第44話 未来の答え
午後の**森のカフェしっぽっぽ**には、穏やかな日差しが差し込んでいた。
外では風がやわらかく木々を揺らし、店内にはコーヒーの香りが静かに広がっている。
トラは窓際で気持ちよさそうに伸びている。
チビはテーブルの脚をよじ登っては落ちる遊びを繰り返している。
きなはソファの上で完全に溶けていた。
イチは棚の上から店内を見渡し、ジルはカーテンの陰から慎重に顔を出している。
ロンは入口の前でのびをしてから、また丸くなった。
カウンターではサトルがコーヒーを淹れている。
みどりはカップを拭きながら話しかけた。
「そろそろ来ますかね。」
「誰がだ。」
「未来の手紙の人です。」
「一週間だな。」
「どんな顔で来るんでしょう。」
「それは来てからだ。」
その時、ドアベルが鳴った。
カラン。
入ってきたのは、あの若い男性だった。
一週間前よりも、少しだけ落ち着いた表情をしている。
「いらっしゃいませ。」
「こんにちは。」
男性は席へ向かう。
チビが迷いなく膝に飛び乗った。
「やっぱり来ましたね。」
「チビは覚えてる。」
「すごいですね。」
トラも足元に来てゴロンと転がる。
きなはちらっと見てまた寝る。
ジルは少し距離を取りながら様子を見る。
サトルがコーヒーを置いた。
「どうだった。」
男性はバッグから一通の封筒を取り出した。
「開けました。」
「未来の手紙か。」
「はい。」
みどりが身を乗り出す。
「何が書いてあったんですか。」
男性は少し笑った。
「正直、期待してたんです。」
「未来の答えが書いてあるって。」
「だが違ったか。」
「全然違いました。」
「何て書いてあった。」
男性は封筒の中の紙を見ながらゆっくり言う。
『まだ迷ってる。』
『でも前より怖くない。』
『少しだけ動いた。』
『それでいい気がする。』
「それだけでした。」
みどりが少し驚く。
「シンプルですね。」
「答えじゃないな。」
「はい。」
「でも。」
「妙に納得しました。」
チビが膝の上で丸くなる。
男性はその背中を撫でながら続ける。
「結局、未来も迷ってるんだなって。」
「当たり前だ。」
「人間だからな。」
「ですよね。」
「でも。」
「“動いた”って書いてあって。」
「それが一番引っかかりました。」
サトルは静かに頷く。
「それで動いたか。」
「はい。」
「何をした。」
「小さいことです。」
「仕事で一つ、新しい提案をしました。」
「ほう。」
「今までやらなかったやつです。」
「結果は?」
「まだ出てません。」
「でも。」
「やってよかったです。」
みどりが微笑む。
「前進ですね。」
「そう思います。」
その時、ジルがそっと近づいてきた。
そして男性の膝の端に乗る。
「お。」
「ジルが乗りました。」
「珍しい。」
男性は優しく撫でる。
「この子、やっぱり落ち着きますね。」
「臆病だがな。」
「でも来る。」
「安心できる相手にはな。」
男性は少し考えた。
「未来は分からないです。」
「そうだな。」
「でも。」
「少しだけ進めばいいんだって思えました。」
「それで十分だ。」
男性は手紙を見つめる。
「これ、捨てられないですね。」
「好きにしろ。」
「ただの紙だ。」
「でも大事な紙です。」
トラが「にゃ」と鳴く。
ロンが尻尾を振る。
男性は立ち上がった。
「ありがとうございました。」
「また来ます。」
「いつでもどうぞ。」
「猫たちにもありがとう。」
チビが名残惜しそうに降りる。
ジルも静かに離れる。
ドアベルが鳴る。
カラン。
男性は外へ出ていった。
みどりがサトルを見る。
「いい結果でしたね。」
「そうだな。」
「未来の手紙、すごいです。」
「大したことは書いてない。」
「でも響いてました。」
「それでいい。」
「猫と同じですね。」
「猫はもっとすごい。」
「そこ譲らないですね。」
イチが棚の上から「にゃ」と鳴いた。
店内にはまた静かな時間が流れる。
猫たちはそれぞれの場所でくつろぎ、
コーヒーの香りがゆっくりと広がっていた。
今日もまた、**森のカフェしっぽっぽ**には、誰かの迷いと、小さな一歩が生まれていた。




