反故にするなら保護をして。
実は、深い溜息を吐いた。そして、表情は落胆から悲しみを通り越して怒りへと変わっていた。その表情を見て雅美が尋ねた――
「あなた、契約は……纏まったの?」
「いや、持ちかえるって」
「まぁ……」
雅美は実の表情から全てを悟った――
「たった、一行の文言で顔色が変わったんだよ」
「恭一さんの……?」
「あぁ。恭一君の書き加えた一行で……彼等の本性が分かったよ。お前の言う通り、俺は直ぐに騙されるっ! 自分が嫌になるっ! あんな連中に、自分が評価されたと、ぬか喜びをしていたんだ……情けない、お前の言う通りだ。笑ってくれ……」
「もう良いじゃないですか。そんなに自分を責めないで……」
「いや、自分の馬鹿さ加減が、本当に嫌なんだよ……うっかり契約していたら……お前達にも、自分自身にも、申し訳が立たない事になっていたと思うと……」
「そんなに……でも、恭一さんは、何を書き加えたの?」
昨晩、TOMYがKevinに捕まってインタビューをしている時、実は恭一に尋ねた――
「恭一君、何やら分からんのだが……これは?」
‶ 紛争の話し合は一週間以内とし、不調の場合は全て乙の利益とする ″
「その契約書には、大家さんが不利益になる様な事は一切書いて有りません。しかし『紛争は甲と乙の話し合いによって解決する事』と云うのが見逃せないポイントです」
「何か、問題が有るのですか?」
「大家さん、それは、お互いが話し合いによって解決をすると云う前提なのですよ」
「はぁ? 当然じゃないですか?」
「もし、相手が詐欺師なら、話し合いなどしませんよ」
「えぇっ……?」
「契約を反故にするのが目的の相手だとしたら……どうですか?」
「…………」
実は、頭をハンマーで殴られたようなショックを受けた――
「真剣に契約をする気が有る誠実な相手なら『利益とは何か』の取り決めをしようと云う事になります」
「はい……」
「しかし、相手が詐欺師なら、契約書のサインを拒み『一旦、持ち帰って、検討します』と言うでしょう」
「はぁ……しかし、それだと……」
「大家さん。まだ、詐欺師だと決まったわけでは有りませんよ。でも、もし、相手が詐欺師だとしたのなら、契約後、大家さんに甘い誘い文句で設備投資をさせるでしょうね」
「あぁ……」
実は、心当りが有った。製品の納入先も決まっていて、大量発注に合わせた設備投資が必須と云う話だった――
「設備投資という名の借金で、身動きを取れなくさせるのです。恐らく納入先もグルでしょうねぇ」
「そんな、馬鹿な……」
「いいえ、彼ら詐欺師の目的は、第一に、大家さんの特許技術をタダ同然で手にれる事。そして、借金返済の名の元に奴隷化する事です」
「まさか……」
「身ぐるみ剥がして『仕事を回して下さい』と跪かせる戦略なのです」
「そんな……」
「まぁ、確りと『利益とは何か』を話し合える相手だと良いのですけど」
「そうですね……」
「あぁ、その話し合いの時には、弱気にならずに、強気で押して下さい。50:50で相手に利用されるのではなく、100:0で相手を利用するのだと、頭を切り替えて下さい」
「はぁ……」
「大家さんにとって、利用価値が無いのならサインは、絶対にしない事です。まぁ、他人の作った契約書にサインをすると云うのは、そう云う事ですから。では、おやすみなさい」
実に、その話を聞かされた雅美は、技術も工場も土地も奪われる事を想像して、足がガクガクと震えていた。そして、その頃、喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――
「めぐみ姐さん、宇宙人に会ったって、本当ですかっ!」
「うん。会ったよ」
「凄いじゃないですかっ! 何で、そんなに冷静なんですか?」
「まぁ、別に驚きも感動も無かったからねぇ」
「えぇ? 驚くでしょう? 感動するでしょう??」
「いやぁ、人の家の夕飯で出会ったせいもあるけど、いたって普通の日本人だったからねぇ……」
「えぇっ!? 日本人なんですか? スポック船長みたいに耳が尖って居たり、指が異常に長かったり……なにか特徴が有ったのでは?」
「だから、それが、な――んも無いのよ。普通」
「普通って……」
「日本語喋ってぇ、夕飯お呼ばれしてぇ。あぁ、お好み焼きに感動していたよ。んで、青のりと鰹節を忘れんなっ! って、注意されてぇ『やっほ――い』って鰹節と一緒にダンスしてたよ」
「かっ、鰹節とダンス……???」
ピースケの頭の中では、緑色のタコの様な宇宙人が、鰹節と一緒にゆらゆらと揺れていた――
「あのねぇ、ピースケちゃん。普通の日本人に『僕は、宇宙人だよ』って告られても困るでしょう? んな感じよ」
「んな、馬鹿な……」
すると、背後に気配を感じためぐみが振り返った――
「ひぃっ! 伊邪那美様っ!」
「その方。今の話は、本当か?」
「伊邪那美様、本当で、ゴザイマスですぅ」
「うぅむ。それで、丁重にもてなしたのだな?」
「丁重か低調かは……本人の受け取り方次第なのですが……」
「うむ。それでは、南方に報告するが良いぞ」
「え? W・S・U・Sに行くのですか?」
「そうじゃ。その時に、宇宙人を案内してやるが良いぞ」
「えぇ!? いやぁ、宇宙人とは、マブダチじゃないので、つるんでW・S・U・Sに行くのは、無理筋なんですけど……」
「良いな」
「あぁっ、いやぁ……」
「良いなっ!」
「はぁい……」
その頃、W・S・U・Sはザワ付いていた――
「父さん、事件ですっ!」
「どうしたマックス?」
「未確認飛行物体が、多摩川に着陸した模様です」
「多摩川に?」
「はい。狛江周辺の様です」
「直ぐ近くだな……」
「どうやら、宇宙人も乗っていた模様です」
「うーむ。遂に旧人類の帰還かぁ……感慨深いものよ」
「旧人類ですか??」
「あぁ、数千年以上前に、地球を旅立った人類なのだ」
「そんな事が?」
「その旧人類の身柄を確保し、保護しなくてはなるまい」
「それでは、調査団を編成しましょう」
「あぁ。それから、未確認飛行物体の回収を急げ。おかしな連中が嗅ぎ付けると、騒ぎになるからな」
「はい。それでは、速やかに回収作業をする様に指示を出します」
「うむ」
マックスは、研究室を出て放送室に向かい、館内に緊急放送をして、人員の招集を行った――
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