ノーランの思惑
カイン達3人の前に現れたノーラン。
予想外の展開だ。
ウルプスの中央広場に、『神速のノーラン』が現れたのだ。『協力する』とは、どっちに対して言っているのだろうか?俺達は、ノーランの動向を見ることにした。
ノーランは、ハンスの前に着くと、軽く跪き、ハンスに対して挨拶をした。
「ハンス様。俺はこの度ランクSに昇格したノーランという者でございます。こやつらの処理は、この俺に任せてもらえないでしょうか。
相手は、あの『最強のレオナルド』です。大変申し訳ありませんが、ここにいる正規軍の方々では、レオナルドの相手は、少々厳しいと思われます。
レオナルドの相手が出来るのは、この国では、この『神速のノーラン』、俺しかいないと思います。」
これは、ノーランは、貴族の味方というわけだ。つい最近まで、ノーランは俺達と同じ冒険者だった。だから、元冒険者である神官の処刑を快く思っていないと期待していたのだが、どうやら甘かったようだ。ハンスに対してのあのノーランの態度。もう、ノーランは、ランクSに昇格したことで、貴族側になってしまったようだ。
「さあ、ここは、この『神速のノーラン』にお任せください。レオナルドとは、激しい戦闘が予想されます。皆様は、『レジース』にお戻りください。すぐに、この3人を撃退して連れて行きますので。」
ノーランはそう言って、俺達3人に向かって戦闘の構えを取った。俺達も、ノーランに対して構えを取る。
「ちょっと待て、お前達。まずは、貴族の方々を退避させるのが先だ。」
ノーランがそう言うと、ハンスと正規軍は、この場から離れていった。完全に姿が見えなくなるまで、俺達3人とノーランは、向かい合ったままにらみ合い、膠着状態が続いた。
「ふう。お前達、もういいぞ。武器をしまえ。」
ハンス達の姿が完全に見えなくなると、何故かノーランは構えを解き、俺達にも武器をしまうように言ってきた。どういうつもりなんだ。
「いいか、お前達。俺とレオナルドの試合を見ただろう。俺とレオナルドの力は完全に互角。このまま戦っては、お互い無事ではすまない。一対一ならな。だが、この状況は三対一、俺の方が圧倒的に不利だな。」
何を言っているんだろうか、この男は。自分で不利な状況を作っておいて、わざとらしく状況説明をしている。これでは、俺達に自分が不利だと教えているようなもんだ。何を考えているんだ?
「俺達は、お前と無駄話をしているほど暇じゃないんだ。お前は、何が言いたい。早く答えろ。」
苛立ったアイザックがノーランに詰め寄る。
「まあ、落ち着くんだ。焦っても、何も解決しないぞ。お前達は、神官を助けたいんじゃないのか?」
「だったら、何だというんだ。」
「神官に合わせてやる。付いてこい。」
ノーランのいきなりの言葉に、俺達はあ残としていた。神官に合わせるとは、どういうことなんだろうか?俺達は、ノーランに付いていくしかなかった。
ノーランは、ウルプスの南門から、王都『レジース』へと進んでいく。ノーランはランクSだから、レジースへの検問はフリーパスだ。だが、俺達は、どうなる?簡単にはレジースに入ることはできない。
「ああ、こいつらは、俺が雇った衛兵だ。任務のため、同行している。だから、この3人を通してくれ。」
検問は、しばし考えていたが、ノーランの顔色を伺い、応じてくれた。そのお陰で、俺達3人は楽々とレジースへ入ることができた。
レジースに入ってからも、ノーランは歩みを止めずどんどんと進んでいく。俺達は、ただただ付いていくだけ。
そして、中央広場へ到着すると、ノーランは歩みを止めた。
「お前達に聞いておく。レオナルドはいいとして、アイザックとカインで間違いないな?」
いきなりではあるが、ノーランは、俺とアイザックのことを知っているようだった。何故、ノーランは俺達のことを知っているのだろうか?
「無言ということは、当たっているということだな。まあ、良いだろう。俺は、お前達が戻ってくるのを待っていたんだ。神官ダニエル様を、一緒に助けてほしいんだ。詳しい話は、教会でする。」
俺達3人は、ノーランと一緒に教会に入った。そこで、ノーランから話を聞いた。
ノーランと神官は、古くからの付き合いらしい。神官の考えに賛同して、行動を共にすることとなったというのだ。今回のノーランのランクSへの昇格も、神官のしんげんがあったからこそ、だそうだ。
なぜ、ノーランをランクSに昇格させたのか、それは、王城の調査をさせるためだということらしい。
どうして、王城の調査をさせる必要があるのか、俺達はノーランに聞いた。すると、とんでもない答えが返ってきたのだ。
実は、ここ数年、王の姿を見たものはいないらしい。王がいなくなったことで、大臣ベネットに権力が集中したそうだ。実質、今は大臣ベネットが、この国を支配していようなものらしい。
王がいなくなったことと、大臣ベネットに権力が集まったこと。このタイミングがあまりにも合いすぎていることに疑問を持った神官は、ノーランに調査を依頼した、ということなのだ。
嗅ぎ回る神官を、大臣ベネットは、鬱陶しく感じていたのだろう。そんな中、ハンスから出た、カインの化け物疑惑。神官を捉えるには、あまりにも都合の良い理由だったということだ。
何か些細なことでも、神官に疑惑があれば、即処刑。それで、邪魔物がいなくなる。
というのが、大臣ベネットの考えているシナリオらしいのだ。
一通り説明が終わると、ノーランは俺の方に近付いてきた。
「カインといったな。神官から、話は聞いている。しかし、実際この目で見ないことには、信じられないのでな。軽く、手の内を見せてくれないか?」
「話を聞いてるって、何をだ?」
「とぼけなくていい。お前の裏スキルのことだ。そのお陰で、お前はとんでもなく強くなっているのだろう?
それが真実なら、地下牢なんかぶち壊して、そのまま神官を助け出せると思うんだ。
まあ、そんなことをすれば、俺達全員、重罪人になるが、そんなことはどうとでもなる。俺は、ベネットの悪事の証拠を掴んだのだから。
だが、いくら証拠を掴んだとは言っても、俺一人ではどうにもならない。ベネットを追い詰めるためには、俺達には、数、数量という武器が必要なんだ。そのためには、神官は絶対に必要なんだ。頼む。俺に力を貸してほしい。」
ノーランの提案とは、言い方を変えると、一種のクーデターのようにしか聞こえなかった。なんと、神官はノーランと手を組んで、クーデターを目論んでいたのだ。
冷静に考えれば、予想できたことだ。神官は、ほとんど初対面に近い俺達を、古代遺跡の調査に向かわせた。これは、どう考えても不自然なこと。
その調査に向かった遺跡が、『石板の遺跡』だったことも、偶然ではないだろう。この教会には、『世界の謎』の書物があったのだ。ということは、神官は、『世界の謎』のこと関してかなり詳しい知識を持っていたはず。
裏スキルにより、あり得ない強さを持つ俺を『石板の遺跡』へ向かわせることで、優秀なスキルを取得させ、さらに強くさせる。
その俺を手駒にし、国家転覆を狙っていたのだ。その事実を知った俺は、神官は、とても恐ろしい男なんだと思った。
悪事を繰り返す大臣ベネットか、国家転覆を狙う神官か、どちらかを選ぶという、選択を迫られてしまったのだ。




