挑戦の間
カイン達は、第4階層まで到達した。
第4階層に降りると、巨大な門があり、扉は閉ざされていた。扉の中央には、スキルの石板と同じように、手形がある。ちょうど、人間の頭の高さの位置にあるので、手形に手をあてれば、扉が開くのだろう。
早速、レオナルドが手形に手をあてた。俺とアイザックは、何が起こるか分からないので警戒していたのだが、流石はレオナルドだ。そんなことを考えるような人間ではないらしい。だが、扉は何の反応もなく、開くことはなかった。
「どういうことでしょうか?まったく開く気配がありません。」
レオナルドはそう言いながら、何度も何度も手形に手をあてていた。しかし、扉は全く開く気配はなかった。
「何のために、この手形はあるのでしょう。意味が分かりません。アイザック大師匠。どうしましょうか?」
「うーん。せっかくここまで来たのに、諦めて帰るのは嫌だな。『挑戦の間』ということだから、扉が閉ざされているわけではないと思う。開くためには、何か条件が必要なんだろう。とりあえず、何か手掛かりがないか、扉を含めて周辺を調べてみるんだ。」
アイザックの指示により、俺達3人は扉や、その周りをとにかく調べることにした。絶対に、扉を開くためのヒントがあるはず。ヒントがないなど、ありえない。おそらく、『挑戦の間』とは、この扉の先にある。扉が開かないのでは、『挑戦』に、挑むことすら出来ないのだから。よもや、扉を開けること自体が『挑戦』ということではないだろう。
周辺を調べていると、扉の前の床に、スキルの石板と同じような文字が彫られていることに気付いた。砂やホコリで隠れていたので、初見では、絶対に見付けることは出来なかった。3人がかりで、扉周辺をくまなく調べていたので、発見することが出来たのだ。
「ふう。また解読か、面倒だな。」
「カイン殿。何故、面倒なのですか?先程のスキルの石板の時は、あんなにも楽しそうに解読していたじゃありませんか。」
レオナルドの言いたいことは分かるが、スキルの石板の解読の時は、興奮しすぎて頭がおかしくなっていたからなんだ。今回の文字は、スキルの石板の時とは比べ物にならないくらい文字数が多いんだ。これを解読するには、結構な時間がかかるだろう。
「まあまあ、カイン。面倒なのは俺も同じだ。せっかくここまで来たんだ。解読すれば、扉を開ける方法が分かるかも知れないんだ。だから、なんとしても解読するんだ。
ほら、見てみろ。レオナルドは、すでに解読を始めているぞ。あいつのああいう積極的なところは、見習うべきだな。」
アイザックの言う通りだとは思う。レオナルドの積極的な行動が、言い結果をもたらしている、ということは、これまでに何度かあった。今回のスキルの石板にしても、最初に解読したのだから。
でも、アイザック。俺に説得するのはいいが、お前も解読していないじゃないか。やはり、面倒に思っているんだな。まあ、仕方ないか。申し訳ないが、この解読はレオナルドに任せるとするか。
長い文章の解読なので、レオナルドは休憩をはさみながら行った。解読完了する頃には、なんと1時間が経過していた。ありがとう。レオナルド。良くやってくれた。
それにしても、この古代遺跡に入ってから、もうかなりの時間が経過してしまっている。帰ったら、直ぐにでも休みたいな。
「お二人とも、解読できました。早速読み上げます。
ここは、『挑戦の間』。
ここまで来れた者達よ。それなりの力は持っているようだが、この先の石碑を見るための資格があるものしか、通すことは出来ない。その資格とは、『強さ』だ。
ある程度の強さがなければ、『挑戦の間』に挑んでも無駄に命を落とすだけだ。
『挑戦の間』に挑むことが出来る『強さ』を持つ者よ。手形に手を当てるといい。そうすれば、扉は開くであろう。
このように記載されてありました。俺では、ここに挑戦するための強さはないということでしょうか。」
「レオナルドでも、駄目なのなら、俺も駄目なのだろう。成長素質を各10まで上げた状態で『レベルの石板』で、レベル200にした俺達で通れないのなら、この世界で、この扉を開けることができる人間は、もうカインしかしないはずだ。しかし、どうなってる?こんな扉、なんのためにあるんだろうか?これでは全ての人間を拒絶しているのと同じだ。」
アイザックの言う通りだ。俺の強さは、はっきり言って例外中の例外、特殊すぎるんだ。通常なら、『レベル上限なし』など、ありえない。その証拠に、この『石板の遺跡』でも、『レベルの石板』という物があるぐらいなのだから。強さには、全ての人間が限界点が存在するのだが、俺にはそれがない。こんなことは、この遺跡にしても想定外なはずだ。
