第36話 再来の報告
午後の**森のカフェしっぽっぽ**は、ゆったりとした空気に包まれていた。
窓から差し込む光の中で、猫たちが思い思いに過ごしている。
トラは床でゴロンと腹を出し、チビはテーブルの脚によじ登って遊んでいる。
きなはソファの上で丸くなり、イチは棚の上から店内を見渡す王様ポジション。
ジルはカーテンの陰から顔だけ出して、周囲を警戒していた。
ロンは入口の近くでのんびり昼寝をしている。
カウンターの中ではサトルがコーヒーを淹れていた。
みどりはカップを並べながら、店内を見回す。
「今日は静かですね。」
「平日の午後だからな。」
「最近は動画を見て来るお客さんも多いです。」
「光る毛玉のせいだな。」
「トラとチビが大暴走した動画ですね。」
「ロンも映ってた。」
「バッグに頭を突っ込んでました。」
「本人は真面目に番犬してるつもりだろう。」
「そうですね。」
その時、ドアベルが鳴った。
カラン。
入口に立っていたのは、以前この店で相談をしていった男性だった。
前より少し表情が明るい。
「いらっしゃいませ。」
みどりが声をかける。
「こんにちは。」
男性は少し照れながら店内を見回した。
「ああ、この前の人だな。」
「覚えてくれてましたか。」
「猫に膝を独占されてた人は覚えてる。」
「それチビですね。」
その瞬間、チビが男性を見つけた。
そして迷いなく突撃。
「うわっ。」
男性の膝に飛び乗る。
「覚えられてる。」
「チビは常連を覚える。」
「そうなんですか。」
男性は苦笑しながらチビを撫でた。
トラも近づいてくる。
きなは足元に座る。
ジルは少し離れて様子を見る。
みどりが席へ案内する。
「お飲み物どうします?」
「コーヒーお願いします。」
「かしこまりました。」
サトルがコーヒーを淹れる。
香りが店内に広がる。
男性は少し緊張した様子で口を開いた。
「今日は報告に来ました。」
「ほう。」
「この前、相談した仕事の件です。」
サトルはカップを置く。
「転職の話か。」
「はい。」
男性はコーヒーを一口飲んだ。
「転職活動、始めました。」
「そうか。」
「まだ決まってませんけど。」
「それでいい。」
「辞めるか迷ってた時より気持ちは楽です。」
「動いたからだな。」
チビが膝の上で丸くなる。
トラはテーブルに乗る。
イチが棚の上から「にゃ」と鳴いた。
男性が少し笑う。
「ここ来た後、家で考えたんです。」
「うん。」
「すぐ辞めるんじゃなくて、先に次を探そうって。」
「無難な判断だ。」
「履歴書も書きました。」
「進んでるじゃないか。」
「実は今日、面接帰りなんです。」
「ほう。」
「緊張しました。」
「猫より怖いか。」
「猫の方が優しいです。」
「それは間違いない。」
みどりが笑う。
「結果はどうでした?」
「まだわかりません。」
「そうですよね。」
「でも前より気持ちは軽いです。」
「それはいい。」
その時、ジルがそっと近づいてきた。
そして男性の膝の端にちょこんと乗る。
「お。」
「ジルが乗りました。」
「珍しい。」
男性は驚きながら撫でる。
「この子、前も乗ってくれましたね。」
「ジルは臆病だ。」
「でも優しい人はわかる。」
ジルが小さく鳴いた。
「にゃ。」
男性は少し笑う。
「実はもう一つ変わったことがあります。」
「なんだ。」
「前よりちゃんと寝れるようになりました。」
「それは大事だ。」
「香り袋、まだ使ってます。」
サトルは少し笑う。
「役に立ったか。」
「すごく。」
「それは良かった。」
店内は静かだった。
猫たちはのんびり過ごしている。
男性はコーヒーを飲み終え、立ち上がる。
「また結果報告に来ます。」
「いつでもどうぞ。」
「ここ落ち着くんです。」
「猫のおかげだ。」
「そうですね。」
男性はドアの前で振り返る。
「ありがとうございました。」
「また来い。」
ドアベルが鳴る。
カラン。
男性は外へ出ていった。
みどりがサトルを見る。
「少し元気になってましたね。」
「そうだな。」
「猫の力です。」
「あとコーヒー。」
「あとサトルさん。」
「それは違う。」
トラが「にゃ」と鳴く。
ロンがのびをする。
ジルはカーテンの陰に戻る。
イチは棚の上から店内を見渡す。
今日もまた、**森のカフェしっぽっぽ**には、
少しだけ前を向いた人の時間が流れていた。




