第43話 未来の手紙
午後の**森のカフェしっぽっぽ**には、やわらかな日差しが差し込んでいた。
雨が上がった後の澄んだ空気が、店内を少しだけ明るくしている。
トラは窓際でのびをしている。
チビはテーブルの上に乗ろうとしてみどりに止められている。
きなはソファの上で完全に寝落ちしていた。
イチは棚の上から外を眺め、ジルはカーテンの陰から半分だけ顔を出している。
ロンは入口であくびをしてから、再び丸くなった。
カウンターではサトルがコーヒーを淹れている。
みどりは窓の外を見ながら話しかけた。
「最近、相談のお客さん多いですね。」
「そういう店だからな。」
「猫カフェですよね。」
「一応な。」
「相談所みたいになってます。」
「猫が本体だ。」
「そこは変わらないんですね。」
その時、ドアベルが鳴った。
カラン。
入ってきたのは、少し疲れた様子の若い男性だった。
二十代半ばくらいだろうか。
「いらっしゃいませ。」
「こんにちは。」
男性は静かに席に座る。
チビがすぐに膝に乗った。
「お。」
「また即乗りです。」
「この子、すごいですね。」
「仕事だからな。」
トラも足元に来てゴロンと転がる。
きなは動かない。
ジルは遠くから様子見。
ロンは一瞬だけ顔を上げてまた寝る。
サトルがコーヒーを置いた。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
男性はカップを持ったまま、しばらく黙っていた。
そして小さく口を開く。
「相談……いいですか。」
「雑談くらいなら。」
男性は少し苦笑した。
「将来が不安で。」
「仕事はしてるんですが。」
「このままでいいのか分からなくて。」
みどりが静かに頷く。
「よくある悩みです。」
「でも答えがないです。」
「そうだな。」
チビが膝の上で丸くなる。
男性はその背中を撫でながら話す。
「転職するべきか。」
「続けるべきか。」
「何をしたいのかも分からないんです。」
サトルは少し考えた。
「未来は分からない。」
「ですよね。」
「だが。」
「だが?」
「少しだけ覗く方法はある。」
みどりが笑う。
「また出ましたね。」
「地下の品だ。」
サトルはカウンターの下から、小さな封筒を取り出した。
「これは?」
「未来の自分からの手紙だ。」
「え?」
男性は目を丸くする。
「そんなものが。」
「一週間後の自分が書いた手紙が届く。」
「内容は分からない。」
「ただ。」
「その時の本音が書かれている。」
男性は封筒を見つめる。
「未来が変わったら?」
「手紙も変わる。」
「一度きりだ。」
「……すごいですね。」
「便利そうで不便だ。」
「答えは書いてないからな。」
男性は少し笑った。
「でもヒントにはなりそうです。」
「そういう物だ。」
ジルがそっと近づいてきた。
そして男性の膝の端にちょこんと乗る。
「お。」
「ジルが乗りました。」
「珍しい。」
男性は優しく撫でる。
「この子、やっぱり優しいですね。」
「臆病だがな。」
「でも逃げない。」
「それが強さだ。」
男性は封筒を手に取る。
「使ってみます。」
「一週間後にまた来い。」
「結果を聞く。」
「はい。」
男性は立ち上がる。
「ありがとうございます。」
「また来ます。」
「猫たちにもありがとう。」
チビが名残惜しそうに降りる。
ジルもゆっくり離れる。
トラが「にゃ」と鳴いた。
ドアベルが鳴る。
カラン。
男性は外へ出ていった。
みどりがサトルを見る。
「未来の手紙ですか。」
「たまに仕入れる。」
「どんな内容なんでしょう。」
「開けるまで分からない。」
「怖いですね。」
「だからいい。」
イチが棚の上から「にゃ」と鳴いた。
店内には再び静かな時間が流れる。
猫たちはそれぞれの場所でくつろぎ、
コーヒーの香りがゆっくりと広がっていた。
一週間後――
あの男性がどんな顔で戻ってくるのか。
それはまだ、誰にも分からない。




