第2話:逃亡者の光
火星消滅という未曾有の惨劇を経て、辛うじて生き残ったカイとメモリア。
本来であれば救国の英雄として迎えられるはずの帰還。しかし、月面基地「ムーンフェイズ」に降り立ったカイを待っていたのは、安らぎではなく、鉄の匂いと冷徹な銃口。
国家という巨大な歯車にとって、少女の心を持つ兵器は「英雄」か、それとも単なる「道具」か。
今、カイとユナの絆を試す、最も孤独な戦いが幕を開ける。
火星消滅から一週間後。
大破した『メモリア』と共に
地球連連合軍・月面基地「ムーンフェイズ」に帰還。カイ=タチバナを待っていたのは、鳴り止まない喝采ではなく、冷たい銃口だった。
英雄の監禁
「カイ=タチバナ中尉。軍機密横領および、
敵前逃亡の疑いで拘束する!」
基地のドックに降り立ったカイに、憲兵隊が群がる。彼らの狙いはカイではない。背後で静かに脈動を続ける『メモリア』、そしてその核である
「ライブ・コア」だ。
「……ユナを、どうするつもりだ」
カイの前に、一人の男が歩み寄る。連合特別宇宙軍の月面基地指揮官、ミナゴ司令官だ。彼は表情ひとつ変えず、冷徹な瞳でメモリアを見上げた。
「タチバナ中尉。貴様が『ユナ』と呼ぶものは星間戦争で回収されたデブリの一部に過ぎん。国家の資産を私物化した罪は重い。連行しろ」
バッハ艦長のような現場の熱さすら持たない、計算機のような男。司令官はカイから「彼女」を
奪い独房へと追い詰めた。
暗い独房、水滴が落ちる音が響いてる。
冷たいコンクリートの壁越しに、カイは必死に耳を澄ませた。
いつもなら背中に感じていたユナの鼓動が
今は遠い。ミナゴの指示で解体・解析に回された彼女の悲鳴が、共鳴を通じて伝わってくる。
「……カイ……くん……痛いよ……見られたくない……怖い……」
脳内に直接響く、ユナの泣き声。
その瞬間、少年の瞳に宿っていた「兵士」としての光が消え、一人の「男」としての炎が灯った。
「ふざけるな……。あんなに戦わせて、
まだ彼女を道具にするつもりか!」
その時、独房の電子ロックが内部から爆発するように弾け飛んだ。基地のメインフレームに干渉したメモリア――ユナが、主を救うために無意識に、ハッキングを仕掛けたのだ。
その隙に、留置所から脱走成功。
カイは、警備兵の銃撃網を切り抜け、ドックに続く階段を登った。
そこでは、ミナゴ司令が立ち会い、メモリアのコアを摘出しようとしていた。
「それに触るな!」「クソ野郎!」
カイが叫ぶと同時に、メモリアの装甲が意志を持つように展開。薄い反射板が発生し、弾かれる。
ミナゴ司令は、吹っ飛んだ。
その隙に、ユナの意志で開くハッチからコクピットに飛び込んだカイは、迷わず機体を再起動させる。
「連合……俺はあんたたちを見限った。無謀な作戦 の数々、多くの兵士の生命をなんだと思ってるんだ!今日から俺は、この子を守るためだけの敵だ!」
「愚かな。貴様一人で、この強大な戦力から抗えるとでも思うのか」
ミナゴの冷ややかな言葉を背に、月面基地の出口
シャッターの内側を強引に破壊した。
メモリアはスラスターを噴射し
月面の荒野へと躍り出た。
背後からはミナゴが放った追撃隊が迫るが
ユナの鼓動と重なったメモリアの機動は超高速に、連合の量産機では追い付かず
光の彼方に消えていった。
こうして、月面の光に消えゆくメモリア、2人の反抗戦線の旅は始まった。
第3話 逃亡者の光
ー完ー
第3話「逃亡者の光」をご愛読いただきありがとうございました。
これまでは「人類のために戦う」という大義名分がありましたが、今回、カイは自らの意志でその肩書きを捨て、「一人の少女を守るための逃亡者」となる道を選びました。
軍の象徴であるミナゴ司令との対立は、今後の物語に暗い影を落とすことになります。
さあ、今後の2人の展開は!乞うご期待!




