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森のカフェしっぽっぽ  作者: 森のカフェしっぽっぽ


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第49話 縁の巡り

 午後の森のカフェしっぽっぽは、穏やかな空気に満ちていた。

 窓から差し込む光が床にやさしい影を落とし、コーヒーの香りがゆっくりと広がっている。


 トラはいつものように床で堂々と寝転がり、チビはそのしっぽにじゃれついている。

 きなはソファの上で完全に溶け、もはや動く気配すらない。

 イチは棚の上から店内を見渡し、ジルはカーテンの陰から半分だけ顔を出している。

 ロンは入口で丸くなり、時折耳を動かしていた。


 カウンターではサトルがコーヒーを淹れている。

 みどりは窓を拭きながら、ふと口を開いた。


「結婚、決まりましたかね。」


「誰のだ。」


「運命の糸の人です。」


「まだだろう。」


「でも決断してましたよ。」


「決めただけだ。」


「そこからが大変です。」


「それも含めてだ。」


「深いですね。」


「浅い話だ。」


 その時、ドアベルが鳴った。


 カラン。


 入ってきたのは、見覚えのある女性だった。

 少し照れたような顔をしている。


「いらっしゃいませ。」


「こんにちは。」


 女性は席に座る。


 チビが迷いなく膝に飛び乗った。


「やっぱり来ましたね。」


「完全に常連です。」


「覚えられてますね。」


「営業担当だからな。」


 トラも足元に来てゴロンと寝転がる。

 きなは一瞬目を開けて、また寝る。

 ジルは少し距離を取りながら様子を見る。


 サトルがコーヒーを置いた。


「どうした。」


 女性は少し笑った。


「報告に来ました。」


「結婚、決まりました。」


 みどりがぱっと顔を明るくする。


「おめでとうございます!」


「ありがとうございます。」


「順調そうだな。」


「はい。」


「でも。」


「でも?」


「少し不安もあります。」


「当たり前だ。」


 チビが膝の上で丸くなる。

 女性はその背中を撫でながら話す。


「相手の家族とか。」


「生活の変化とか。」


「いろいろ考えると。」


「ちょっと怖くなって。」


 サトルは静かに頷く。


「変わるからな。」


「はい。」


「でも。」


「でも?」


「選んだのは自分です。」


「それでいい。」


 女性は少し笑った。


「そう言ってもらえると安心します。」


 その時、ジルがそっと近づいてきた。

 そして女性の膝の端にちょこんと乗る。


「また来てくれた。」


「ジルも覚えてますね。」


「信頼してる証拠だ。」


 女性は優しく撫でる。


「この子、本当に不思議ですね。」


「猫だからな。」


「それで全部説明つくんですね。」


「大体つく。」


 女性は少し考える。


「実は。」


「何だ。」


「彼も連れてきたいんです。」


「ここに?」


「はい。」


「いいんですか。」


「問題ない。」


「猫アレルギーじゃなければな。」


「大丈夫です。」


「じゃあ今度来ます。」


「歓迎する。」


 トラが「にゃ」と鳴く。

 ロンがゆっくり尻尾を振る。


 女性はコーヒーを飲み終え、立ち上がった。


「今日はありがとうございました。」


「また来ます。」


「いつでもどうぞ。」


「猫たちにもありがとう。」


 チビが名残惜しそうに降りる。

 ジルも静かに離れる。


 ドアベルが鳴る。


 カラン。


 女性は外へ出ていった。


 みどりがサトルを見る。


「いい流れですね。」


「そうだな。」


「今度は二人で来ますよ。」


「その方が面白い。」


「面白いんですか。」


「人間関係は大体面白い。」


「ちょっと怖い言い方です。」


「現実だ。」


 イチが棚の上から「にゃ」と鳴いた。


 店内にはまた穏やかな時間が流れる。

 猫たちはそれぞれの場所でくつろぎ、

 コーヒーの香りがゆっくりと広がっていた。


 数日後――

 再びドアベルが鳴る。


 カラン。


 入ってきたのは、あの女性と、隣に立つ一人の男性だった。


「こんにちは。」


「いらっしゃいませ。」


 男性は少し緊張した様子で店内を見回す。


「ここが……例のカフェですか。」


「そうです。」


「猫が本体の店だ。」


「そうなんですか。」


 その瞬間、チビが迷いなく男性の膝に飛び乗った。


「えっ。」


「早いですね。」


「採用だ。」


「何のですか。」


「猫基準の合格だ。」


 女性が笑う。


「よかったね。」


「そういう基準なんだ……」


 トラも足元に来てゴロンと寝転がる。

 ジルは少し迷ったあと、ゆっくり近づいてくる。


 そして、そっと男性の膝の端に乗った。


「お。」


「ジルまで。」


「珍しい。」


 サトルが小さく頷く。


「問題なさそうだ。」


「何がですか。」


「縁だ。」


 男性は少し不思議そうな顔をしたが、

 やがて小さく笑った。


「よろしくお願いします。」


「こちらこそ。」


 みどりがコーヒーを運ぶ。


「ゆっくりしていってください。」


「はい。」


 店内には、少しだけ新しい空気が流れ込む。

 それは緊張と期待が混ざった、心地よい変化だった。


 猫たちはいつも通り気ままに過ごしている。

 だがその中で、確かに新しい“縁”が静かに結ばれていた。


 今日もまた、森のカフェしっぽっぽには、

 誰かと誰かを繋ぐ、見えない糸がそっと巡っているのだった。

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