石碑の間
急に笑いだしたミノタウロス。
いきなり大声で笑いだしたミノタウロスは、持っている斧を手放し、その場に座った。
「おい、お前。もう、勝負をする必要はない。楽にしてくれれば良い。後ろの二人も、もう大丈夫だ。警戒する必要なんてないぞ。」
急なミノタウロスの終戦宣言に、俺はますます混乱してしまった。何がなんやら、全く分からないのだ。
「どうして、勝負を止めた?ここは『挑戦の間』だろう?何かを確かめるために、今勝負をしていたんじゃないのか?」
「がっはっは!もう、その必要はなくなったんだ。我は、今のお前の強さがあれば、大丈夫だと判断したんだ。」
いまいち、ミノタウロスの言っていることが分からない。何が大丈夫だと言うんだ?
「まあ、お前が混乱するのも無理はない。あれから、もう千年は経っているだろうからな。うん。しょうがない。
だが、お前のその強さは、間違いなく、『解けている』としか思えないんだが、後ろの2人の強さは、見ただけで確実に『解けていない』と分かる。
しかし、『解けている』といっても、お前の強さは異質に感じる。うーん、どういうことだ?」
「いや、待ってくれ。『解けている』と言われても、意味が分からない。それに『千年』とは、なんだ?それに、何が大丈夫だと言うんだ?」
「お前、何も知らないのか?それはおかしい。風化させないために、何らかの方法で後世に伝えるようなシステムを作っていたはずなんだが。」
後世に伝えるって、何のことだ?千年前に、何か大きな事が起きたと言うことなのだろうか?
「ひよっとして、『世界の謎』に関係することなのか?」
後ろから、アイザックが何かに気付いたらしい。ミノタウロスに急に質問を始めた。
「今、俺が知っているのは、『世界の謎』として語られていることがある。1つ目は、ここのような『古代遺跡』、2つ目は、『別次元』、3つ目は、『7大怪物』。
ひよっとして、『後世に伝えるシステム』とは、この『世界の謎』ということでいいのか?」
アイザックの質問を受けたミノタウロスは、何か考えていようだった。その表情は、かなり深刻そうであった。
「まあ、その『世界の謎』という物で間違いはないんだが、『千年』の時は、伝えるべき情報を歪ませてしまうには、十分すぎる時間があったということか。こんな状況だと、今のままでは、この世界は、かなり危機的状況にあると見ていいだろう。これは、大きな計算違いだ。う~ん。どうする?」
ミノタウロスは、どう答えて良いか分からず、右手で頭をかき始めた。
「そんな、お前に分からないのなら、俺達も分かるはずないだろう。せめて、この『挑戦の間』で、何を確認しようとしてたんだ?それだけでも教えてほしい。」
アイザックの懇願に、我に返ったミノタウロス。
「そうだったな。この『挑戦の間』では、あるスキルを修得できているか、それだけの確認をするためだけに存在しているんだ。
今戦って分かったと思うが、我の体は実体がない。だから、普通の攻撃は全てすり抜けてしまう。そんな我を、どのようにして倒すのか?
『我の体に実体がない』というのが、実は大きなヒントになっていたんだ。実体がない相手にも、確実に攻撃を当てることができるスキル。そのスキルこそが、我を倒す唯一の手段なんだ。」
ミノタウロスは、丁寧な説明をしてくれているようだが、肝心の『スキル』が何なのかを言ってくれない。それが分からなければ、絶対にわかるはずがないんだ。
俺は話に全くついていけなかったが、アイザックは何か分かったようだ。
「ひよっとして、『次元斬』か?」
『ご名答。その通り、『次元斬』だ。このスキルは今後、絶対に必要不可欠になる。その理由は、このスキルの特性にあるんだ。
そもそも、『次元斬』というのは、相手を目視さえしていれば、距離に関係なく確実に斬ることができる、というもの。その中でも、『確実に斬る』ということが、最大ののポイントなのだ。
『確実に斬る』ということは、相手の防御力を完全に無視してダメージを与えるということにもなる。
つまり、『次元斬』には。『防御力無視』という特性があるのだ。
『防御力無視』という特性を生かすことで、今後に、何とか対抗することができるということなのだ。
だが、先程の戦いで感じた、あの攻撃力ならば、『次元斬』を取得していなくても、間違いなく対抗できると分かった。
だから、もう、何も確かめる必要はなくなったんだよ。
すまないが、我が説明できるのはここまでだ。我は、所詮『挑戦の間』での役割を担っているにすぎない、そういう存在なのだよ。
これから先、知りたければ、『石碑の間』で、真実を見つけてこい!」
ミノタウロスは、そう言って、両手を叩くと、奥の壁から、扉が出現した。おそらく、第5階層へと続いているのだろう。ということは、『挑戦の間』をクリアしたということで良いのだろうか?
しかし、クリアの条件が、『次元斬』の取得の有無だとは。今後とは、なんだ?何に対抗しなければならないのだろうか?
まあ、第5階層に行けば、全てが分かるだろう。ミノタウロスが、そういう風なことを言っていたからな。
俺達は、第5階層へと続いている扉を開けた。すると、ミノタウロスは、再び石像になった。また、次の挑戦者が来るのをじっと待っているような、そんな雰囲気だった。
階段を下りている途中、アイザックから質問があった。
「なあ、カイン。結局、今のところは、何も解決していないように思えるんだ。むしろ、新たな疑問が増えていっている。本当に、石碑を見るだけで、全てが分かるのか?」
「う~ん。どうだろうか。それよりも、『今後』という言葉の方が気になる。あの言い方だと、この古代遺跡は、その『今後』のために備える準備施設でしかないように思えるんだ。」
「確かに。俺もそう思っていた。準備だけで、あのミノタウロスの強さ。ミノタウロスが言っていた『今後』とは、間違いなく『世界の謎』が関係してくるだろう。今は、分かっているのは、それぐらいしかない。」
階段を下りると、扉のない小さな小部屋があった。今までの階層から比べると、随分小さな空間だ。中央には、高さ3メートルほどの石碑が立っており、一面にびっしりと、文字が刻まれていた。ここに刻まれている文字も、スキルの石板と同じような文字だった。
「うげー。これだけの量の解読は、流石に無理ですね。」
「ああ、どれだけ時間がかかるか分からん。」
あまりにも多い文字数に、アイザックとレオナルドは、最初から解読を諦めているようだった。まあ、俺も、こんなにも沢山の文字の解読は、とてもじゃないが出来そうには思えなかった。
その時、石碑の前に、周辺から煙が集まりだした。
「な、何ですか、あれは?」
急な出来事に、驚愕するレオナルド。俺は、戦闘の可能性があると見て、剣を構えて警戒した。アイザックも、弓を引いて構える。
どんどんと煙が集まり、石碑の前に白い塊が出現した。白い塊は、集まってくる煙を吸収し、どんどんと大きくなっていく。その塊は、やがて人の形へと近付いていった。
白い塊が、俺達と同じぐらいの大きさになると、煙は収まった。そして、白い塊は、段々と形が安定していく。
姿を表したのは、俺達と同じぐらいの大きさのミノタウロスだった。
また、ミノタウロスか。もう、ミノタウロスには、飽き飽きしているんだが。俺は、剣に力を込め、ミノタウロスとの距離を詰めようとした。
「待て。ここは、勝負をする場所ではない。我は、石碑の内容を伝えるものなり。」
今現れたミノタウロスは、石碑の伝言者だったのだ。




