表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森のカフェしっぽっぽ  作者: 森のカフェしっぽっぽ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/68

第54話 刃の王道

 午後の森のカフェしっぽっぽは、今日も変わらぬ穏やかさ――のはずだった。


 トラは床で堂々と寝転がり、チビはその上で意味もなくジャンプを繰り返している。

 きなはソファに沈み込み、もはや呼吸音だけが存在の証明だった。

 イチは棚の上から店内を監視し、ジルはカーテンの陰から慎重に様子を見ている。

 ロンは入口で丸くなりながら、時折尻尾をゆらす。


 カウンターではサトルが静かに帳簿をつけていた。

 みどりはその横で、興味津々に覗き込む。


「すごい数字ですね。」


「そうか。」


「包丁、めちゃくちゃ売れてますよね。」


「売れてる。」


「これ、過去最高じゃないですか。」


「更新した。」


「やっぱり。」


「まだ伸びる。」


「まだいくんですか。」


「いく。」


 みどりは少し笑う。


「完全に商人モードですね。」


「元からだ。」


「確かに。」


 その時、チビが帳簿にダイブした。


「やめろ。」


「インクつく。」


「チビー!」


 みどりが慌てて回収する。


「危ない。」


「利益が猫になるところでした。」


「それはそれで価値あるな。」


「ないです。」


 トラが「にゃ」と鳴く。

 ジルは静かにその様子を見ていた。


 サトルは帳簿を閉じる。


「次に行く。」


「次?」


「セット販売だ。」


「出ました。」


「今回はただの包丁じゃない。」


「何するんですか。」


 サトルは小さな箱をいくつか取り出す。


「包丁+砥石+手入れ道具。」


「完全セットだ。」


「プロ仕様ですね。」


「長く使わせる。」


「なるほど。」


「単価も上げる。」


「やっぱりそれ。」


「金貨八十だ。」


「えっ。」


「ついにそこまで……」


「価値はある。」


「でも売れます?」


「売れる。」


「根拠は?」


「流れだ。」


「雑だけど説得力ある。」


 サトルは立ち上がる。


「行ってくる。」


「いってらっしゃい。」


「今回は戦争にならないといいですね。」


「なる。」


「断言しましたね。」


 サトルは地下へと降りる。


 扉を開けた瞬間――


「来たぞ!!」


「サトルだ!!」


「新しい刃を持ってきたか!?」


 すでに熱気が充満していた。


 森猫族(フォレストキャット)魔導士族(メイジ)蜥蜴人族(リザードマン)鉱人族(ドワーフ)――

 さらに前回の“巨大な存在”も奥で腕を組んでいる。


 サトルは静かに前に出る。


「新商品だ。」


「おおおお!」


「待ってた!」


 箱を開ける。


 中には包丁と砥石、手入れ道具一式が整然と並んでいる。


 ただの道具ではない。

 “使い続けるための仕組み”そのものだった。


「これは……」


 ドワーフが目を細める。


「砥石?」


「刃を研ぐ道具だ。」


「これで切れ味を維持する。」


「なるほど……!」


「消耗品じゃないのか。」


「長く使える。」


「だから高い。」


「いくらだ。」


 サトルは迷わず言う。


「金貨八十枚。」


「たっっか!!」


「限界突破してる!」


「だが……」


 ドワーフが腕を組む。


「理にかなっている。」


「買う。」


「また即決か。」


「職人だからな。」


 森猫族(フォレストキャット)も興味津々。


「これあればずっと使える?」


「使える。」


「欲しい!」


「買う!」


 魔導士族(メイジ)も頷く。


「自己修復しない道具にとって。」


「これは革命だ。」


「研究対象だ。」


「一本確保する。」


 蜥蜴人族(リザードマン)が低く唸る。


「戦場でも刃を維持できる。」


「これは強い。」


「買う。」


 そして奥にいた巨大な存在が一歩前に出る。


「それを三セットだ。」


「了解だ。」


「値下げは?」


「しない。」


「やはりか。」


「だが納得はできる。」


 次々と売れていくセット。


 前回以上の勢いだった。


 サトルは静かに周囲を見渡す。


(完全に市場を取ったな)


 だが、その時――


 後方から小さな声が聞こえた。


「……買えない。」


 振り向くと、人族(ヒューマン)の若い料理人が立っていた。


「高すぎる……」


「欲しいけど……無理だ……」


 サトルは少しだけ考える。


 そして一歩近づいた。


「名前は。」


「レオンです。」


「料理人か。」


「はい。」


「本気か。」


「本気です。」


 サトルは一本の包丁を取り出す。


「貸す。」


「え?」


「代わりに。」


「結果を出せ。」


「店で使え。」


「評判を広げろ。」


 レオンは目を見開く。


「いいんですか……?」


「投資だ。」


「成功すれば回収できる。」


「失敗すれば?」


「見る目がなかっただけだ。」


 少しの沈黙。


 そしてレオンは深く頭を下げた。


「やります。」


「必ず。」


「いい返事だ。」


 周囲がざわつく。


「そんな売り方もあるのか。」


「広がるなこれは……」


「噂がさらに広がるぞ。」


 サトルは小さく頷く。


(これで一気に加速する)


 やがて販売は終わり、サトルは地上へ戻る。


「おかえりなさい。」


「どうでした?」


「完売だ。」


「やっぱり。」


「さらに広がる。」


「何したんですか。」


「種をまいた。」


「怖い言い方。」


「そのうち分かる。」


 トラが「にゃ」と鳴く。

 チビが飛びつき、ジルが静かに見守る。

 きなは動かず、イチは棚の上からすべてを見ている。

 ロンは入口で尻尾を振る。


 サトルは静かにコーヒーを飲む。


(刃は売れた)


(次は“文化”を売る)


 異世界に広がる、日本の技術。

 それはただの道具ではなく、

 一つの“王道”として根を張り始めていた。


 そしてその中心には――

 静かに笑う、一人の商人がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