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森のカフェしっぽっぽ  作者: 森のカフェしっぽっぽ


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第47話 運命の糸

 午後の森のカフェしっぽっぽは、やわらかな陽だまりに包まれていた。

 窓際には春の光が差し込み、店内にはコーヒーの香りと、どこか安心する空気が漂っている。


 トラは床で大の字になって寝転がり、チビはそのお腹の上で遊んでいる。

 きなはソファで完全に沈黙し、もはやクッションと一体化していた。

 イチは棚の上から店内を見渡し、ジルはカーテンの陰から慎重に顔を出している。

 ロンは入口の前で番犬とは思えない寝相を披露していた。


 カウンターの中ではサトルがコーヒーを淹れている。

 みどりはカップを並べながら、ふと口を開いた。


「最近、ちょっといい話が続いてますね。」


「そうか。」


「遺産の話も、未来の手紙も、記憶の鍵も。」


「たまたまだ。」


「でも、来る人みんな少し軽くなって帰ってます。」


「猫がいるからな。」


「それだけですか。」


「それが全部だ。」


 みどりは苦笑した。


「サトルさん、ほんとブレませんね。」


「ブレると猫に怒られる。」


「トラがですか。」


「全員だ。」


 その時、ドアベルが鳴った。


 カラン。


 入ってきたのは、三十代くらいの女性だった。

 どこか焦った様子で、店内を見回している。


「いらっしゃいませ。」


「こんにちは。」


 女性は少し早足で席に座った。


 チビがすぐに膝に飛び乗る。


「わっ。」


「いきなり来ました。」


「びっくりした……でも可愛い。」


 トラも足元に来てゴロンと寝転がる。

 きなは一瞬目を開けてまた寝る。

 ジルは遠くから様子を見ている。


 サトルがコーヒーを置いた。


「どうぞ。」


「ありがとうございます。」


 女性はカップを持ちながら、少し迷うように口を開いた。


「相談、いいですか。」


「雑談くらいなら。」


 女性は深く息を吐いた。


「結婚するか迷ってます。」


「ほう。」


「相手はいい人なんです。」


「優しいし、安定してるし。」


「でも?」


「この人でいいのか分からなくて。」


 みどりが静かに頷く。


「よくある悩みです。」


「でも、決めないといけない気がして。」


「時間的にですか。」


「はい。」


 チビが膝の上で丸くなる。

 女性はその背中を撫でながら話す。


「好きかどうかも分からなくなってきて。」


「一緒にいて楽なんですけど。」


「ドキドキはしなくて。」


 サトルは少し考えた。


「ドキドキは消える。」


「え。」


「長く続けばな。」


「そうなんですか。」


「だが。」


「だが?」


「選ぶ理由にはなる。」


 女性は少し黙った。


「……難しいですね。」


「だから悩む。」


 サトルはカウンターへ戻り、小さな糸巻きを持ってきた。


「これを使うか。」


「これは?」


「運命の糸だ。」


「運命?」


「相手との未来の繋がりが見える。」


 女性は目を丸くする。


「そんなものがあるんですか。」


「ある。」


「ただし。」


「ただし?」


「良い未来も悪い未来も見える。」


「選択次第で変わるからな。」


 女性は糸巻きを見つめる。


「怖いですね。」


「そうだな。」


「でも……知りたいです。」


「なら使え。」


 ジルがそっと近づいてきた。

 そして女性の膝の端にちょこんと乗る。


「えっ。」


「ジルが乗りました。」


「珍しい。」


 女性は驚きながら撫でる。


「この子、あったかい……」


「臆病だがな。」


「でも来てくれる。」


「それが答えのヒントだ。」


 女性は少し考えた後、糸巻きを手に取った。


「使ってみます。」


「一週間だ。」


「その間に見える。」


「分かりました。」


 女性は立ち上がる。


「ありがとうございます。」


「また来ます。」


「結果を聞かせてくれ。」


「はい。」


「猫たちにもありがとう。」


 チビが名残惜しそうに降りる。

 ジルも静かに離れる。

 トラが「にゃ」と鳴いた。


 ドアベルが鳴る。


 カラン。


 女性は外へ出ていった。


 みどりがサトルを見る。


「運命の糸ですか。」


「たまに役に立つ。」


「どんな未来が見えるんでしょう。」


「人それぞれだ。」


「いい未来だといいですね。」


「いいか悪いかは本人次第だ。」


「またそれですか。」


「大体そうだ。」


 イチが棚の上から「にゃ」と鳴いた。


 店内には再び穏やかな時間が流れる。

 猫たちはそれぞれの場所でくつろぎ、

 コーヒーの香りがゆっくりと広がっていた。


 一週間後――

 あの女性がどんな未来を見て、どんな決断をするのか。


 それはまだ、誰にも分からなかった。

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