それよりも、この扉の向こうにいる存在も謎だ。俺の能力値がそれぞれ15万の時点でも『強敵察知』の反応がある者が、確実にいるんだ。絶対に、俺以外の物では対抗できるわけがない。
この遺跡は、何のために存在するんだろうか。誰も入ることができない『挑戦の間』に、とても意味があるとは思えない。万が一、扉を開けたとしても、中にいる者に、ほぼ100%殺されてしまう。それほどの無茶苦茶な状況の中、最下層にある石碑。一体、その石碑を見ることに、どれ程の価値があるのだろうか。
まあ、深く考えても仕方がない。とりあえずは、扉を開け、『挑戦の間』という物がどういう物なのか、確認するしかない。
そう決心した俺は、扉の手形に手を当てた。すると、扉は大きく振動し、ゆっくりと、大きな音を立てながら開いていく。
扉が開いていく際、中の様子がゆっくりと見えてきた。この第4階層は、第3階層までの造りとは、少々違うらしい。大きな通路も、通路を取り囲む台座もない。ただただ、だだっ広い空間だ。
その空間の中央に、巨大な石像が3体、仁王立ちしているように立っている。まだ、動きだしてはいないようだ。
その姿は、牛頭人身の怪物だ。まさに、『ミノタウロス』と言ったところか。大きさは全て等しく巨大なのだが、持っている斧の大きさに違いがある。石像と斧の大きさのバランスがちょうど良い者から、明らかに大きすぎる斧まで、3種の大きさ。
どの石像も、その大きさからか、凄い迫力だ。あまりの迫力に、アイザックとレオナルドは圧倒されていた。
「なんて凛々しい石像なのでしょう。遠目からでも、見るからに、今までの石の怪物とは違うと分かります。」
「確かに。あれが動いたら、俺とレオナルドでは手に追えない。悔しいが、カインに任せるしかないようだ。」
扉が全て開ききり、俺達3人は、『挑戦の間』へと入っていく。すると、空いた扉が急に閉まりだした。
「なんだと、何故閉まるんだ!くそ!」
扉は一瞬にしてしまってしまい、俺達3人は閉じ込められる形となってしまった。アイザックは叫びながら扉を殴るが、全くびくともしない。
その時、一体の石像が、ピシピシと音を立てだした。ブルブルと震えながら、ゆっくりと可動域が増えていく。
「とうとう動きだすか。アイザックとレオナルドは、下がっていてくれ。ここは、俺が相手をする!」
俺は、持っていた剣を構え、今にも動きだしそうな石像を警戒した。今動き出しそうなのは、中でも一番小さな斧を持っている者。大きさのバランスが一番良いものだ。
「グアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
完全に動きだしたミノタウロスは、上を見上げて大きな雄叫びを上げた。その雄叫びの迫力は、あの巨大なアナゴンダの比ではない、とてつもない圧力だった。レベル30万の俺でも、圧力を感じるほどの雄叫び。
「うわああっ。こんなの、勝てっこない。」
レオナルドは、完全に萎縮していた。あまりの圧力に気を失いかけているほどだ。
ミノタウロスは、雄叫びを終えて、視線をゆっくりと下ろしていく。そして、俺の姿を確認すると、持っている斧を構えて、戦闘態勢をとった。その姿を見て、俺は、久しぶりに戦闘に緊張することになる。いくら『強敵察知』の反応がなくても、あの巨体からの斧による一撃は、喰らえば無事手すむはずがない。
直ぐに『腕力アップ』『体力アップ』『速力アップ』のスキルを使い、『エクスカリバー』と『剣巨大化』を同時発動した。持っている剣では、あの斧に簡単に折られてしまうと判断したからだ。
これで、俺の攻撃力は、レベル30万で、『全能力値2倍』と『腕力2倍』で120万、『腕力アップ』で240万、『エクスカリバー』を装備し720万。そして、『剣巨大化』で、最終的に3600万にまで到達した。これが、今の俺の全力。この途方もない攻撃力なら、ミノタウロスでも、絶対に一撃で倒せるはずだ!
だが、ミノタウロスの様子がおかしい。ミノタウロスの斧も、俺と同じように巨大化していくのだ。おそらく、ミノタウロスも武器の巨大化のスキルを使ったのだろう。これは、ますます一撃をもらえば、ただではすまない。先に当てたもの勝負ということか。
俺とミノタウロスの間に、ピリッとした緊張感が張り詰めていく。




