ギルド調査員からの報告。
レオナルドとノーランの試合は、引き分けに終わった。
「レオナルド。大丈夫か?」
ウルプス大闘技場にある医務室に運ばれたレオナルドの様子を見に来た俺は、治療を受けたレオナルドに声をかけた。
「ああ、カイン殿。俺の試合、どうでしたか?引き分けになってしまい、申し訳ございません。せっかく、アイザック大師匠とカイン殿には、助言をいただいたのに、勝つことは出来ませんでした。」
レオナルドは、物凄く落ち込んでいた。よほど、引き分けになったことが悔しかったのだろう。だが、当初のあの自信を失くしていた状況から考えると、善戦したと評価するべきだと思う。
「レオナルド。俺は、お前は良く頑張ったと思う。レジースの中央広場での前哨戦後のお前は、勝つ自信がないと言っていただろう?そこから、引き分けにまで持ち込む事が出来たんだ。」
本当は、レオナルドは、あの試合で『ショット』を使用するのは判断間違いないたみと思っている。ノーランの魔法の槍は、レオナルドの『魔法剣』で打ち払えたかもしれないのだから。そうすれば、ノーランはMPが枯渇して、レオナルドは楽々勝てたかもしれないのだ。ただ、そんなことは、今のレオナルドには言えなかった。
「うう、カイン殿。ありがとうございます。ところで、アイザック大師匠は、何処にいらっしゃるのでしょうか?」
「ああ、アイザックは試合後、冒険者ギルドに向かったんだ。ギルド長に呼ばれたから。」
レオナルドの試合に向かう前、アイザックは、ギルド長から呼び出しを受けていたのだ。もう、俺達がアナゴンダの大群を討伐してから一週間が過ぎている。ギルドの調査員が調査完了したらしいのだ。これで俺達は、この依頼を正式に達成したことになるだろう。
「それで、レオナルドが回復したら、一緒に冒険者ギルドに来るようにと言われているんだ。だから、俺達も冒険者ギルドに行こうと思ってるんだ。どうだ、レオナルド。動けそうか?」
「はい。大丈夫です。」
このウルプス大闘技場には、試合で傷ついた参加者を治療するために、多数の僧侶が常駐している。僧侶が一斉に回復スキルの『ヒール』を使用することにより、どんな怪我でも直ることが可能なのだ。
俺も、僧侶のヒールを見ることで、ヒールを取得出来るのだが、今のところヒールを使っている場面を見れないでいる。ヒールが使えるようになれば、今後はポーションの残量を気にする必要がなくなるんだ。まあ、今は寮に相当な量のポーションがあるので、暫くはポーション不足になる心配はないんだけどね。
立ち上がったレオナルドだったが、まだ、足元がおぼつかない。傷は回復しているのだが、これは、試合の疲労、WPの枯渇から来るものだ。
先程の試合にて、ノーランとの魔法の槍9本を、接近戦にて応戦していた時、レオナルドは、魔法剣を使用して応戦していたのだ。ノーマンは、その時3種類の属性の魔法の槍を出現させていたので、レオナルドは、その都度魔法剣の属性を切り替えなければらならかった。魔法剣自体のWP消費はあまりおおくはないんだが、その後の『ショット』を使用したことで、WPが枯渇してしまったのだ。『ショット』は威力が絶大な分、WP消費がかなり大きい。
これから、強敵と戦っていく時には、レオナルドの『ショット』は、必然的に多用する機会が増えてくるはず。なら、なおさらエーテルの数の確保は、最重要案件になってくるのだ。ここ一週間は、この試合のせいで足踏みをしてしまったので、そろそろ王城に出向き、工事の許可を貰いたいものだ。
よろよろと歩くレオナルドに肩を貸し、なんとか俺達は冒険者ギルドに着くことが出来た。
アイザックはすでにギルド長と応接室にて話をしているとのこと。俺達も、応接室に案内された。
「よう、アイザック。レオナルドを連れてきたぞ。」
応接室に入るなり、レオナルドはアイザックの方へ駆け寄り泣きついてしまった。
「アイザック大師匠!申し訳ありませんでした~。ご期待に答えることが出来ずに、引き分け止まりに終わってしまいました~。」
