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森のカフェしっぽっぽ  作者: 森のカフェしっぽっぽ


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第61話 泡旋風

 午後の森のカフェしっぽっぽは、いつもより少しざわついていた。

 理由は明確――サトルが“新商品”を持ち帰ってきたからだ。


 トラは床でごろりと寝転がりながらも、ちらりとカウンターの様子を見ている。

 チビはすでに袋に突撃しており、みどりに確保されていた。

 きなはソファに沈み込みながらも、耳だけがぴくりと動く。

 イチは棚の上から全体を監視し、ジルは少し距離を取りながら様子をうかがっていた。

 ロンは入口で落ち着いた様子だが、気配はしっかり感じ取っている。


 カウンターの上には、いくつもの小瓶と箱が並んでいた。


「……これ、全部ですか?」


「全部だ。」


「今回多くないですか?」


「多いな。」


「嫌な予感しかしません。」


「当たってる。」


 みどりは一つの瓶を手に取る。


「これ、石鹸……ですよね?」


「ただの石鹸じゃない。」


「また出ました。」


「今回は“泡”だ。」


「泡?」


「異世界の素材で作った。」


「……嫌な予感が増えました。」


 サトルは一本を開ける。


 ふわり、と柔らかな香りが広がる。


 それだけではない。

 空気がほんの少し軽くなるような、不思議な感覚。


「え……なにこれ。」


「軽い……」


「空気が柔らかい感じがする……」


「効果だ。」


「やっぱり。」


「これは“気分を整える泡”だ。」


「なんですかそれ。」


「簡単に言うと。」


「ストレス軽減だ。」


「それめちゃくちゃ需要ありますよ。」


「だから持ってきた。」


 チビが再び突撃しようとして止められる。


「チビ、それは食べ物じゃない!」


「にゃー!」


「絶対違う!」


 トラが「にゃ」と鳴きながら、のそりと起き上がる。

 ジルも少し近づいてきた。


 サトルは静かに言う。


「これを異世界に持っていく。」


「売れますね。」


「間違いなくな。」


「またバズりますね。」


「もうバズる前提だ。」


「強い。」


 サトルはそのまま地下へ向かう。


 扉を開けた瞬間――


「サトル!!」


「新商品だろ!!」


「待ってたぞ!!」


 すでに集まっていた。


 森猫族(フォレストキャット)魔導士族(メイジ)蜥蜴人族(リザードマン)鉱人族(ドワーフ)鳥人族(ハーピー)、そして見慣れぬ種族まで。


 完全に“期待値MAX”である。


「静かにしろ。」


「順番だ。」


「はい!!」


 全員素直に従う。


(教育されたな)


 サトルは瓶を掲げる。


「新商品だ。」


「泡だ。」


「泡?」


「なんの泡だ?」


 森猫族(フォレストキャット)が首を傾げる。


「気分を整える。」


「ストレスを軽減する。」


「……それだけ?」


「それが一番重要だ。」


 魔導士族(メイジ)が目を細める。


「精神系魔法に近いな。」


「だが違う。」


「魔力を感じない。」


「自然な作用だ。」


「そうだ。」


 サトルは少量を手に取り、泡立てる。


 ふわりとした泡が手の中に広がる。


「触ってみろ。」


 蜥蜴人族(リザードマン)が慎重に触れる。


「……なんだこれは。」


「落ち着く。」


「戦闘前に使ったら冷静になりすぎるかもしれん。」


「使いどころは選べ。」


 鳥人族(ハーピー)が興奮する。


「飛ぶ前に使ったら安定しそう!」


「それはありだな。」


 鉱人族(ドワーフ)が腕を組む。


「作業効率が上がるな。」


「集中できる。」


「買う。」


 即決である。


「値段は?」


「一本、金貨二十。」


「安い!」


「今回は安い!」


「広めるためだ。」


「なるほど!」


 瞬間、空気が変わる。


「まとめてくれ!」


「三本!」


「いや五本!」


「俺は十本だ!」


 完全に暴走が始まった。


「落ち着け。」


「在庫はある。」


「順番だ。」


「はい!!」


 列が一気に整う。


(やりやすいな)


 販売は爆発的だった。


 次々と売れていく泡。


 試した者はその場で追加購入。


 口コミがその場で広がる。


「これすごい!」


「落ち着く!」


「頭がクリアになる!」


「革命だ!」


 サトルは静かに頷く。


(これは当たりだ)


 そして予想通り――


 翌日。


 異世界中で話題になった。


「“心を整える泡”」


「“戦士も癒される奇跡の液体”」


「“魔法不要の精神安定剤”」


 盛られに盛られていた。


 そして当然――


 再び大行列。


 サトルが地下に降りると、


「追加は!?」


「在庫は!?」


「予約させろ!!」


 完全にバズっていた。


 サトルは短く言う。


「ある。」


「だが値段は上げる。」


「やっぱり!!」


「金貨三十だ。」


「それでも買う!!」


「知ってた。」


 地上に戻ると、みどりが呆れた顔で言う。


「やっぱりバズりましたね。」


「したな。」


「しかも値上げ成功。」


「当然だ。」


「商人こわい。」


 トラが「にゃ」と鳴く。

 チビが飛び跳ね、ジルが少しだけ中央に出てくる。

 きなは動かず、イチは棚の上から見守る。

 ロンは入口で静かに尻尾を振る。


 サトルはコーヒーを飲みながら、静かに呟く。


「次は。」


「何ですか?」


「組み合わせる。」


「組み合わせ?」


「包丁、石鹸、泡。」


「全部だ。」


「……また大きいこと考えてますね。」


「当然だ。」


 その目は、すでに次の“バズ”を見据えていた。


 小さな猫カフェから始まる、大きな流れ。

 それはもう止まらない。


 今日もまた――

 異世界と地球を繋ぐ商売が、静かに、そして確実に拡大していくのだった。

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