私、今日から時読命になりました。
拝殿に昇殿し、本殿に入ると、伊邪那岐と伊邪那美が正装して待っていた――
「げげっ! 何、この空気……緊張感が漂っているよ……それに、あの二人。まるでお内裏様とお雛様みたい。雛祭りはとっくに終わったと云うのに……何なの?」
周囲には見た事の無い神様が整列しており、表情は無く、呼吸が聞こえる程に静まり返っていた――
「あのぉ……」
めぐみが、呼ばれた理由を聞こうとして口を開くと、伊邪那岐は、それを制する様に静かに頷いた。すると、背後から巫女が出て来た――
「あら? 巫女twin’zこと、夕子と弥生じゃないの。地上に来ていたんだ?」
夕子と弥生の表情も固く、摺り足と衣擦れの音さえ憚られる感じで、伊邪那岐と伊邪那美の両脇に立った――
「おや? 何時もなら『巫女twin’zでっすっ! めぐみ様ぁ。お久しぶりですわぁ』とか言うのに……何だろう、この緊張感っ!」
「めぐみ……いや、縁結命よ、天国主大神の任命により地上で活動する事、一年弱。通常ならば、何十年、何百年掛かる事を、僅かな時間で達成した偉業を称え、此処に時読命に昇格する事とする。皆の者、異論は無いな?」
〝 ははぁ―――――――――――――――――――っ! ″
「ほぇ……? そんな事を、いきなり言われても……」
夕子は伊邪那岐から八足を、弥生は伊邪那岐から三宝を差し出し、宝物を受け取ると、踵を返してめぐみの前に差し出し、平伏した――
「何よ……この畏まった感じ」
八足には短刀が、三宝には打ち出の小槌が有った――
「コレを私に?」
「はい。私の授けたその短刀は、魔法使いの杖の様に使う事が出ます。過去と未来に於いて、必ず必要になる時が来ますので」
「はぁ……」
「その打ち出の小槌は、過去と未来で使うお金を、自在に出来るのじゃ」
「まぁ、便利っ!」
「お嬢さん、いや、時読命。先ずはその短刀を携えて、第二日本列島に行って下さい」
「えぇっ! 第二日本列島には、上陸出来ない筈ですけど……?」
「魔法の杖の様に使えると云いましたよ。アマテラスが道路を作りましたから大丈夫ですよ」
「大丈夫って言われも……第二日本列島には、未だ何もありませんよぉ」
「だからこそ、時を司る神として、お前が行くのじゃっ!」
「えぇ?」
「時間は過去と未来が帯の様に繋がっているのではない。今しか存在しないのじゃ。過去の『今』を変え、未来の『今』を変える事が出来るのは、その方だけなのじゃっ!」
「そんな事、言われても……」
〝 ははぁ―――――――――――――――――――っ! ″
全ての者が平伏し、後に引けない状況になっていた。めぐみは、仕方なくそれを受け入れ、本殿を後にした――
「はぁ……参っちゃったなぁ……」
「めぐみ姐さん、どうかしたのですか?」
「|私、今日から時読命《ルビを入力…》《トキヨミノミコト》だって」
「えぇ―――――――――――――――っ! 凄いじゃないですかっ! 神様が昇格するのを見る事が出来るなんて……始めての経験ですよっ!」
「ってか、縁結命の方が、良かったような……」
「はぁ? 嬉しくないんですか? 時を超えて縁を結ぶって事ですよ。スケールがデカいなぁ……」
「いやぁ、小っちゃくて良くね?」
「そうは問屋が卸さないんですよ。何だか面白くなって来ましたよ。それで、それで?」
「それでって?」
「時読命になったのですから、やる事が有るでしょう?」
「あぁ。ファースト・ミッションは『第二日本列島に行け』って事みたい」
「へぇ……」
「上陸出来ない筈なのに『行け』って言われてもねぇ、どーすれば良いのか分からないよ……はぁ――ぁ」
めぐみが、深い溜息を吐くと、スマート・ウォッチのバイブレーションが作動した――
〝 ブルブルブルブルッ! ブルブルブルブルッ! ブルブルブルブルッ! ″
「おっと、スマート・ウォッチが鳴っているよ」
スマート・ウォッチの画面の中で、ショーティが嬉しそうに駆け回っていた――
「ショーティ、どうしたの? 御機嫌じゃないの」
「めぐみちゃん、第二日本列島に行けるんだよ」
「行けると言ってもねぇ……船もダメ、ヘリもダメなのよ? どうやって行くのよ?」
「行き方が分からないの??」
「うん」
「アハハハ、嫌だなぁ、めぐみちゃん。簡単だよ」
「簡単?」
「先ず、第二日本列島の5年後位に設定して飛ぶんだよ。それから、現在時刻に合わせれば良いんだよ」
「え? そんな事?」
「そうだよ。だから早く、行ってみようよっ!」
「お――し、それでは、時間をセットしてぇ、場所は第二日本列島へ」
〝 ポチっとな ″
めぐみは、一瞬で第二日本列島の5年後に移動した――
「はい、着いたっ!」
「ね。簡単でしょ?」
目の前に広がる光景は、火山灰と溶岩だらけで、人間が生活出来る環境には見えなかった――
「でも、ショーティ……これって、まるで、他の惑星みたいだよ……」
「そう。だから、めぐみちゃんの力が必要なんだよ」
「あの山は、富士山みたいだね……」
「でも、自然が全く無いから、不自然でしょう?」
「うん。あれ? あっちの方に民家が有るよ」
「行って見よう」
めぐみは、Real・modeでショーティをスマート・ウォッチから出した。そして、民家らしきものに近付いて行くと異変に気付いた――――
「あぁ、ショーティ。あれは、民家じゃないなぁ……」
「立て看板が有るよ」
〝 首都移転反対! 断固阻止! 島民の権利を死守せよ! ″
「あららぁ……何か、ヤバい雰囲気じゃないの……」
「利権絡みだよ……ほら」
〝 都知事は、東京都に編入する事で、我々を奴隷化し、搾取するのが目的なのだっ! この、第二日本列島を、絶対に東京都にしてはいけないのだぁ―――――っ! ″
〝 おぉ―――――――――――――――――うっ! ″
〝 東京反対っ! 原発反対っ! 絶対反対っ! カジノ反対っ! 断固反対っ! ″
「人間同士の奪い合いか……」
「これから紛争が激化して行くんだよ」
「せっかく、豊かな日本になると思ったのに……」
「富は権力に直結しているからね。島民が抑圧される未来は、伊邪那美様の意に反するんだ。だから、めぐみちゃんの力が必要なんだよ」
めぐみは、自分が時を司る意味を理解し始めていた――
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