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森のカフェしっぽっぽ  作者: 森のカフェしっぽっぽ


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第53話 刃の狂騒

 午後の森のカフェしっぽっぽは、いつも通りのんびりしている――はずだった。


 トラは床のど真ん中で堂々と寝転がり、チビはその尻尾を命がけで追いかけている。

 きなはソファと完全に同化し、存在感だけで癒しを振りまいていた。

 イチは棚の上から店内を監視し、ジルはカーテンの陰から慎重に様子を見ている。

 ロンは入口で寝ているが、誰か来ると一応だけ起きる。


 カウンターではサトルが静かにコーヒーを淹れていた。

 みどりはレジ横でスマホを見ながら、驚いた声を上げる。


「サトルさん。」


「なんだ。」


「異世界、バズってます。」


「何がだ。」


「包丁です。」


「もうか。」


「もうじゃないです。」


「めちゃくちゃです。」


「どういうことだ。」


 みどりは画面を見せる仕草をする。


「“音もなく切れる刃”って広まってます。」


「名前がかっこいいな。」


「さらに。」


「さらに?」


「“料理人も戦士も欲しがる伝説の刃”って。」


「盛られてるな。」


「めちゃくちゃ盛られてます。」


 サトルはコーヒーを一口飲む。


「売れるなら問題ない。」


「いや危ないですよ。」


「どうなると思う。」


「大混雑です。」


「だろうな。」


「他人事みたいに言わないでください。」


「他人事じゃない。」


「当事者だ。」


 その時、地下からドンッと何かがぶつかる音が響いた。


「今の音。」


「来たな。」


「嫌な予感しかしません。」


 サトルは静かに立ち上がる。


「行ってくる。」


「気をつけてくださいね。」


「大丈夫だ。」


「たぶんな。」


「その“たぶん”怖いです。」


 サトルは地下へと降りる。


 扉を開けた瞬間――


「サトルーー!!」


「遅い!!」


「次はいつ入荷だ!!」


 怒号と熱気が一気に押し寄せた。


 倉庫兼店舗は完全に人で埋まっていた。


 森猫族(フォレストキャット)魔導士族(メイジ)蜥蜴人族(リザードマン)鉱人族(ドワーフ)――

 さらに見慣れない種族まで集まっている。


 サトルは静かに状況を見渡す。


(完全に需要爆発だな)


「落ち着け。」


「順番だ。」


「順番待ってたら売り切れるだろ!」


「だから並んでるんだ!」


「戦士優先だ!」


「料理人優先だ!」


「全員優先じゃない!」


 カオスである。


 サトルは手を軽く上げる。


「話を聞け。」


 一瞬だけ静かになる。


「次の入荷はある。」


「本当か!」


「だが。」


「だが?」


「値段は上げる。」


「ええええ!?」


「さらに上がるのか!」


「鬼だ!」


「商人だ。」


 サトルは淡々と続ける。


「今回は金貨五十枚だ。」


「高すぎる!」


「でも欲しい!」


「くそっ!」


 鉱人族(ドワーフ)が腕を組む。


「……それでも価値はある。」


「買う。」


「即決か。」


「職人だからな。」


 森猫族(フォレストキャット)が耳をピンと立てる。


「前より高いけど……欲しい。」


「料理が楽しくなる。」


「買う!」


 魔導士族(メイジ)も頷く。


「研究価値がある。」


「この刃は魔法とは別の領域だ。」


「非常に興味深い。」


「一本確保する。」


 蜥蜴人族(リザードマン)が低く唸る。


「戦場で使えば優位に立てる。」


「これは武器だ。」


「買う。」


 さらに後ろから別の種族が声を上げる。


「俺も欲しい!」


「俺も!」


「私も!」


 完全に取り合いである。


 サトルは小さく息を吐く。


「数は限られている。」


「予約制にする。」


「予約!?」


「順番を決める。」


「公平だ。」


 ざわめきが広がる。


「それなら納得だ。」


「並べばいいのか。」


「よし、やるぞ。」


 列が形成され始める。


(統制取れたな)


 サトルは静かに頷く。


 その時――


 ひときわ大きな影が現れた。


 見たことのない種族。


 全身を鎧のような鱗で覆い、圧倒的な威圧感を放っている。


「その刃。」


「すべて買う。」


 一瞬、場が凍りつく。


「独占は不可だ。」


 サトルが即答する。


「金なら出す。」


「問題は金じゃない。」


「市場だ。」


「独占すると価値が下がる。」


「……ほう。」


 その存在はサトルを見つめる。


「面白い商人だ。」


「分かってるな。」


「長く売る気か。」


「当然だ。」


「ならば。」


「私は複数買う。」


「他にも行き渡る程度に。」


「それなら問題ない。」


 場の空気が少し和らぐ。


「誰だあれ。」


「初めて見る種族だ。」


「強そう……」


 サトルは内心で考える。


(新規顧客か……これはさらに広がるな)


 しばらくして、予約の整理が終わる。


 サトルは地上へ戻った。


「どうでした?」


「戦場だった。」


「やっぱり。」


「需要が爆発してる。」


「ですよね。」


「次はもっと持っていく。」


「仕入れ大変そうです。」


「だが儲かる。」


「それ言うと思いました。」


 トラが「にゃ」と鳴く。

 チビが飛びつき、ジルが静かに見守る。

 きなは動かず、イチは棚の上からすべてを見ている。

 ロンは入口で尻尾を振る。


 サトルは静かにコーヒーを飲む。


(これはまだ序章だな)


 異世界に広がる“刃の噂”。

 それはすでに、ただの道具の域を超え始めていた。


 そしてサトルは、次の一手を決めていた。


(次は……セット販売だな)


 その目は、完全に商人のそれだった。

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