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森のカフェしっぽっぽ  作者: 森のカフェしっぽっぽ


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第48話 糸の選択

 午後の森のカフェしっぽっぽは、穏やかな陽射しに包まれていた。

 窓の外では風がやわらかく木々を揺らし、店内にはいつものようにコーヒーの香りが満ちている。


 トラは床で大の字になり、チビはそのお腹の上で跳ねている。

 きなはソファで完全に沈黙し、もはやクッションとして完成していた。

 イチは棚の上から店内を見渡し、ジルはカーテンの陰からそっと顔を出している。

 ロンは入口でのびをしてから、また丸くなった。


 カウンターではサトルがコーヒーを淹れている。

 みどりはカップを並べながら、外をちらりと見た。


「そろそろ来ますかね。」


「誰がだ。」


「運命の糸の人です。」


「一週間だな。」


「どんな未来だったんでしょう。」


「見た本人しか分からない。」


「気になります。」


「来れば分かる。」


 その時、ドアベルが鳴った。


 カラン。


 入ってきたのは、あの女性だった。

 前回よりも落ち着いた顔をしているが、どこか吹っ切れたような表情も混じっている。


「いらっしゃいませ。」


「こんにちは。」


 女性はゆっくり席へ向かう。


 チビが迷いなく膝に飛び乗った。


「やっぱり来ましたね。」


「覚えられてる。」


「この子、すごいですね。」


「営業担当だ。」


 トラも足元に来てゴロンと転がる。

 きなは一瞬だけ目を開けて、また寝る。

 ジルは少し距離を取りながら様子を見る。


 サトルがコーヒーを置いた。


「どうだった。」


 女性はバッグから糸巻きを取り出した。


「見えました。」


「運命の糸か。」


「はい。」


 みどりが少し身を乗り出す。


「どんな感じでした?」


 女性は少し考えてから口を開く。


「二つ見えました。」


「二つ?」


「はい。」


「結婚した未来と。」


「しなかった未来です。」


 サトルは静かに頷く。


「それで。」


「どっちも幸せでした。」


 みどりが驚く。


「え?」


「そうなんです。」


「結婚したら、穏やかな生活で。」


「安心できる毎日でした。」


「結婚しなかったら?」


「自由で、好きなことをしてました。」


「どっちも悪くなかったです。」


 チビが膝の上で丸くなる。

 女性はその背中を撫でながら続ける。


「でも。」


「違いが一つありました。」


「何だ。」


「自分の顔です。」


「顔?」


「はい。」


「結婚した未来の私は。」


「少し疲れてたけど、穏やかでした。」


「結婚しなかった未来は?」


「楽しそうでした。」


「でも。」


「少し寂しそうでした。」


 サトルはコーヒーを一口飲む。


「どっちも正解だな。」


「そう思います。」


「だから迷いました。」


 その時、ジルがそっと近づいてきた。

 そして女性の膝の端にちょこんと乗る。


「お。」


「ジルが乗りました。」


「珍しい。」


 女性は優しく撫でる。


「この子、あったかい……」


「臆病だがな。」


「でも寄ってくる。」


「信頼できる相手にはな。」


 女性は少し目を閉じた。


「決めました。」


「どっちにする。」


「結婚します。」


 みどりが笑顔になる。


「決めたんですね。」


「はい。」


「ドキドキは少ないです。」


「でも。」


「一緒にいて安心できる方を選びました。」


「いい判断だ。」


「それに。」


「それに?」


「楽しさは作れる気がしたんです。」


「穏やかさは作れない。」


 サトルは静かに頷く。


「分かってるな。」


「未来を見たからです。」


「見なくても分かってたはずだ。」


「そうかもしれません。」


 女性は少し笑った。


「背中を押してもらいました。」


「それが道具の役目だ。」


 女性は糸巻きをテーブルに置いた。


「ありがとうございました。」


「もういいのか。」


「はい。」


「十分です。」


 トラが「にゃ」と鳴く。

 ロンが尻尾を振る。


 女性は立ち上がった。


「また来ます。」


「報告も。」


「結婚式のですか。」


「それもだ。」


「楽しみにしてます。」


「猫たちにもありがとう。」


 チビが名残惜しそうに降りる。

 ジルも静かに離れる。


 ドアベルが鳴る。


 カラン。


 女性は外へ出ていった。


 みどりがサトルを見る。


「いい話でしたね。」


「そうだな。」


「運命って面白いです。」


「決めるのは本人だ。」


「でも見えたら楽ですね。」


「見えなくても同じだ。」


「そうなんですか。」


「大体、選んだ方が正解になる。」


「それ深いですね。」


 イチが棚の上から「にゃ」と鳴いた。


 店内には再び穏やかな時間が流れる。

 猫たちはそれぞれの場所でくつろぎ、

 コーヒーの香りがゆっくりと広がっていた。


 今日もまた、森のカフェしっぽっぽには、

 誰かの選択と、小さな決意が静かに積み重なっていくのだった。

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