やれやれ、レオナルド。少し、空気を読んでほしいものだ。ギルド長とアイザックの真剣な表情、ビリッとした緊張感を感じてほしいものだな。
だが、アイザックは、優しい表情で、レオナルドを誉めていた。アイザックよ。ちょっとレオナルドに対して甘いんじゃないか?これでは、周りから見ると、本当の師弟関係に映ってしまうぞ。
アイザックがレオナルドを介抱したことで、ようやくレオナルドは落ち着きを取り戻したようだった。この辺は、さすがは、解説一筋のアイザックだな、と感心した。レオナルドに対して甘い態度を取っていたのではなく、レオナルドの操縦が上手いってことなんだな。
レオナルドが落ち着いたことで、アイザックは、今までギルド長と話したことを、俺達に説明してくれた。
ギルドの調査員による、大河川フルーメンを調査したことで、アナゴンダの大群の討伐は証明され、俺達は正式に依頼を達成したこととなった。今回の依頼はAランクだったことと、想定よりも遥かに短い時間での達成に加え、たったの3人で依頼達成したことを踏まえて、特例で、俺とアイザックは、ランクBへの昇格も認められたのだと言う。ことランク昇格に関しては、ギルド職員は満場一致だったと言う。
本来なら、いくら特例でも、あり得ないことらしいのだが、湖の底に沈んでいた巨大なアナゴンダの死体を発見したことにより、異常事態だと判断されたためだったらしい。
さらに、話はそれだけでは終わらなかったとのこと。フルーメンの湖の底は、巨大なアナゴンダにより、かなり掘り起こされていたらしい。その掘り起こされた湖の底から、『古代遺跡』が発見された、というのだ。
『古代遺跡』と言えば、この前、王都の教会にある図書室にあった、『世界の謎』に掲載されていた項目の一つだ。巨大なアナゴンダの出現した場所にて、古代遺跡が発見された。これは、偶然なのか?
「なあ、アイザック。『古代遺跡』って、『世界の謎』の1つなんだろ?」
俺がアイザックに質問すると、アイザックとギルド長は、かなり驚いていた。
「なんだと、カイン。お前、古代遺跡について、何か知っているのか?」
アイザックは、俺の肩を揺さぶりながら、かなり興奮している。
「いや、知っているも何も、俺は、王都の教会の図書室で、『世界の謎』という本を見つけただけだ。目次に、そんな項目があったんだ。俺が知っているのは、これだけだよ。」
俺がそう答えると、アイザックは俺から離れ、椅子に座り溜め息を吐いた。
「そうか。興奮してすまなかったな。なあ、ギルド長、『古代遺跡』が発見されたことは、王城へ報告したのか?」
「いや、まだだ。これから報告に行くところだ。その時に、巨大なアナゴンダの事や、ワイルドボアの大群の件も、合わせて報告しようと思う。最近、今までに無いことが連続で起こりすぎているんだ。
『古代遺跡』と聞けば、さすがに王城の職員達も、話を聞いてくれるだろう。
お前達3人も、一緒に来てくれ。今回の巨大なアナゴンダに直接対峙したのは、お前達だけなんだから。」
ギルド長の話によると、『古代遺跡』が発見された時は、王城に報告する義務があるらしいのだ。この国の法律で決まっていることだという。古代遺跡には、過去の遺産が眠っている場合があり、王都の貴族達は、一般市民に渡すことなく独占したいから、というのが真実らしいのだ。
今までの話を聞いてきて、この国の貴族達は、なんて心の狭い、幼稚な支配欲の持ち主なんだろうかと、俺は軽蔑するように思ってしまった。
冒険者のランクSのシステムも、誰でも貴族になれるチャンスがあるという餌をぶら下げることで、一般市民からの不満を打ち消しているように感じた。それよりも、一番恐ろしいのは、ウルプスの住民は、これが当たり前の事だと思っており、貴族の理不尽なシステムに対して、誰も疑問に思っていないことだった。
俺は、成長素質がオール1だったせいで、『ビーラム』から、一歩も外に出ることなく生きていたから、貴族の事を知らなかった。ある意味、そのお陰で、貴族の理不尽なシステムに疑問を抱けている。
この事を疑問に思えることは、俺にとって、大きな強みになると、実感させられた。




