第64話 世界拡張網
異世界の交易都市に開かれた**森のカフェしっぽっぽ(異世界支店)**は、開店からわずか数日で“ただの店”ではなくなっていた。
もはやそれは――拠点。
いや、“中心”と呼ぶべき存在へと変わりつつあった。
朝から店の前には長蛇の列。
森猫族が整理を行い、蜥蜴人族が警備を固め、鳥人族が上空から状況を把握する。
鉱人族は設備の補修を行い、魔導士族は商品の分析と改良を進めていた。
完全に“組織”が出来上がっている。
店内では――
「次の方どうぞー!」
「泡三本と石鹸セット!」
「三位一体セットも追加で!」
「ありがとうございます!」
忙しさは頂点に達していた。
カウンターの奥で、サトルは静かに全体を見渡す。
「……回ってるな。」
「回りすぎて怖いくらいです。」
みどりが苦笑する。
「売上もやばいですよ。」
「想定内だ。」
「いや想定超えてます。」
「それでも問題ない。」
「強い。」
トラが店内を歩き回り、チビは客にじゃれついている。
ジルは最初こそ戸惑っていたが、今では接客にも慣れ始めていた。
きなは相変わらず動かないが、なぜか客が安心する空気を出している。
イチは高所から監視し、ロンは入口で堂々と構えていた。
その時、店の奥で騒ぎが起きた。
「サトル!!」
「話がある!!」
やってきたのは、各種族の代表たちだった。
魔導士族、鉱人族、蜥蜴人族、鳥人族、森猫族――
全員が揃っている。
「何だ。」
「この店、もう一つじゃ足りない。」
「……だろうな。」
「各地から要望が来ている!」
「北の都市、砂漠の街、海沿いの港!」
「全部に出してほしい!」
みどりが固まる。
「え、もう多店舗展開ですか!?」
「早すぎません!?」
サトルは静かに言う。
「予定通りだ。」
「予定にあったんですか!?」
「ある。」
「どこまで計画してるんですか……」
魔導士族が前に出る。
「我々が各地に転移拠点を作る。」
「物流は任せろ。」
鉱人族が頷く。
「店舗の建設は任せろ。」
「量産できる。」
蜥蜴人族が低く言う。
「警備網を敷く。」
「安全は保証する。」
鳥人族が翼を広げる。
「情報は空から流す!」
「宣伝も任せて!」
森猫族が元気に言う。
「接客いっぱいやるにゃ!」
「任せろにゃ!」
完全に“拡張体制”が整っていた。
サトルは一瞬だけ考え――
「やる。」
「即決!!」
「やっぱり!!」
みどりが頭を抱える。
「もう止まらない……」
「止める理由がない。」
「正論ですけど怖い!」
サトルは机に地図を広げる。
「拠点を増やす。」
「だが統一する。」
「ブランドは一つ。」
「“森のカフェしっぽっぽ”」
「それを広げる。」
「……もう完全に企業ですね。」
「商会だ。」
「規模が違う。」
その後、動きは一気に加速した。
数日で北の都市に二号店。
さらに港町に三号店。
砂漠のオアシスに四号店。
どの店も同じ看板。
同じ商品。
同じ理念。
「泡ありますか!?」
「三位一体セットください!」
「石鹸追加で!」
どの店舗も爆発的な人気だった。
そして――
異世界中で噂が広がる。
「“どこにでもある不思議な店”」
「“心と体を整える場所”」
「“サトルの店”」
もはや個人の店ではない。
“現象”だった。
地上――京都の森のカフェしっぽっぽでも変化が起きていた。
「最近、お客さん増えてません?」
「増えてるな。」
「なんか“噂を聞いて来ました”って人が多いです。」
「影響だ。」
「異世界の?」
「そうだ。」
「逆輸入!?」
「そんな感じだ。」
トラが「にゃ」と鳴き、チビが跳ねる。
ジルは落ち着いて客に近づき、きなは動かず癒しを提供する。
イチは棚の上から見守り、ロンは入口で堂々と構える。
サトルは静かにコーヒーを飲む。
「……広がったな。」
「広がりすぎです。」
「まだ途中だ。」
「え?」
「終わりじゃない。」
「……どこまで行くんですか?」
サトルは短く答える。
「繋ぐ。」
「何をですか。」
「全部だ。」
「……やっぱり怖い。」
だがその目は、確実に未来を見据えていた。
異世界と地球。
文化と生活。
人と種族。
すべてを繋ぐ“網”が、今まさに広がっている。
小さな猫カフェから始まった物語は――
ついに世界規模へ。
そしてそれでもなお、サトルは止まらない。
(次は――“融合”だ)
その言葉の意味を、まだ誰も知らない。
だが一つだけ確かなことがある。
森のカフェしっぽっぽは、
もはやただの店ではない。
世界を変える“中心”になっていた。




