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森のカフェしっぽっぽ  作者: 森のカフェしっぽっぽ


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第65話 境界融解

 異世界各地に広がった森のカフェしっぽっぽの支店は、すでに“生活の一部”として根付き始めていた。


 北の都市では、仕事前に泡を使い集中力を高めるのが習慣となり、

 港町では漁師たちが石鹸で身体を清める文化が広まり、

 砂漠のオアシスでは三位一体セットが“贅沢な生活の象徴”として扱われている。


 すべてが順調――いや、順調すぎるほどだった。


 だが、その裏で。


 サトルは静かに次の段階を見据えていた。


 京都の森のカフェしっぽっぽ。

 カウンターでコーヒーを飲みながら、ぽつりと呟く。


「……そろそろだな。」


「何がですか。」


「融合だ。」


「また出ました、怖いワード。」


 みどりが苦笑する。


「これ以上何をするんですか。」


「境界をなくす。」


「……はい?」


「地球と異世界。」


「分ける意味がない。」


「いやいやいや、ありますよ普通は!?」


「もうない。」


「断言しないでください!」


 トラが「にゃ」と鳴く。

 チビがカウンターに飛び乗り、ジルが驚いて少し後ずさる。

 きなは動かず、イチは棚の上から静かに見ていた。

 ロンは入口でゆっくりと尻尾を振る。


 サトルは立ち上がる。


「行くぞ。」


「またですか!?」


「準備はできてる。」


「ほんとに早い!」


 地下へ降りると、すでに異世界側の主要メンバーが集まっていた。


 魔導士族(メイジ)鉱人族(ドワーフ)蜥蜴人族(リザードマン)鳥人族(ハーピー)森猫族(フォレストキャット)――

 そして、各地の支店責任者たち。


 空気が張り詰める。


「始める。」


「境界融合だ。」


「ついに来たか……」


 魔導士族(メイジ)が静かに頷く。


「理論は完成している。」


「だがリスクもある。」


「承知している。」


 鉱人族(ドワーフ)が腕を組む。


「装置は作った。」


「だが規模がでかい。」


「暴走したら終わりだぞ。」


「制御する。」


 蜥蜴人族(リザードマン)が低く言う。


「守る準備はできている。」


「何が来ても対応する。」


 鳥人族(ハーピー)が翼を広げる。


「空から監視する!」


「異変はすぐ伝える!」


 森猫族(フォレストキャット)が少し不安そうに言う。


「でも……本当にやるのかにゃ?」


「世界、混ざるにゃ?」


 サトルは短く答える。


「完全には混ざらない。」


「だが行き来は自由になる。」


「……なるほどにゃ。」


「なら面白そうにゃ!」


 みどりが小さく呟く。


「もう戻れない気がします……」


「元から戻る気はない。」


「知ってました。」


 準備は整った。


 地下の奥に設置された巨大な装置。

 魔法陣と機械が組み合わさった、異質な存在。


「起動する。」


「全員、位置につけ。」


「はい!!」


 光が灯る。


 魔法陣が回転し、装置が低く唸る。


 空気が震え始める。


「魔力上昇!」


「安定率70%!」


「まだ上がる!」


 魔導士族(メイジ)が叫ぶ。


「制御を維持しろ!」


「崩れるな!」


 サトルは一点を見つめる。


「……今だ。」


「解放。」


 その瞬間――


 光が爆発した。


 眩い閃光。


 音が消える。


 世界が、揺れる。


 そして――


 静寂。


 ゆっくりと目を開ける。


 そこには。


 “変化した空間”があった。


 京都のカフェと、異世界の空気が混ざり合っている。


 窓の外には、見慣れた街並みと――

 異世界の建物が、同時に存在していた。


「……成功か?」


「成功だ。」


「成功したの!?」


「した。」


 みどりが外を見る。


「え、ちょっと待って……」


「鳥飛んでますけど!?」


「ハーピーだ。」


「普通に飛んでる!!」


 店の扉が開く。


 入ってきたのは――


「おお、ここが地球か!」


「噂通りだ!」


 異世界の住人だった。


 そして逆に。


 外には地球の人間が、異世界の景色に驚いている。


「なにここ!?」


「映画のセット!?」


「違うな。」


「現実だ。」


 サトルは静かに言う。


「これが“融合”だ。」


「やりやがった……」


 みどりが頭を抱える。


「完全にやばいことしてますよ。」


「だが成功だ。」


「成功だから余計に怖い!」


 トラが「にゃ」と鳴く。

 チビが異世界の客に飛びつき、ジルは少し驚きながらも近づく。

 きなは変わらず動かず、イチは高所から全体を見守る。

 ロンは入口で堂々と立っていた。


 サトルはカウンターに立ち、静かに呟く。


「これで。」


「全部繋がった。」


「地球も。」


「異世界も。」


 人が行き交う。


 種族が交わる。


 文化が混ざる。


 境界は、もはや意味を失った。


「次は……」


「まだあるんですか。」


「ある。」


「何ですか。」


「均衡だ。」


「……また難しいの来た。」


 サトルはコーヒーを一口飲む。


 その目は、さらに先を見ていた。


 融合した世界。


 だがそれは完成ではない。


 むしろ――始まり。


 異なる世界が交わった時、必ず生まれる“歪み”。


 それをどう保つか。


 それこそが次の課題だった。


 小さな猫カフェから始まった物語は、

 ついに世界の境界を越えた。


 そして――


 新たな時代が、静かに幕を開ける。


 森のカフェしっぽっぽは今日も変わらず営業中。

 ただしその“世界”は、もう一つではなかった。

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