きずりながら、それを伏せるように開幕よりも激しく、轟音と空を斬る音が静寂を支配した。


 しかしながら最早これまでと退治し直した時に膝を付いて、ルガウルは僕の元に戻っては、血まみれのままソファに座った。


 職員たちが手当てを始めて数分か、今度は

青年と遜色の無い金髪イケメン紳士、エレメンタルダークソードマスターのハワードが降りて行った。





「次はお前か……」


「いやいや、いくら我々に恨みがあるとは謂え、流石にそれは……」


「黙れ、わたしの、ローズマリアを、子供たちを、まだ幼いエミーラまで……、ボロボロになるまで全身を犯し抜いた挙げ句に肉片が飛び散るほどに……っ、」


「……」


 魔族への憎しみを負のエネルギー源として、聖騎士にまでなって果たしに来たその青年に、ハワードは改めて感服しながら黙っていた。


 女子供まで容赦無く隅々まで目の前で傷つけられて、当時は自身の無念さを痛感しただろうと、今しがたに同朋を喪ったハワードは思った。


「ではこうゆうのはどうでしょう」


「何だ」


 何時も通りに華麗にも鮮やかに提案するハワードに、ハラワタの苦しみが収まらないのを我慢しながら、圧し殺すように返す青年ミカエル。


「その怨み、買いましょう」


 さらりと軽やかにも不敵に放つハワードに、その言葉をトリガーとして神速に距離を詰めると、憎しみを込めた剣戟が何合も繰り出された。


「その程度ですか?」


「貴様、死ねぇっ!」


「イイですね、すばらしい、その怒り任せな攻撃を戴けて、わたしは非常に嬉しい」


「何を云うか! うるさいっ! 怒りの審判(ブレイズライツ)!」


 何を思って青年ミカエルを挑発するのか、更にヒートアップして時限強化スキルを発動したから、余計に危険となったではないか。


 神の正統性を受けている聖騎士として、歪んでしまっている己の正しさを押し衝けては、次々に聖属性の魔法やスキルを放つミカエル。


「それなりに本気ですね、ではこちらも、そろそろっ!」


 華麗なるイケメン騎士は変わらぬ信念で、青年の歪んだ正義を受け止めながら、それを流してエレメンタルダークソードマスターの技能を解放する。


「ダークフレイム、ライトニングレイ、コールドアイス、キャッツパウ、おっとやりすぎましたか」


 闇の焔が正面に飛んで雷の光線が頭上から降ると、こおりのつぶてが背中から襲って、そよ風の嵐が横からミカエルを囲んでしまった。


「くっ、んぐぐっ」


 それだけの激しい攻撃はハワード独自の物で、実力の三分の一程度かそこらくらいだから、まだまだ余裕と見えて挑戦的にニヤニヤしている。


 ミカエルは意外な攻撃魔法にダメージを受けて、回復魔法『エンゼルキス』を発動して回復して、それをまたしても更に挑発するハワード。


「おや? 回復ですか、以外に弱いのですねぇ、がっかりだ」


ーーそんなにしたらマジィじゃろ?ーー


「貴様っ、殺すっ」


 そう云って聖剣『クルスオブセイバー』を、例のごとく天に向けてかざしたところへ、ハワードは割り込んで混ぜ返した。


「いやいや、それでなければ僕にすら勝てない、はぁ、どうしましょうねぇ」


「うぐっ、チッ」


「ん、お利口さん」


「ブッ殺す! スゥーッ、ふうぅ~~~っ」


 僕は迫力の在るゲーム世界のような光景に惹かれたが、当事者の二人は戦闘中に集中し直して、構え合って静寂の数秒と同時に飛び込み合った。


 鋭い音は僕にとって苦痛でしかないが、闘ってくれているハワードと憎しみをも沈めて、騎士同士としてぶつかり合う様は圧巻だった。


 剣が三合目につば競り合っては弾いて、剣戟をパリィしては廻転してカウンター、それすらもあくびをしそうなくらいに止めるハワード。


「奉神の信撃(クルセイダ・ソーダス)!」


「闇からの祝福(ブラック・ビアライズ)」


 ミカエルの聖属性スキルが振り下ろされるが、受けて立つと不敵にさらしたハワードは、真正面から闇属性スキルをぶつけた。


「ビール一杯くらい奢るぜ?」


「血糖値が上がるっ、要らん!」


 まるで漫才だかコントだか分からない、真剣勝負のはずがハワードの華麗なるギャグマシマシ攻撃で、よく分からない展開に見えてくる。


「神の啓示っ、アボカリプス!」


「エッチョワードっ? OH・YEAH」


 ミカエルの渾身破撃すらもパリィして、ダンサーの如く気取りながら迫るハワードは、次の剣戟に振りかぶるのを剣で制して止めた。


