『ウルプス』の中央広場にて
カイン達3人は、神官を救うために『ウルプス』へと急行した。
ウルプスの中央広場では、処刑台の設置が進められていた。まったくふざけている。処刑を見せ物にしようとしているんだ。アイザックによると、見せしめだとか。貴族に逆らうとこうなるんだ、という警告の意味もあるということらしい。
これでは、恐怖による統括でしかない。こんなことを続けていては、いずれは反乱が起きるに決まっている。しかし、腹いせで処刑をしてしまうとは、なんとも理不尽な話だ。これでは、今までに何人殺されたか、想像もできない。
全くもって理解できない俺は、設置中の処刑台を壊そうとしたのだが、アイザックに止められてしまった。
「アイザック、どうして止めるんだ。処刑を止めさせるんだろ!」
「カイン。処刑台を壊したところで、何の意味もないんだ。壊しても、すぐに処刑台は造り直される。それでは、何の解決にもならないんだ。」
「なら、どうしろというんだ!」
「処刑自体を止めさせるんだ。そのためには、神官を拐うしかない。」
「さ、拐う?」
アイザックは、急に物騒なことを言い出した。拐うってことは、誘拐だ。そんなことをすれば、完全な極悪人だ。
「いや、拐うは言いすぎか。正確には、神官を俺達で匿ってしまえばいいんだ。おそらく、今、神官は地下牢に入れられているはずだ。」
確かに、それしかないと思う。たが、どうやって神官を牢屋から出すんだ。見つかれば、それこそ大問題だ。周りから見れば、ただの誘拐にしか見えないだろう。俺達は、世間では極悪人だと思われてしまう。
「なあ、アイザック。どうやって神官を牢から出すんだ?それに、地下牢はどこにある?何か作戦でもあるのか?」
「いや、流石に地下牢が何処にあるかまでは、俺も分からないんだ。だが、貴族の誰かにコンタクトを取れば、地下牢の位置は特定できる。」
「貴族の誰かって、そんな曖昧な。当てはあるのか?」
「うーん。そうなんだよ。そこが難しいんだ。だが、時間は迫っている。何か他に良い案があればな。」
完全に手詰まりだ。アイザックの案は、机上の空論でしかない。解説魔のアイザックでも、流石に今回ばかりは、なかなか良い作戦を考えるのは難しいようだ。
「お二人とも、貴族なら、一人だけに当てがありますが。」
「なんだと!」
レオナルドの言葉に、俺とアイザックは、声を揃えて驚愕した。
「はい。まあ、100パーセントとは言えませんが、『神速のノーラン』は、この間ランクSに昇格し、貴族になったはずです。でも、おそらくノーランは、まだ冒険者を続けていると思うんです。だから、ノーランとコンタクトを取ることは、可能だと思うのです。」
でかした、と思った。確かに、ノーランなら、コンタクトを取ることは可能かもしれない。俺とアイザックは、ノーランのことなど完全に忘れていた。今回は、レオナルドに助けられた。
それにしても、よくレオナルドはノーランのことを覚えていたな。そうアイザックは感心していたが、おそらくレオナルドは、ただ悔しくてノーランのことを覚えていただけだと思う。まあ、その辺は詮索しないでおこう。このまま、レオナルドには格好つけさせておこう。
とりあえずの指針が決まり、冒険者ギルドに向かおうとしたのだが、何故か中央広場の雰囲気がおかしい。皆が、明らかに俺達を見ているようだ。
「どけどけ!国の正規軍が通るぞ!」
この声は、あの憎たらしいハンスだ。あの野郎、ここまで追いかけて来やがった。それにしても、正規軍だと?
