表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森のカフェしっぽっぽ  作者: 森のカフェしっぽっぽ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/68

第39話 鈴の余韻

 午後の**森のカフェしっぽっぽ**には、静かな時間が流れていた。

 窓の外ではやわらかな春の風が木々を揺らしている。


 店内では猫たちが思い思いに過ごしていた。


 トラは床の真ん中で大の字になって寝ている。

 チビはテーブルの脚をよじ登り、途中で落ちてまた登るという謎の遊びを繰り返していた。

 きなはソファの上で丸くなり、尻尾だけゆっくり揺れている。

 イチは棚の上から店内を見渡している。

 ジルはカーテンの陰に隠れているが、今日は少し顔を出していた。

 ロンは入口の前でのびをしてから、また寝転がる。


 カウンターの中ではサトルがコーヒー豆を挽いていた。

 みどりはカップを並べながら話しかける。


「この前のお婆さん、良い結果になりましたね。」


「鈴の人か。」


「はい。」


「息子さん二人とも優しかったですね。」


「本音ってのは案外そんなもんだ。」


「でも聞ける機会ってないですよね。」


「だから悩む。」


 みどりは少し笑った。


「サトルさん、あの鈴どこで仕入れたんですか?」


「地下だ。」


「異世界ですね。」


「そうだ。」


 地下倉庫の奥には、小さな扉がある。

 そこを抜けると異世界の市場へつながっている。


 もちろん行き来できるのは**サトルだけ**。


 その市場には様々な種族がいる。


 森猫族(フォレストキャット)

 魔導士族(メイジ)

 蜥蜴人族(リザードマン)

 鉱人族(ドワーフ)


 彼らが作る品を、サトルは地球へ持ち帰り、必要な人に渡している。


 その時、ドアベルが鳴った。


 カラン。


 若い女性が入ってきた。

 二十代後半くらいだろうか。


「いらっしゃいませ。」


 みどりが声をかける。


「こんにちは。」


 女性は少し緊張した様子で店内を見回した。


「ここ……猫カフェですよね。」


「そうです。」


「どうぞ。」


 席に案内されると、チビがすぐに膝に乗る。


「わっ。」


「いきなり乗りました。」


「人懐こい子なんです。」


「かわいい。」


 女性は少し笑った。


 トラも足元にやってくる。

 きなは椅子の横に座る。

 ジルは遠くから様子を見ている。


 サトルがコーヒーを持ってくる。


「どうぞ。」


「ありがとうございます。」


 女性はカップを持ったまま、少し迷うような顔をした。


「実は……」


「相談できますか。」


「まあ雑談くらいなら。」


 女性は深く息を吐いた。


「人の本音って……分からないですよね。」


「そうだな。」


「友達と喧嘩してしまって。」


「何が原因だ。」


「小さなことです。」


「でも今は話してくれません。」


 チビが膝の上で丸くなる。


 女性は少し撫でながら言った。


「この子、あったかいですね。」


「それが仕事だからな。」


 みどりが少し笑う。


「猫は名カウンセラーです。」


「そうかもしれません。」


 女性は少し落ち着いた様子だった。


「この前、ここで不思議な道具を使った人がいるって聞きました。」


「鈴のことか。」


「はい。」


「もうないんですか。」


 サトルは少し考えた。


「鈴はもうただの鈴だ。」


「一週間で力は消える。」


「そうなんですね。」


「だが。」


「だが?」


「似たような物ならある。」


 みどりが目を丸くする。


「また出てきましたね。」


「地下の品だ。」


 サトルはカウンターの下から、小さな袋を取り出した。


「これは?」


「心の声じゃない。」


「本当の気持ちを引き出すお茶だ。」


 女性は驚く。


「そんなのあるんですか。」


「ある。」


「ただし。」


「ただし?」


「飲んだ本人も本音を言う。」


 女性は少し笑った。


「それはちょっと怖いですね。」


「本音は大体怖い。」


「でも知りたいなら使えばいい。」


 ジルがそっと近づいてきた。

 そして女性の膝の端にちょこんと乗る。


「えっ。」


「ジルが乗りました。」


「珍しい。」


 女性は驚きながら撫でる。


「この子、臆病なんですね。」


「そうだ。」


「でも優しい人には来る。」


 女性は少し考えた。


「じゃあ……」


「使ってみます。」


「友達と仲直りできるなら。」


 サトルは袋を渡した。


「一回分だ。」


「ありがとうございます。」


 女性は袋を大事そうにバッグへ入れた。


「結果、報告します。」


「いつでも来い。」


 女性は立ち上がる。


「猫たちにもありがとう。」


 トラが「にゃ」と鳴く。

 ロンが尻尾を振る。


 ドアベルが鳴った。


 カラン。


 女性は外へ出ていった。


 みどりがサトルを見る。


「また相談ですね。」


「そうだな。」


「不思議な店ですね。」


「猫カフェだからな。」


「あと異世界貿易。」


「それは秘密だ。」


 イチが棚の上から「にゃ」と鳴いた。


 今日もまた、**森のカフェしっぽっぽ**には、

 誰かの悩みがふらりと訪れ、

 そして少し軽くなって帰っていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