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恋理さんは倫理観がおかしい

 「悲愛(かなえ)、グッドタイミング。ねえこれ見てよ」

 山が逆さまになっていて、黄色の空から木が生えている世界で私は恋理(れんり)と再開した。恋理が作った新しい次元移動装置を(あい)から借りたのだ。新しい装置はリストバンドになっていた。何で?と思ったら可愛いからだってと言われた。そんな装置に可愛さを求めないで欲しい。

恋理は背こそ高くなっていたけど顔は私の思い出の中そのままだった。

 恋理はまるでこの二年間なんて無かったみたいに、休憩時間に戻って来た友達に話し掛けるみたいな気楽さで話し掛けてくる。それだけでやっぱり恋理は恋理なんだってわかる。

「久しぶり。変わらないね」

「久しぶり?あ、そっか確かに。4年くらいかな?」

「2年だよ」

「そんな短かったけ?まあいいや。これ見てよ。ついさっき出来たんだよ」

 全然良くないけれど、恋理にとっては時間なんて大した価値はない。いつもなら少し困りながら怒るけれど、今はやっぱり恋理は恋理だって懐かしい。これが恋理だし、しょうがないなって思ってしまう。

 恋理が指さしたものはどう見てもただの指輪だった。

「それで何作ったの?」

「ワープマシン」

 さらっととんでもない事を言う。流石恋理。

「これがあれば移動時間のロスがなくなるから」

「確かに便利だね」

「異世界にも自由に行き来出来るようになるしね」

「…そのワープマシンってそんな事出来るの?」

「っていうかそれが目的で作った奴だし。普通のワープマシンならとっくに出来ているし。というかこれが前作っていた異世界の扉(ゲート)の完成版。いま悲愛が付けている奴は数回しか使えないんだよね。これは無制限で使えて劣化もしない。作るのに2年も掛かっちゃった」

 いやたった2年でそんなヤバイ物作んないでよ。

「凄いね。でもそれさ、使い方によっては世界への影響が凄い事になるよね」

「そんな事気にしなくていいよ」

「ダメだよ。沢山の人に、迷惑が掛かるし、最悪世界が滅びる可能性があるよね?」

「そしたら世界を捨てればいいじゃん。異世界に行けるんだし。私たちの世界よりもいい世界は沢山あったよ。技術が進んでいる世界、魔法が使える世界、同性同士で子供を作れる世界」 

 流石恋理。発想も凄いし、解決策も凄い。倫理観とか全くない。

「恋理、恋理は何で私の前からいなくなったの?何で私に黙って行ったの?私は自分が恋理を殺したって思っていたんだよ。それで苦しくて、悲しくて、自分を責めて、辛かった」

「そっか。元の世界では作れない物を作るため。ワープマシンとかさ」

「何で死んだことにしたの?」

「他の世界に行くのに失踪だと色々面倒じゃん。あの時私が作った異世界の扉(ゲート)は失敗作だった。異世界へ繋がるのまでにタイムラグが合ったり繋がったり繋がらなかったり。不安定で不完全だった」

「あのリモコンの事だよね」

「そうだよ、糸識(いとしき)が持っている奴回収してくれたんだね。愛から一通り話は聞いたよ。付き合えたって動く嬉しそうにしていた。糸識があの機械盗んでね、私に使ったの。変なボタンなかった?あれを人に向けて押すとその人を異世界に飛ばせるんだよ」

「そんな危険なボタンだったの!そんなの作んないでよ」

「あったら便利じゃん。でも全然コントロール出来なくてね何処に飛ばされるのかわかんないの。その上タイムラグがあってさ。押してから5時間くらいすると飛ばされるの。そして取り消す事は出来ない。まあ元から異世界に行くつもりはあったからいい機会かなって」

「糸識さん恋理を異世界送りにした事は認識していたのにボタンの事何かよくわかんないって言っていたけど」

「ああそれは私がもう使わないように記憶を改ざんしたから。異世界に行くまでの5時間で色々準備したんだよ」

「死体とか?」

「正解。催眠で色々やる事も考えたんだけどさ、死んだ事にした方が楽かなって。後は小色(こいろ)の目をごまかす為でもあるけど。後は悲愛を読んで催眠を渡したり糸識の認識をゆがめたりね」

「もしかしてあの教室に糸識さんも呼び出したの?」

「そうだよ。途中で意識消したけど。なんか覗き見してたから」

 成程。糸識さんが私の目に催眠を入れていたのを見ていた訳がわかった。知っている事が中途半端だった理由も。

「ねえ、何でその時異世界の扉(ゲート)を回収しなかったの?てか糸識さんに色々するなら催眠を使わないようにとか出来なかったの?」

「え?ああ、あれ失敗作だからいらないかなって。まあ確かに認識をいじる事は出来たけどさ、催眠(あれ)は約束で上げた物だから」

「そんなヤバイ状態で愛が好きだからとかそんな話していた訳?もっとする事あったでしょ。糸識さんの事とかさ」

「え?聞かれなかったし」

 知らなかったんだよ!