 ミカエルの首許に剣が寸止めされて、まだやるかと謂って挑発するハワードに硬直して、焦りを表面化させたまま固まった。


「んん~、お前とはもっとやりたいが、ちっとばかり疲れたな、張りきり過ぎた……」


「貴様っ、逃げるのか!」


「そうじゃねぇけど、次の見せ場がね、まっ、譲ってやるんだよ、じゃあな」


 そう云ってフュッと消えたハワードを、散々翻弄して大した実力も発揮しなかった事実に、ミカエルは屈辱と敗北感に怒りを燃やした。


 ハワードは紳士スピリットは忘れているのか、充実しながらも幹部は他にもいると、魔王も数にいれているのだとすれば油断はできない。





「でぇをわぁ、ワシのぉ、番かぁ」


 そう云って出陣しようとしたクラウザーを制して、次はリリスが行くと謂い出したので、数秒程の沈黙がソワソワと舞い降りた。


「ワタシも幹部なのよ? まあ、遊んでくるわ」


 さて、お次に参られるはトキの大せんせぇ、リリス様が青年ミカエルにご挨拶をなされたが、この闘いはどうなってしまうのか。


「わたくし、リリスと申します、貴方と少々お戯れを致したくて参りました」


「おたわむれ……?」


 青年は整端なお顔で少し狼狽の気色を見せて、これではさすがにと上品に清楚な格好のリリスは、側近のメイド達に準備をさせた。


「貴方もお疲れでしょう、ティータイムに致しますわね」


 リリスの発言でメイド達が自動的に、テーブルやティーセットを用意して、ガチでティータイムに突入するのかとミカエルは驚愕していた。


 パリの一寸お洒落なカッフェの外側に在りそうな、そのテーブルや椅子に就くリリスは、そちらへと向かい側の椅子へ誘導する。


 しかしあまりの拍子抜けな展開に、ミカエルは警戒しながら少し近寄って、異常の無い紅茶や茶菓子を確認すると自分の席に用意されたティーカップを掴んだ。


「あら、コーヒーの方がよかったかしら?」

「ふざけているのか!」


 かんしゃくに狂うようなミカエルは、リリスがあまりにも挑発したようにも見えて、その紅茶を美麗にも甘いそのお顔にブッカケてしまった。


 ミカエルからすれば敵からの邪悪なトラップか、それが本当にただのティータイムだったので、真面目に参上した筈が振り廻されている。


 挑発的なハワードに負けた直後で、まさに茶番のような展開が更に青年を挑発したか、長年の努力や苦辛を嘲笑う状況に見えたのだろう。


 それによって清楚にも青年の理解者に努めただろう、そのリリスをその気にさせてしまったか、いよいよリリスは魔女に変身した。


「遂に本性を現したな悪女め」


「あら、レディの扱いも知らない貴方に、そんなことを謂う資格はないわね」


「ふん、楽園を追放された悪女が偉そうに……」


 これがトリガーになってしまったからいけなかったか、リリスは白い滑らかな肌を随所に魅せる、黒い格好のマントをはためかせた。


 魔女の帽子はデフォルメされた猫のバッヂ、胸部とヘソと腰はギリギリにまで開いて、膝まで有るブーツに裏地がビロウドのマント。


 ほぼ闇色の黒一色に赤いルージュと目許の閃光が妖く、努めに失敗したよりもプライドが赦さない、そのリリスは本気で怒っている。


 青年が"女の悪魔なら勝てる"と勝機を確信したミカエルは、突きに構えて何からやるかと、不敵なお顔で空中に浮かぶリリスに突撃した。


 ダークウィザードにして暗黒の美魔女、楽園から追放されたその当時から魔女や悪女とされて、永年の間もすこぶる気にいる元人間。


 また使用するスキルはオリジナルにして、ほぼ全て闇属性とのコラボ魔法となっているのか、剣戟を避けると次々にそれを連発した。


「宵闇の華怨(ナイトフレア)、真夜中の嵐(ミッドナイトシャワー)、凍てつくオンナの陰口(フェイタルラブファントム)」


 艶めくようなその美魔女は踊るようにも魅せ浸けて、ハワードよりも強力なそれは、或意味で自虐性すら弄ぶようにも思えた。


「くっ、ぐああぁぁぁっ」


「裸の愛情(クロスアウトラブ)、あっ、やっちゃった?」


 闇をまとう炎が捕り憑いたかと思うと、雷や風に水と闇が引き掻き廻しながら、冷気にやや硬直したところへ聖と闇のダメージ。


 聖騎士の青年ミカエルに対して最後に聖属性と、それに就いて気になったらしかったが、むしろ闇の媚態とオンナの甘味が充実したか。


 魔法の見た目は普通に過激だが、リリスにかかれば媚性の美賞が絡まるのか、こんな解説をリリスが聞いたらどうなっちゅ?


