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森のカフェしっぽっぽ  作者: 森のカフェしっぽっぽ


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第51話 重なる想い

 午後の森のカフェしっぽっぽは、やわらかな光に満ちていた。

 窓から差し込む日差しが床に淡い影を落とし、コーヒーの香りが静かに漂っている。


 トラはいつものように床で大の字になり、チビはそのしっぽに全力で挑み続けている。

 きなはソファで完全に沈黙し、もはや置物としての完成度を高めていた。

 イチは棚の上から店内を見渡し、ジルはカーテンの陰から慎重に様子をうかがっている。

 ロンは入口で丸くなりながら、時折耳を動かしていた。


 カウンターではサトルがコーヒーを淹れている。

 みどりはカップを並べながら、少し気にしたように言った。


「どうなりましたかね。」


「何がだ。」


「この前の彼氏さんです。」


「話しに行くって言ってましたよね。」


「結果は本人が持ってくる。」


「気になります。」


「気にしても変わらない。」


「それでも気になります。」


「人間だな。」


 その時、ドアベルが鳴った。


 カラン。


 入ってきたのは、あの男性だった。

 そしてその後ろには、あの女性の姿もある。


 二人とも少し緊張した顔をしているが、どこか柔らかい空気をまとっていた。


「いらっしゃいませ。」


「こんにちは。」


 二人は並んで席に座る。


 チビが迷いなく二人の間に飛び乗った。


「真ん中ですか。」


「仲裁役だ。」


「便利ですね。」


 トラも足元に来てゴロンと寝転がる。

 きなはちらっと見るだけでまた寝る。

 ジルは少し距離を取りながら様子を見る。


 サトルがコーヒーを二つ置いた。


「どうだった。」


 男性と女性は顔を見合わせる。


 そして、女性が先に口を開いた。


「話しました。」


「全部。」


 男性も続ける。


「正直に言いました。」


「迷ってたことも。」


「怖かったことも。」


 みどりが静かに頷く。


「それで?」


 女性は少し笑った。


「私も言いました。」


「不安だったこと。」


「一人で決めてる気がしてたこと。」


 チビが二人の間で丸くなる。

 二人は自然とその背中を撫でた。


「結果は?」


 サトルが短く聞く。


「結婚します。」


 二人同時に言った。


 みどりがぱっと顔を明るくする。


「おめでとうございます!」


「ありがとうございます。」


「お世話になりました。」


 男性は少し照れたように笑う。


「鏡、すごかったです。」


「本音が分かるって怖いですね。」


「だが必要だ。」


「はい。」


 女性も頷く。


「ちゃんと話したら。」


「思ってたより簡単でした。」


「難しくしてたのは自分たちでした。」


 サトルは小さく頷く。


「大体そうだ。」


「ですね。」


 その時、ジルがゆっくりと近づいてきた。

 少し迷うように足を止めた後、二人の間にそっと乗る。


「お。」


「ジルまで。」


「珍しいですね。」


 女性は優しく撫でる。


「この子、ちゃんと見てるんですね。」


「見るというより感じてる。」


「安心してるやつに寄る。」


 男性は少し笑った。


「じゃあ合格ですか。」


「今のところはな。」


「厳しい。」


「猫基準だ。」


 二人は顔を見合わせて笑った。


 トラが「にゃ」と鳴き、ロンがゆっくり尻尾を振る。


 店内には、どこか温かい空気が流れていた。


 しばらくして、女性がふと思い出したように言う。


「そういえば。」


「何だ。」


「ここって、異世界の物があるんですよね。」


「ある。」


「結婚祝いに何かありますか。」


 みどりが少し笑う。


「出ましたね。」


「イベントごとには強いですよ、この店。」


 サトルは少し考え、カウンターの奥へ向かった。


 しばらくして、小さな箱を持って戻ってくる。


「これだ。」


「何ですか?」


「絆の指輪だ。」


「普通の指輪じゃないんですか。」


「異世界製だ。」


 サトルは箱を開ける。


 中には、シンプルだがどこか不思議な光を持つ指輪が二つ並んでいた。


「これをつけると。」


「互いの感情が少しだけ伝わる。」


「完全ではない。」


「だが嘘は分かる。」


 二人は同時に固まった。


「それ、怖くないですか。」


「怖いな。」


「でも。」


「面白そうでもあります。」


 女性は少し笑った。


「隠し事できないですね。」


「最初からない方がいい。」


 男性も頷く。


「確かに。」


「これ、ください。」


 サトルは小さく頷いた。


「いい選択だ。」


 二人は指輪を受け取る。


 そして少し照れながら、お互いに見せ合った。


「なんか実感湧いてきました。」


「これからですね。」


「そうだな。」


「今からが本番だ。」


 二人は同時に笑った。


 チビが間で「にゃ」と鳴く。


 ジルも静かに寄り添っている。


 トラは相変わらず寝転がり、きなは完全に動かず、イチは棚の上から見守っていた。


 ロンは入口で静かに尻尾を振る。


 やがて二人は立ち上がる。


「ありがとうございました。」


「また来ます。」


「いつでもどうぞ。」


「猫たちにもありがとう。」


 チビが名残惜しそうに降りる。

 ジルも静かに離れる。


 ドアベルが鳴る。


 カラン。


 二人は並んで外へ出ていった。


 みどりがサトルを見る。


「いい話でしたね。」


「そうだな。」


「やっぱり繋がりましたね。」


「最初から繋がってた。」


「それに気づいただけですか。」


「そういうことだ。」


 イチが棚の上から「にゃ」と鳴いた。


 店内には再び穏やかな時間が流れる。

 猫たちはそれぞれの場所でくつろぎ、

 コーヒーの香りがゆっくりと広がっていた。


 今日もまた、森のカフェしっぽっぽでは、

 誰かの想いが重なり、

 新しい未来へと繋がっていくのだった。

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