「それにさ。小色の事なんてどうでもいいじゃん。大切なのは私達の関係でしょ」

 あーこの頭を抱えたくなる感じは流石恋理。いやもう過ぎた事だしせめてもしょうがないんだけどさ。

「私が気絶していたのは何で?」

「え?だって意識あったら催眠の力を目に入れるのは抵抗するでしょ?それに私が消えるとパニックになるだろうし」

「当り前じゃん!なんで勝手にそんな事するの!もっと色々説明してよ!何で私に催眠持たせるのとか糸識さんが催眠持っている事とかさ!」

「催眠を広げておいて欲しかったんだよ。愛は催眠を使えない。私じゃないと色んな物は作れない。小色の事は悲愛の催眠なら上書きできると思っていたし」

「異世界の事説明してくれなかったのは?」

「時間なかったし。悲愛はさ、今の世界が好きでしょ。だから他の世界なんて行きたくないって思っていたんだよ」

「それ説明してよ!私はさ!2人となら行きたかった」

「2人とならって言われても愛が追いかけてきてくれるのは予想外だったし。そもそもあのタイミングで行くつもりなかったし」

「いやそういう事じゃなくてさ」


 責めようとしても言葉が出てこない。恋理は自分勝手で身勝手で私の事を気遣っているつもりで見当違いの事をする。それはわかっている。散々迷惑を掛けられてきた。特に今回は酷い。酷過ぎる。何人も傷ついた。枯花(かれか)みたいに催眠じゃどうしようもない怪我をした人がいる。枯花はまだましな方でもっとひどい目に合った人は沢山いる。道を踏み外してしまった人も。催眠ツールを使った人の殆どはあんなものが無ければただの日常生活を送っていたはずだ。だからキレていい。そう思う。けどそれ以上にまた恋理と会えて良かったって思ってしまう。

「説明したら嫌がるかなって」

「当り前じゃん!」

「私本当に辛かったの。催眠ツール使って好き勝手する奴らの相手をしてさ!わかる!恋理には!わかんないよね。私の辛さなんて」

「あーごめんね。ちゃんと悲愛の催眠は催眠の上からでも掛かるようにするつもりだったんだけど実験とか途中だったからさ。まさか催眠ツールもっているやつは直接対面しないと掛からないなんて」

「そういう事じゃなくてさ」

「それで今タイムマシン作っているの」

「え?」

「過去を変えればいい。過去が変れば未来が変る。つまり世界がわかる。それで悲愛の苦しみが無かった事になる」

「待って、ちょっと待って。それさ、とんでもない事になるよね」

並行世界(パラレルワールド)が出来るだけだよ」

 凄い問題じゃん。

「ダメだよ、絶対ダメ!」

「何で?」

「何でってそんなことしたら全てが滅茶苦茶になる」

「大丈夫だよ。私達が幸せに生きる準備は出来ているから。まず消したい過去を消す。もし失敗しても何回でもやり直せるから大丈夫。次に催眠で全ての人を操って都合のいい世界を作れる。上手く行かないなら世界を変えればいい。そうでしょ」

「ダメ」

「何で?」

「恋理の考える幸せは私達以外の犠牲の上に成り立っているでしょ」

「何が駄目なの?人が生きていく上で多かれ少なかれ人を犠牲にしている」

「程度があるでしょ。恋理のは多すぎる」

「別に良くない?他人だし」

「良くないよ。人には人の人生がある。それを壊す権利は私達にはないよ」

「あるよ。だってそれを実行できる力があるから。防げないのは相手が悪い」

 糸識さんにも似たようなことは言われたけど恋理のはもっとひどい。

「ごめん。恋理の理屈は正しいとは思えない。仮に正しかったとしても認める事は出来ない」

「出来ないってどうするつもり?」

「無理矢理止める」

「出来るの?」

「出来るよ」

「どうやって?」

「催眠で」

「それは無理。その催眠は私が作った物だし。私は催眠を埋め込んではないけど、通じないよ」

「通じるよ。今私が持っている力は恋理から貰った時のままじゃないから」

「どういう事?」

「私はね、恋理みたいに色々作る事は出来ないし、愛みたいに特別な力なんて持っていない普通の人間。恋理には敵わないよ。それなら恋理と愛二人の力を借りればいい。恋理の催眠に愛の力が合わさればどうなるかな」

 これは糸識がやっていた事。天使の力を催眠に取り入れる事が出来るなら愛の神様の力だって催眠と融合させることが出来るはず。愛が2年間の間溜めていた神様の力を目に貰った私は今までとは違う。

「…面白い事考えるね。それは思いつかなかった。じゃあ今悲愛の目には愛の力が宿っているって事?」

「その通り。恋理の催眠に愛の力が融合した究極の催眠。名付けて究極改脳(アルティメットモッド)!」

「もっといい名前なかったの?」

 それは言わないでよ恋理。

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