 どうなるもなにもリリス様ご本人による、その幽愁なハレンチダイナマイトだろうから、責められる方が謎とも思える。


 落下するミカエルはとっさに防御魔法を展開したか、それを追ってゆっくりと着地するリリス、その足許は砂埃が舞っている。


 聖騎士のバリアブルジャケットは、神の加護でやや焦げたに留まっているが、ミカエル本人には相当なダメージを受けていると見える。


 上級回復魔法『天使の法養(エンゼルフィーラ)』、発動したミカエルは挽回だと立ち上がるが、リリスはそれを受けなかった。


 仕掛けようとして突撃しようとするミカエルに、『使用人の痴態(メイドインアタック)と、リリスは無属性スキルを発動した。


 呼出されたリリスの側近メイド達が、ほうきで松ぼっくりを打ったり塩を撒いたり、耳許でフーフーしてはそのまま引き上げた。


 ニェーナもルゥースも嫌がらせして、フレイユもスティーラもアグヌスもヒラヒラと挑発して、護衛にしては一応の仕事はしたのか。


「どうせこのままやっても無駄よ? じゃあねぇ~っ、可愛かったわぁ~っ!」


 そう云ってハワードとは比較にならないくらいに、或意味で瞬殺や即死コンに近い、圧倒しきったリリスは清楚系美女に戻って悠々と帰って来た。





 ハワードより字数的にも仕事をしたリリスが戻って、いよいよクラウザーのターンだが、黒光りした鎧に紅く燃えるような黒焔が閃くか。


 クラウザーは割りと大男でその頭くらいまで有る大剣は武骨にも鎧と同じく闇がかった高級感が、暗黒騎士のグレードを惹き立てる。


「んん~っ」


 おもい腰を上げるクラウザーは歳の重みをも背負って、リアリティもレベルもカンストした、その暗黒騎士の険しいお顔は威厳を見せた。


 のそりのそりと聖騎士が待つ下層へ降りると、当人の身長程も有る大剣『ダーカーエルグランドソード』、それを頭上で旋回するように持ち上げた。


「ぐっ、かはっ、ぃいいぃぃ」


「おっ、おい、……ダイジョウブか?」


 我らが魔王に継ぐ実力者のクラウザーは、実は腰痛で空とは関係無しに大剣の遠心力に負けたか、もう既に劣勢を見せるからソワソワする。


「ふんっ!!」


 ミカエルにすら気を遣わせたクラウザーは、無理にも肉体の歪みや痛みをすっかりと、爆風の中で瞬時に直して見せた。


「いィくらァなァんでもぉ、同情さぁれちゃぁ、ぉおしめぇってぇもぉんだぁ」


 先までとは何かが違うと思ったミカエルは、中断に構え直して容子をうかがって、そしてその静寂は暗黒騎士の叫び声によって砕けてしまった。


「んんーんっ、ぃいいぃぃぃっ! ふんぬあぁぁぁっ! じぇいっ! ぬうん!」


 重く風を斬る大剣は暗黒騎士の年功と老化に、やや振り廻されながらも受け太刀不能に、黒いビロウドの騎士マントは無駄に舞い踊った。


 『聖女の祈り(ムーンライトレディ)』を発動して、ミカエルは機動力と防御力を引き上げて、それを全て避けきっては分析する。


ーー攻撃は重いがアレでは当たることは無い、そもそも隙だらけだーー