「アイザック。正規軍って、何だ?」
「この国には、軍は主に2種類あるんだ。どちらも王都『レジース』所属なんだが、普通の軍隊は、貴族によって雇われている元冒険者の集まりだ。
そして、もう1つ。それが、『正規軍』だ。正規軍は、貴族だけで構成されている。貴族だから、権力も資金も大きく、トレーニング設備も装備も充実しているから、普通の軍隊よりも強いと言われているんだ。
だが、妙だな。どうしてハンスは、正規軍を使うことができるんだ?」
確かに、あのハンスが、どうして貴族の軍を動かせるのだろうか?ハンスには、何か秘密があるとしか思えない。
だいたい、前々からおかしいとは思っていたんだ。いくらランクAでも、ただの冒険者にすぎないハンスの言ったことを、貴族が完全に信じている、というのが明らかに不自然すぎる。
そうこうしているうちに、中央広場は、国の正規軍が完全に包囲されてしまった。正規軍により、野次馬は完全に締め出され、正規軍は、俺達3人を取り囲む形となった。
「ハッハッハ。とうとう追い詰めたぞ、化け物め!
それに、そこの2人!お前達、何でそんな化け物と一緒にいるんだ?これは、国に対する反逆だな?そうだろう。今も、この処刑台を壊そうとしてたんだろう?」
正規軍と一緒にいることで、ハンスの野郎は、かなり気を大きくしているようだ。あの得意気な顔を見ているだけでも腹ただしい。
「お前ら3人まとめて、神官と同じく処刑してやる。覚悟しろ!」
もう、いい加減にしてほしかった。俺は思わず、ハンスに反論してしまった。
「なあ、ハンス。お前、頭は大丈夫か?何度も言うが、俺は人間だ。どうしてそこまで、俺を追いかける?俺に復讐したいからか?馬鹿馬鹿しい。あの時絡んできたのは、お前だろうが!お前の自己満足のために、軍を使うなんて、なんて卑怯な奴なんだ。まあ、お前は、アナゴンダごときに逃げ出す臆病者だもんな。」
「う、う、うるさい。化け物のくせに。人間の言葉を喋るなんて生意気な。」
「生意気なのはお前だろうが。そこの軍の皆も、どうして、こんなハンスごときに従うんだよ。」
俺がハンスのことを罵倒していると、正規軍は、一斉に武器を出し構えを取った。そして、正規軍の一人が俺に忠告をしてきた。
「今のは、貴族への侮辱罪だ。即刻逮捕させてもらう。」
軍によると、ハンスは貴族ということになる。貴族のくせに、冒険者をしていたのだ。ランクAになれたのも、おそらく貴族だからこそ恩恵を受けたのであろう。ということは、港町ポータスの護衛というのも違うな。本当は、ポータスを統治していたのだろう。それなら、全て辻褄が合う。港町を統治する権限を持っているということは、貴族の中でも、かなり権力は高いはずだ。だからこそ、正規軍までをも動かすことができるのだろう。ますますもって面倒だ。本当に、この国の貴族は狂っていやがる。
「いいか、カインとやら、逆らうなよ。これ以上、罪を重ねるな。」
「それで、大人しく捕まれ、とでもいうのか?」
「化け物のくせに、生意気な。お前には何の権利もないんだよ!」
いちいち口を挟んでくるハンスは、本当に鬱陶しい。俺の怒りは、段々と強くなっていった。
ゴゴゴゴゴッ
俺の怒りが強くなっていくと、周囲の地面がグラグラと揺れ出した。おそらく、俺の怒りに呼応して反応しているのだろう。俺の強さは、大地にまで影響を及ぼすまでになっているのだ。
いや、正確には、俺の馬鹿げた強さは、『弱体の呪い』が解けていると思わせるほどまでになっている。
そんな俺の強さは、『弱体の呪い』により、脆弱化してい大地を遥かに超越してしまっている、ということなのだ。
「うわあああああっ。なんだこりゃあ!」
俺の怒りの表情を見て、ハンスは腰を抜かしてしまった。
「は、はやく、逮捕してくれ!」
ハンスはそう叫んだが、あまりの異常な光景に、正規軍の誰もが動けないでいた。いや、正規軍の全員が、完全に俺にびびって腰がひけていたのだ。そんな中、ある1人の男が姿を表した。
「それならば、俺が協力しよう!」
意気揚々と現れたのは、『神速のノーラン』だった。




