皆の特別じゃなくて
「悲愛。お願いがあるの。多分嫌な事だと思う。それでも私にとっては大切な事なの」
愛の唇が離れてから少し経って。愛は真剣な目で私を見ながら言葉を紡ぎ始めた。
「断りたいなら断っていい。…先に言っておくね。私は悲愛にこれをしてほしくて付き合った訳じゃない。それでも、えっと」
「大丈夫だよ。そんな事思ってないから。言って。愛の願いを叶えられるかわからないけど」
「今さ悲愛の催眠は世界中の人に掛かっているでしょ?」
「多分そうだけど」
「間違いなくそうだよ。掛かっていない人なんて本当に少しだけだと思うよ」
「まあそれはそうだと思うけれど。それがどうかしたの?」
「私はね。この時を待っていたの。悲愛には世界中の人に催眠掛けて欲しいの」
そういう事を言うのはやめて欲しい。例えそれが悪いと分かっていても断りたくない。
「…どんな催眠を掛けたいの?」
ほら今だって聞いちゃいけないって断らなきゃいけないって思っているのに聞いてしまう。
「私を普通に扱うように催眠を掛けて欲しいの。そうすれば私は特別じゃなくなる。特別でいなくてよくなる。恋理がね、催眠術を作っているって知った時、私に掛けるならそれでもいいと思ったの。悲愛と別れるのは嫌だけど、そこは恋理を説得すればいいって思っていたしね。私に催眠が掛かるなら特別性を消せるかもしれない。私が特別扱いされる事を気にしないように催眠掛けて貰ってもいい。そう思ったの。でも駄目だったの。恋理の実験を見てこの催眠は私には掛からないってわかったの。神だった頃の加護かな。兎に角私には催眠は効かない。でもこの力があればどうにかなりそうなのにって諦められなかった。そこで気がついたの」
この力を使えば普通になれるかもしれない。さっき愛が言っていた言葉が頭の中で蘇る。これでわかった。愛がしたかった事。
「私が変れないなら私以外の全てが変ればいいって」
「それで私を使ったの?」
「そうだね。そういう事になるね。私は悲愛と恋理、後はほんの少しの人達にとって特別でいられればそれでいい。それ以上は要らない。それ以上ではいたくない。だからお願い」
これからしようとしている事はきっと間違っていて、もしかしたら世界に良くない影響があるかもしれない。それでも私は愛の願いを叶えたい。もしも愛の望みを叶えなければまたどこかに行ってしまうかもしれない。それが怖い。そういう思いがあるのは否定しない。でもそれ以上に愛が私にとって特別でいてくれるなら嬉しい。そう思ってしまう。また愛と一緒に居たい。その考えが消えない。
「わかった。でもこれだけ。これ以上は何もしない」
「勿論。それでいいよ」
「これから先、ずっと一緒に居て。もうどこかに行かないで。私の事を愛して」
「約束する。絶対にもうどこにも行かない。ずっと一緒に居るよ。悲愛の事はずっと大好きだよ。ずっと前から愛している。これからも」
「私と恋理だけじゃなくて、虚雨、枯花、否穂の三人も愛してくれる?上手くやっていける?」
「大丈夫だよ。きっと。今までずっと皆に肯定されて喧嘩なんてした事無いからさ、最初は上手く行かない事も有ると思う。でもき皆そこからわかり合っていくでしょ。私もそうしたい。頑張りたい」
「うん」
「それにもし無理なら二人で逃げよう?」
「え?」
どうしよう。そんな事言われたら嬉しくなっちゃう。でもそんな事出来ない。
「冗談だよ。きっと大丈夫。だから、ね」
そう微笑む愛を見て私は負けたと思った。私は愛の笑顔が大好きで。きっとこれから先も愛の笑顔を見るだけで、不幸を忘れられる。そして私は世界を変えた。
「愛。私からも頼みがあるの」
「何?」
「私は恋理が好きだけどこの世界も好き。だから滅茶苦茶にすることは許せない。だから恋理がこの世界に戻ってくる前にしなきゃいけない事がある。力を貸して」
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