 真っ向から突っ込むように魅せながら、先ほど痛がった部分を聖剣で薙斬ると、暗黒騎士はぶっ飛んで瓦礫から起き上がるとまた横に吹っ飛んだ。


 大剣でガードはした上からでも高速化したミカエルは、神速に振りをやや深めては一撃一撃を重く、それは入城前の憎しみだけでは無かった。


 ハワードにもリリスにも屈辱的に敗北して、それが更に青年に慟哭を背負わせては、老化したクラウザーを悉く苦しめた。


 しかしクラウザーにはまだ戦略が有って、それはまだ分からぬが“わざと喰らっている”のか、回復もしないで徐々に追い詰められる。


「貴様は弱かった、もう死ね」


「ふん、若造ごときに負けはせん」


 突きに構え直したミカエルを確認すると、暗黒騎士の体内から赤黒い揺らめきが発生して、それは徐々に大きくなってフロア全体を闇で支配した。


「ぁぁぁああああっ!」


「なんだ?!」


 体力が三分の一を切ったのが条件だろう、重い叫びは大地をも揺るがして共鳴するか、まさか城は倒れまいが職員達も慌てた。


 数分間の弱い地震が去ると暗黒騎士は、異常なおぞましさを撒き散らしながら、青年を見る眼は険しくも鋭く眼光は闇色に紅く耀いていた。


ーーなんだあの眼は、それにポンコツではなかったのかーー


 流血やダメージの蓄積は荘厳さを増して、魔王の僕ですら見たことの無いそれは、闘い抜いてきた者の強さその物だった。


「今さら気取ったところでもう遅い」


「……」


 黙っているクラウザーに勝機を見たか、突撃しながら聖剣を頭部に突き刺そうとしたが、それをクラウザーは指一本で止めた。


「なにっつ?!」


「何を迷うたか小僧、この程度、ちょいっとな」


 後方へそのまま圧して吹っ飛ばしたクラウザー、鎧のブーツを軋ませる音は僕にはやや苦だが、そんなことよりも先ずはこの後だ。


 聖騎士にゆっくりと寄る暗黒騎士は、足許に大剣を突き刺して妖しく光る紅い魔方陣を展開、ややふらふらしたそれは重く口を開いた。


「青年よ、覚悟せい、貴様の苦はぁ承知のすけだがぁ、現魔王の苦もぉ、少しは理解してぇ戴こう、んんっ」


 魔王城のナンバーツゥの実力は分かりづらくも、覚醒したクラウザーは確かに対称は魔王にだが、僕の腹事情も察してくれていたのだろうか。


 そして老練のスペシャリストたるクラウザーは、遂に最終ステージ『魔王の間』へと、青年をゆっくりと連れて帰って来た。





 青年は魔王である僕の前に連れられると、老練の騎士は暗黒を忘らるるが如くに、幹部たちに手のひらを差されて誘導された。


 サキュバスたちは僕に密着して青年を一瞥するが、僕は改めて事情を話そうと思って、言葉が出ないのを無理に引きずり出した。


「奥様やお子様方を亡くされたんですよね」


「……だからどうした」


「あっ、いや、……我らは先代以前とは違って、出来るだけのことはしたいと思っている、確かにこの幹部たちは先代以前から勤めあげているが、誰に対しても悪いようにはしたくない」


