表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森のカフェしっぽっぽ  作者: 森のカフェしっぽっぽ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/68

第35話 久々の相談

 週末の午後。

 **森のカフェしっぽっぽ**は、いつものように猫たちののんびりした空気に包まれていた。


 トラは床で腹を出して転がり、チビはテーブルの脚にしがみついてぶら下がっている。

 きなはソファで丸まり、イチは棚の上で店内を見守る王様ポジション。

 ジルはカーテンの陰から顔だけ出して、周囲を警戒していた。

 ロンは入口で昼寝中だ。


 カウンターの中では、サトルがコーヒーを淹れている。

 みどりがテーブルを拭きながら言った。


 「今日は落ち着いてますねぇ」


 「まあ、たまにはこういう日もいいさ」


 サトルは静かに笑う。


 最近は異世界の品がバズって客が増えていた。

 光る毛玉。

 魔法ランプ。

 猫用干し魚。


 どれも地下の倉庫を通して、異世界から仕入れたものだ。


 ただし――

 異世界へ行き来できるのは**サトルだけ**。


 地下倉庫の奥には、小さな扉がある。

 その先が、異世界の市場だ。


 そこでは、森猫族(フォレストキャット)魔導士族(メイジ)蜥蜴人族(リザードマン)鉱人族(ドワーフ)たちが商売をしている。


 だが、その話は今は置いておこう。


 午後三時。

 ドアベルが鳴った。


 「いらっしゃいませー」


 みどりが声をかける。


 入ってきたのは、三十代くらいの男性だった。

 スーツ姿だが、ネクタイは緩み、どこか疲れた顔をしている。


 男は店内を見回した。


 「ここ……猫カフェですよね」


 「はい。どうぞ」


 みどりが席に案内する。


 男が座ると、すぐにチビが膝に飛び乗った。


 「うおっ」


 男が驚く。


 みどりが笑った。


 「チビは接客担当なんです」


 「そうなんですか……」


 男は少し戸惑いながらも、チビの頭を撫でる。


 トラも寄ってきた。

 ロンも匂いを嗅ぎに来る。


 しばらくして、男はぽつりと言った。


 「……ここ、相談とかできるって聞いたんですが」


 サトルがコーヒーを持ってきた。


 「まあ、雑談くらいならな」


 「ありがとうございます」


 男はコーヒーを一口飲んだ。


 そして深く息を吐く。


 「仕事、辞めようか迷ってるんです」


 みどりが少し驚く。


 「そうなんですか」


 「会社がブラックで……毎日終電です」


 チビが男の膝の上で丸くなる。


 トラはテーブルの上でゴロン。


 きなはゆっくり近づき、男の足元で座った。


 男は苦笑した。


 「猫に囲まれて相談って、初めてです」


 サトルは椅子に座る。


 「別に答えを出す店じゃない」


 「……え?」


 「話してるうちに、自分で決めるもんだ」


 男は黙る。


 イチが棚の上から「にゃ」と鳴いた。


 ジルはカーテンから顔を出し、少しだけ近づく。


 男が言った。


 「でも……辞めたら生活できないし」


 「ほう」


 「続けても、体が持たない気がして」


 サトルは少し考えた。


 そして言った。


 「一つ試してみるか」


 「試す?」


 サトルはカウンターに戻り、小さな袋を持ってきた。


 中には香り袋が入っている。


 異世界の品だ。


 「これは?」


 「気分を落ち着かせる香りだ」


 「アロマですか?」


 「まあそんなもんだ」


 本当は、森猫族(フォレストキャット)の市場で仕入れた“心落ち着く香り袋”なのだが、そこまで説明すると話がややこしい。


 男が袋を開ける。


 ふわっと、森のような香りが広がった。


 男の肩が少し下がる。


 「……いい匂いですね」


 「だろ」


 その時。


 ジルがそっと男の膝に乗った。


 「え?」


 みどりが小声で言う。


 「ジルが乗るの珍しいんですよ」


 ジルは臆病猫だ。

 知らない人には近づかない。


 男は驚きながら撫でた。


 「……かわいい」


 しばらく沈黙が流れる。


 猫たちが静かに寄り添う。


 男はゆっくり言った。


 「……もう少し考えてみます」


 「それでいい」


 「いきなり辞めるんじゃなくて、転職先探してから」


 サトルは頷く。


 「それが無難だな」


 男は笑った。


 「久々に、まともに話した気がします」


 チビが「にゃ」と鳴く。


 トラはテーブルで伸びをする。


 きなは足元で寝始めた。


 男は立ち上がる。


 「また来ます」


 「いつでもどうぞ」


 男は香り袋を買って帰っていった。


 ドアベルが鳴る。


 みどりが言った。


 「久々でしたね、お悩み相談」


 「そうだな」


 サトルはコーヒーを飲む。


 地下倉庫の扉の向こうでは、異世界の商人たちが今日の仕入れを待っている。


 森猫族(フォレストキャット)

 魔導士族(メイジ)

 蜥蜴人族(リザードマン)

 鉱人族(ドワーフ)


 だが地上では、今日も猫カフェの時間がゆっくり流れていた。


 サトルは猫たちを見てつぶやく。


 「お前らの接客の方が、よっぽど効くな」


 イチが棚の上から一言。


 「にゃ」


 こうして**森のカフェしっぽっぽ**は、久しぶりのお悩み相談を終え、静かな午後を迎えるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