第63話 異界支店
午後の森のカフェしっぽっぽは、いつも通りの穏やかな空気に包まれていた――はずだった。
しかし、その裏ではとんでもない計画が進んでいた。
トラは床でごろりと寝転がりながらも、ちらちらとサトルの様子を見ている。
チビは紙袋に顔を突っ込み、みどりに引きずり出されていた。
きなはソファに沈み込みながら、まるで何もかも見透かしているかのように動かない。
イチは棚の上から冷静に観察し、ジルは少し距離を取りつつも興味を隠せない様子。
ロンは入口で静かに構え、何かが始まる気配を察知していた。
カウンターには地図が広げられている。
「……これ、異世界の地図ですよね。」
「そうだ。」
「なんでこんなものがここにあるんですか。」
「必要だからだ。」
「嫌な予感しかしません。」
「当たってる。」
サトルは一点を指差す。
「ここだ。」
「……どこですか?」
「交易都市だ。」
「人も物も集まる。」
「つまり。」
「店を出す。」
「やっぱり!!」
みどりは頭を抱える。
「いやいやいや、ついにそこまで行きます!?」
「行く。」
「即決すぎる!」
「もう準備は終わってる。」
「早い!」
チビが「にゃー!」と鳴きながら地図の上に乗る。
「チビ、そこは重要な場所!」
「にゃー!」
「多分関係ない!」
サトルは静かに立ち上がる。
「行くぞ。」
「え、今からですか?」
「今だ。」
「展開が速い!」
地下の扉を開く。
そこにはすでに――
「サトル!!」
「待ってたぞ!!」
「店の話は本当か!?」
異世界の住人たちが集まっていた。
森猫族、魔導士族、蜥蜴人族、鉱人族、鳥人族、獣人族――
さらに、今まで以上に多くの種族が集結している。
サトルは一歩前に出る。
「店を作る。」
「異世界に。」
「おおおおお!!」
「ついに来た!!」
「本拠地だ!!」
歓声が響く。
「場所は交易都市。」
「人が集まる。」
「物流もある。」
「完璧だ!」
魔導士族が頷く。
「情報の拠点にもなるな。」
「流通が加速する。」
鉱人族が腕を組む。
「設備は任せろ。」
「店の構造を作る。」
蜥蜴人族が低く言う。
「警備は任せろ。」
「守る。」
鳥人族が翼を広げる。
「宣伝は空からやる!」
「広がるぞ!」
森猫族が嬉しそうに跳ねる。
「接客するにゃ!」
「かわいい担当だにゃ!」
「採用だ。」
「やったにゃ!」
その場で役割が決まっていく。
完全に“組織”になっていた。
サトルは静かに言う。
「店の名前はそのままだ。」
「“森のカフェしっぽっぽ”」
「異世界支店。」
「いい!!」
「分かりやすい!!」
「覚えやすい!!」
みどりが呟く。
「ほんとにやるんだ……」
「やる。」
「止めても無駄ですよね。」
「無駄だ。」
「知ってました。」
数日後。
交易都市にて――
ついに店は完成した。
木と石で作られた建物。
だが中はどこか地球のカフェの雰囲気を感じさせる。
カウンター、テーブル、そして商品棚。
そして看板。
森のカフェしっぽっぽ(異世界支店)
「ついに……」
「できたな。」
「すごい……」
オープンと同時に、人が押し寄せた。
「ここが噂の店か!!」
「泡をくれ!!」
「三位一体セットはあるか!?」
完全に“聖地化”していた。
「順番だ。」
「落ち着け。」
「はい!!」
統制も完璧。
販売は順調に進む。
「これが包丁か!」
「石鹸すごい!」
「泡最高!!」
笑顔と歓声が広がる。
異世界の中に、確かに“新しい文化”が根付いていく。
サトルはカウンターに立ち、静かに店内を見渡す。
「うまくいったな。」
「大成功ですね。」
「当然だ。」
「言い切るの強い。」
トラが「にゃ」と鳴き、チビが店内を走り回る。
ジルは少しずつ接客に慣れ、きなは相変わらず動かないが存在感はある。
イチは高い場所から全体を監視し、ロンは入口で堂々と客を迎えていた。
サトルは小さく呟く。
(これで終わりじゃない)
(ここが始まりだ)
「次は。」
「まだあるんですか。」
「ある。」
「何ですか。」
「広げる。」
「……どこまで?」
「全部だ。」
「世界征服ですか?」
「商売だ。」
「似てる気がします。」
小さな猫カフェから始まった物語は、
ついに異世界に“拠点”を築いた。
だがそれは終わりではない。
むしろ――
本当の始まりだった。
今日もまた、
森のカフェしっぽっぽは――
世界を少しずつ変えていくのだった。