「俺の家族はここにはいないっ!」


「誠に残念ながら、しかし、もう少しいいですか、我々の使者として王国や人間たちと、その、交渉しては戴けませんか、誰か附けますし」


「国へ戻って負けましたと、敵に寝返ったと、そんなことを報告すれば、どんな拷問に処されるか分からないな!」


「では、責めて我々にこのままご協力戴けませんでしょうか」


「断る! どう在ってもオレの使命は“聖騎士として魔王を討ち倒すこと”だ!」


「ならばお手合わせ戴こう、幹部たちは充分に働いてくれた、同朋たちを消し去られたことは遺憾ながら眼を瞑ろう、その上でもと申されるならば引導を渡そう」


「オレは聖騎士だ!」


「ではお手合わせ戴こう」


 画して交渉は失敗に終わってサキュバスたちも参加するか、先ずは僕一人で対応してみて、それいかんと謂うことで下がってもらった。


 先ずは一応防御魔法『ニートプレイス』に、解析スキル『覗き魔の企み(ナイトシーキング)』、あとはあちら様がどう出るか。


「何をたくらむかは知らんが、そんな安っぽい手は通用しない、悪の言葉は聞くに及ばずっ」


ーーいや、普通に痛々しいから何とかしたいだけですけどーー


 解析スキルで確認したが青年に闘う意思はほとんど無いか、王国にも帰れないし魔界側へは警戒、死ぬしかないなら責めてと腹をくくっている。


 何時だったかスキルを試そうと思って、リリスに使用してみたことが在って、その時は優雅なティータイムだったから対して分からなかった。


 しかし解析能力はすこぶる正確にして、リリスのスリーサイズまで分かったりしたので、たまに録画データをこっそり観ることがある。


 内緒のことはどうでもいいとして、青年のステータスやレベルに名前やスキル等も、具体的にデータ化出来るので今後のためにもストックか。


 状況的にもルガウル以外の幹部には負けているし、その辺りから上級魔族以外の誰一人として、青年によって消滅も敗北もしていない。


 その辺りも自信や自負が崩壊していて、キャラも若干程度崩壊する他、祖国へ持ち帰るだけの実績も結果も無いのだから退路も無い。


 念のためにサキュバス達も僕の側近として、レベリングや限界突破も済ましていて、戦力にはなるだろうが今の青年にはハードすぎる。


 それに一度くらいは魔王の実力を確認したいが、その機会が今この時参られたなら、やれるだけやってみようと思った。


 ーーとは謂っても魔王のスキルはどれも高火力か、魔王ということで聖属性対策はしているが、青年の方も闇属性の対策は講じているだろう。


 少しぶっぱなしてみようかと思った僕は、適当にまあまあな感じのやつをやってみたが、思った以上に火力が高かった。


 ギリギリ持ちこたえたミカエルは、ここでも『天使の法養(エンゼルフィーラ)』を二度発動して、全快の上に『聖女の祈り(ムーンライトレディ)』も発動。


 本気で挑むのはやはり一介の騎士にして、闘いそれその物を職業としながら、騎士としてのプライドも上乗せされて引き下がれないのか。


 何合も剣戟を止め合っては剣を振り合う、先までの一方的な展開ではないし、青年自身も快適に腕を競うようで何故か充実した。


 剣が打ち合わされる鋭い音は苦痛だが、青年の生命力を棄てさせるわけにもいかないし、それならスッキリするまでやってみるしかないか。


 それでもさすがに連戦に連戦の幹部戦から、ほぼずっと闘い続けてきた青年は、遂に剣と膝をついて息をあげては動けないままでいる。


「もう、わたしを殺せ……」


 閑にも結果を悟り抜いたと見える青年は、また入城前のように自分自身の足許を見たか、絶望と屈辱がまとわりついたようなお顔になっている。


「殺しはしない、どうかそのチカラや実力を我々に預けてくれませんか、悪いようにはしません。


帰る場所も失くなるだろうし魔界でなら命もスポットも保証できる、どうかお願いします」


「どうせ帰れないし往く宛もない、いいだろう、いや、ご協力致しましょう、魔王様」


 遂にこの時より魔王軍への厄災となる聖騎士は、過去と使命による呪縛から解放されて、幹部の一人として参入することとなった。






毎日日課にしてみてください。

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